Another Dystopia

PIERO

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2033年6月 進む運命(中)

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 路地裏におびき寄せたのはいいが、目の前の敵の数が多すぎる。雪花に至っては二十人もいる。万が一のために俺は警察を呼ぼうと考え、電話を取り出す。直後、雪花に手首を掴まれる。

「やめておけ。FRが関わっているなら警察をあてにしても無駄だ。
おそらく手をまわしているだろう」

「警察にも手が回っているのは初耳です」

 俺は素直に電話をします。しかし、逆に言えば大事になってもある程度は問題ないということだろう。それを承知だからこそ雪花は再起不能にさせようとしているのだろう。

「作戦会議は終わりか?」

 集団の一人がそう俺たちに問いかける。大人数だからこそずいぶんと余裕がありそうに見えるが、俺の目から見てもはっきりとわかることがあった。

「…弱いな」

「ああ?なんだとこら!?」

 もちろん、この場にいる中で最弱は俺だろう。だが、俺は色んな目に遭い、色んな人を見続けてきたからこそわかる。弱いものほどよく吠えるとは言い例えだと思う。加えてチンピラのような言葉に少し笑いそうになってしまう。

「弁田君。意外と胆力あるのね…」

「いや、俺も色んな目に遭ってきたからこれくらいなら笑うぐらいの余裕はあるなって。
ああ、勘違いしないでほしいが俺は弱いからな」

「よく知ってるわよ」

 するとしびれを切らしたチンピラ風の男が角材をもって脳天にめがけて殴りかかってくる。何もしなければ病院生活はまず間違いないだろう。だが、白橋はその角材を拳で殴り、破壊する。
 俺もチンピラも一瞬何が起きたのか理解できなかった。直後白橋はチンピラの顔面に向かって拳を振るう。すると面白いぐらいにチンピラが吹き飛び、他の仲間も巻き沿いを受ける。殴られたチンピラは鼻が曲がり、白目をむいて気絶していた。

「…まじか。前から強いとは思っていたが…。え、白橋ってこんなに強かったの?」

 すると白橋はそのまま集団に突っ込み、一人、また一人と殴り倒していく。拳を振るうたびにゴウっという音が聞こえる。拳を振るう音じゃない。趣味でボクシングをしているとは知っていたが、ここまで強いとは思ってもいなかった。

「弁田君。彼女は何者だ?」

「え、あ雪花さん。白橋ですうちの会社のメンバーの」

「…そうか。チンピラ程度とはいえ一人であそこまでやるとは…」

 そうしている間に残り一人のチンピラも倒れる。白橋は背を伸ばして何事もなかったかのように俺たちのところに戻ってくる。
 呼吸すら乱れていない白橋を見て俺は改めて絶対に白橋だけには喧嘩を売らないようにしようと決意する。

「言っておくけど、私は自衛目的以外じゃあこんなことはしないわよ」

「過剰防衛の間違いじゃないか?まあいい。それで雪花さん邪魔者もいなくなったわけですし、別の場所で続きを話してもらえませんか」

「わかった。じゃあさっさと逃げよう。万が一堅気に見られたらたまったもんじゃない」

 俺たちはこの場からさっさと立ち去る。この場を目撃されるのは少々まずい気がするが、幸いにもそんなことはなかった。
 別の場所、先ほどの喫茶店から少し離れた喫茶店に到着した俺はふと気になることを思い出す。

「そういえば、何であそこではたらいているんですか?」

「あの喫茶店は小林組が結成時に最初に作った店だからだ。そしてその店の店長がたまたま俺だったというだけの話しだ。ちなみにこの店もそうだ」

 店内に入った直後、雪花は店員に何かを注文した後、空いている席に腰をゆっくりと下ろした。対話をする気になったことを確認し、俺は早速本題に入る。

「さっきの質問の続きですが、どうすれば小林佐夜を円滑に当主にすることができますか」

「方法は二つ。一つは佐夜が当主になることを不満に思っている輩を直接消すこと。
もう一つはその後ろ盾を消し、何もさせなくする方法」

「前者は却下です。うちのメンバーにそういう役割を押し付けるわけにはいかない。
となると後者ですね。後ろ盾、FRを消すことが最善ということでしょうか」

「俺も同じ考えだ。いくら不満に思っている輩とはいえ、消した後の穴は大きい。下手したら組織そのものが終わる。
だが俺は常に佐夜を守る必要がある。それを実行することは不可能に近い」

すると先ほど雪花が注文したものが届く。どうやらいちごパフェを注文していたようだ。雪花はそれを食べ始める。どうやら好みだったらしく、若干嬉しそうに感じる。

「パフェ、好きなんですか?」

「まあな。正確にはパフェが好きというよりはこのパフェに思い入れがあるというべきだな。
それよりもだ。解決方法は伝えた。後はお前らで手段を考えろ。質問があるならこれを食べ終える前にしろ」

「じゃあ一つ目。当主の座を狙っている奴の首謀者の名前について詳しく」

「赤沢という奴だ。権力、金、女が好きな最低最悪の豚だ。性格は絵にかいたような悪代官と考えてくればいい」

 赤沢。俺はその名前をメモ帳に書き止め、次の質問に入る。

「では、次の質問です。
最近、何か届いたものはありますか」

「…すまないがそれは知らない。仮に知っているとしたら赤沢の息がかかった部下だけだろう。
それは佐夜を脅かすものなのか?」

「脅かすものです。
いや、下手したら小林組そのものが消し飛ぶほどの代物です。見つけても絶対に手を出さないようにしてください」

 雪花の様子を見る限り、本当に知らないのだろう。もし、何が入っているのか知っていればすぐに処理するはずだろう。
 他に質問らしいものは特にないため、これで終わりにしようと考えたが、白橋が雪花に尋ねる。

「ちょっとこの雰囲気で尋ねるのもあれだけど、雪花さんと佐夜っていつから婚約が決まったんですか?」

 その質問に俺は一瞬何を言っているのか理解できなかった。雪花も予想外の質問にせっかく食べていたパフェを詰まらせのかむせている。
 場を和ませる質問としてはいいチョイスだと思うが、流石にタイミングを計ってほしいと思った。すると俺の心を読んだのか白橋は少しすねる。

「だって、気になるでしょう。私だって婚約者がいるなんてこの前知ったばかりだし、何より、どんな経緯があって婚約に至ったのかとか。
私の勝手なイメージだけど、そういうのって他の組織とっていう感じっぽいし…」

「まあ、な。気にならないわけじゃないが…」

 その様子に雪花も溜息をついていた。加えてやや呆れている。少し申し訳ないと思いつつも雪花はパフェを食べる。

「その質問は受け付けない。他には?」

「じゃあ、佐夜の好きなところは?何に惹かれたの?」

「彼女の全てだ。他には?」

「うわ。さらっと言えちゃうんだ。えっと…あとは…」

 これ以上白橋に話させると脱線しそうになりそうな予感がする。いや、既に脱線しているだろう。わざと大きな咳をして二人の会話を途切れさせる。

「白橋。そのスイーツ脳対談は全て解決してからにしてくれ。
まあ、聞きたいことは大体聞き終わりました。逆に聞きたいことはありますか」

「そうだな。ずいぶんとお前たちは仲がいいが、付き合っているのか」

「いや、お前もかよ。いい加減その思考から離れろ。
っと、失礼。質問の答えですが、白橋は大学の頃からの縁で一緒に会社を立ち上げようとした最初期のメンバーの一人です。
雪花さんが思っているような関係ではありませんよ」

 雪花はただ一言「そうか」で済ます。少し哀れみを含んだ視線で俺を見ていたのは一体どういう意図なのだろうか。まあ、別にそれはどうでもいい。
 質問が終わり、俺は席を立つ。もうここに用はない。アスクレピオスの指示通り、雪花には忠告と情報を渡した。あとはこれから起こる事態に向けて備えるだけだ。
 店を出ようとしたところで、俺はふと一つ提案を考える。作戦のではない。全てが終わってからの話である。

「最後に一ついいですか?」

「何だ」

「全てが終わったら、うちで祝勝会します。その時は佐夜と一緒に来てください」

「俺は行かないよ。
だが、佐夜が望むなら俺も同行しよう」

 その約束を最後に俺たちは店を後にする。長い張り込みが終わり、ようやく部屋に帰れると思った矢先、がっしりと肩を掴まれる。
 振り返ると、掴んだのは白橋のようだ。やけに笑顔だ。同時に恐怖を感じた。

「し、白橋さん?俺は別に何もしてないと思うんだけど…」

「あら?本当に?記憶にないかしら?
少なくとも、私は『小林佐夜を当主にする』なんて聞いてないんだけど?
ねえ、説明、してくれる、わよね?」

 今更ながら、嘉祥寺が白橋に問い詰められる気持ちを理解した。こんな風に問い詰められるならば、確かに吐いてしまうだろう。

「ま、まて。とりあえず話さないか?そうじゃないと…」

「とりあえず、歯、食いしばって」

 直後、顔面に鋭い痛みを感じると同時に意識が断たれる。幸いなのは痛みを感じる間もなく意識を失ったことだろう。



「それじゃあ、早速どういうわけかみんなと一緒に聞こうかしら」

「あ、はい」

 意識を失った俺は白橋に運ばれ、自宅に到着していた。しかし、目覚めてみると俺の体は椅子と一緒に全身にロープを巻かれ身動き一つできない状態だった。
 周囲を見渡すと、研究室のメンバーも含めて全員が集まっていた。
 白橋曰く、これから尋問するからと伝えた後、全員集合したらしい。

「ふ、我が戦友ベクターよ。
デートの結果としては随分と無様だな。
何故竜の逆鱗に触れたのだ?」

「まあ、当初の計画を変えることを秘密にしていたもので…。
滅相もございません」

 流石にへこむ。こんな醜態をさらして皆に尋問されるのがここまできついとは思わなかった。これならまだFRに拉致られて劇薬を投与されていたほうがましだ。
 するとパシャリと写真を撮られる。音の発生源は中田のスマホからだった。

「ははは!笑える。全員集合と聞かされ少し嫌気がさしたが、これはいいものを見れた!
ははは!あー腹いてー」

「うるさい!そしてその写真を今すぐ消せ!」

「いやに消すわけないだろう。馬鹿か?」

 今がチャンスだと思ったのか、中田は煽り始める。まるで子供のような煽り方だが、それだけでも俺の精神はがりがりと削られる。

「ああ…屈辱だ…」

「まあ、弁田君の自業自得だね」

 苦笑いで聖先輩は同している。もう、死にたい。そう思った矢先、パンっと空気が割れる音が響く。どうやら白橋が手を叩いたようだった。
 既にメンバーが全員揃ってたため本題に入ろうとしているのだろう。
 そして会話は冒頭に戻る。

「まあ、俺なりに考えたんだ。小林が一番な安全な策って何だろうなって。
確かに、小林を組織から連れ出せば一時的には安全だろう。だが、一時だけだ。隙を見て小林を殺そうとするかもしれない。
だからそれを防ぐために、小林には当主になって組織の内部に手を出せないようにする。それが俺が考えていた作戦だ」

「で、何でその作戦を私たちに伝えなかったわけ?
返答次第だと、ぶっ飛ばすわよ?」

「いや、もうぶっ飛ばしているだろ。
伝えなかった理由は二つ。単純にこうして皆と話し合う時期が合わなかったから」

「それ、私に言ってくれれば一発で解決できるわ。
で?次の理由は?」

「次は…単純に失念していました」

 瞬間、俺の視界が回転するそして俺の顔に何かがぶつかる。即座に情報を整理すると、どうやら椅子を蹴られたらしく、それが理由で転倒してしまったようだ。
 しかし、問題は白橋だ。どうやらかなりご立腹のようだ。

「研究に没頭しすぎて忘れちゃったのかしら?報連相、覚えてる」

「オ、オボエテイマス…」

「そう。じゃあ、次はないわ。
ちゃんと、れんらく、しなさい。
わかった?」

 イエッサー。と俺は返事すると白橋は拘束していたロープをほどき、改めて自由の身になった。二度とこの恐怖を味わないようにと誓い、改めて皆の前に立つ。

「本当に申し訳なかった!」

「我が戦友よ。
いや、キョウカンの恐怖を味わったならば兄弟とこれから呼ぼう。
今後、その情報が我らの命取りになる可能性がある。
我が身を大切にしたいならば肝に銘じておくのだな」

 身をもって味わった恐怖を学習した俺は激しく頷くことで嘉祥寺に同意する。できればこんな恐怖は二度と味わいたくいない。そう決心した。
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