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第八章 鬼の面
8-1 物の怪
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突然の再会と言うべきか。命を助けたくれた不審者というものに、どう対応すべきなのか分からず、美邑は未だ震える身体を抱き締めながら、呆然とその人を見つめた。
「朱金丸、さん」
名前を呼ばれたことを不審に思ったのか、朱金丸は不機嫌な声で、「昊千代の奴か」と一人呟いた。
「勝手に、ヒトの名を」
「あ、その。すみません」
なんとなく頭を下げる美邑に、朱金丸は訝しげな視線を向けてきた。
「何故、貴様が謝る」
「だって、怒ってるから……」
肩をすくめつつ、小さな声で言い返すと、今度は大仰な溜息をつかれた。謝ってるのに、と少しムッとするが、得体の知れない相手に怒ったところで仕方がないと、自分に言い聞かせる。そもそも、この男に命を助けられたばかりではないか。そんな相手に、短気になるのは良くないだろう。
「あの、その。ありがとうございました」
ようやく震えもおさまった身体で、ぺこりと頭を下げる。そもそも、これを一番に言うべきではあったのだ。だが、頭を上げて見た朱金丸からは、未だ不機嫌そうな空気が感じられた。
「あの……?」
「――ナラズに追いかけられたか」
「え?」
意味が分からず、美邑は思わず訊き返した。朱金丸は、顎で下を示すと、「異形のモノに追いかけられただろう」と軽い口調でつけ加えた。
「ナラズ――成り損ないの、物の怪の滓かすのようなものだ。大方、貴様を仲間だと思って、取り込もうとしたのだろう。逃げたのは正解だったな」
「は? え?」
おそらく、朱金丸は今までで一番饒舌に語ってはいたが、聞けば聞くほどに訳が分からず、美邑は頓狂な声を上げた。
「モノノケ……って。あの、ちょっと意味が」
「未だ自覚がなかったか」
深々と溜め息をつかれ、美邑はさすがにむっとした。自覚もなにも、そもそも話している内容自体が意味不明なのだ。いくらか苛立ちを込めて、口を開く。
「あの。だから、モノノケ、とか。なんなんですかいったい」
「物の怪――自然物や動物、あるいは人間が変異を起こし、この世の理から外れたモノのことだ」
「変異」だの「この世の理」だの、ますますわけが分からず、美邑は顔をしかめた。とんでもテレビ番組で、オカルトの解説をするその筋の「有識者」のように、朱金丸の声音は実に真面目だ。ふざけて言っているわけではないらしい。
そんな美邑の胸中を見透かしてか――朱金丸は、仮面の奥の目を、じっと美邑に向けた。
「本当は、分かっているんだろう?」
「え?」
なにを、と言いかけるが。その前に朱金丸が言葉を続ける。
「自分が、本当は人間ではないと」
「朱金丸、さん」
名前を呼ばれたことを不審に思ったのか、朱金丸は不機嫌な声で、「昊千代の奴か」と一人呟いた。
「勝手に、ヒトの名を」
「あ、その。すみません」
なんとなく頭を下げる美邑に、朱金丸は訝しげな視線を向けてきた。
「何故、貴様が謝る」
「だって、怒ってるから……」
肩をすくめつつ、小さな声で言い返すと、今度は大仰な溜息をつかれた。謝ってるのに、と少しムッとするが、得体の知れない相手に怒ったところで仕方がないと、自分に言い聞かせる。そもそも、この男に命を助けられたばかりではないか。そんな相手に、短気になるのは良くないだろう。
「あの、その。ありがとうございました」
ようやく震えもおさまった身体で、ぺこりと頭を下げる。そもそも、これを一番に言うべきではあったのだ。だが、頭を上げて見た朱金丸からは、未だ不機嫌そうな空気が感じられた。
「あの……?」
「――ナラズに追いかけられたか」
「え?」
意味が分からず、美邑は思わず訊き返した。朱金丸は、顎で下を示すと、「異形のモノに追いかけられただろう」と軽い口調でつけ加えた。
「ナラズ――成り損ないの、物の怪の滓かすのようなものだ。大方、貴様を仲間だと思って、取り込もうとしたのだろう。逃げたのは正解だったな」
「は? え?」
おそらく、朱金丸は今までで一番饒舌に語ってはいたが、聞けば聞くほどに訳が分からず、美邑は頓狂な声を上げた。
「モノノケ……って。あの、ちょっと意味が」
「未だ自覚がなかったか」
深々と溜め息をつかれ、美邑はさすがにむっとした。自覚もなにも、そもそも話している内容自体が意味不明なのだ。いくらか苛立ちを込めて、口を開く。
「あの。だから、モノノケ、とか。なんなんですかいったい」
「物の怪――自然物や動物、あるいは人間が変異を起こし、この世の理から外れたモノのことだ」
「変異」だの「この世の理」だの、ますますわけが分からず、美邑は顔をしかめた。とんでもテレビ番組で、オカルトの解説をするその筋の「有識者」のように、朱金丸の声音は実に真面目だ。ふざけて言っているわけではないらしい。
そんな美邑の胸中を見透かしてか――朱金丸は、仮面の奥の目を、じっと美邑に向けた。
「本当は、分かっているんだろう?」
「え?」
なにを、と言いかけるが。その前に朱金丸が言葉を続ける。
「自分が、本当は人間ではないと」
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