トラに花々

野中

文字の大きさ
57 / 197

日誌・56 金色(R15)

しおりを挟む
(それに、…たぶん)
出会った当初から、性格的なところもあり、体格ができているように思えたため、大人びて見えたが。
恭也はおそらく、雪虎から見て、五歳は年下だろう。
それが分かるから、抑え込むようにして勝とうと言う気は起きない。

なんとなく、降参に似た気分で、雪虎は尋ねる。
「お前」
以前から、うっすらと察してはいたが。


「俺を抱きたいのか?」


―――――今まで。
それを確認して、どうなる、というものでもないのから。
尋ねようと言う気も起きなかったのに。

恭也が見せる余裕のない表情のせいで、とうとう、聞いてしまった。

間髪入れず、恭也は掠れた声で、一言。






「犯したい」





言葉選びとは。









一瞬、呆れたが。…まあ、これが恭也だ。

にしても、解せない。
恭也が本気でそうしたいと思うなら、雪虎など簡単に組み敷けるだろう。
出会ったばかりの頃ならともかく、今は身長も体格も、恭也の方が上だ。
相手を圧倒する暴力性もまた。
にもかかわらず、恭也が選んだのは。

―――――雪虎に身体を明け渡すこと。

今とて、結局。



挿入する気がないことは、分かる。



こんな弱い存在である雪虎に、恭也のような個としての強者が、簡単に動揺するのは、良くない状況だ。
なぜ雪虎なのか、と。
恭也に聞くのは、…酷な話だろう。
きっと―――――雪虎しかいなかったのだ。

雪虎から見れば悪趣味と思っても、他に比べる対象がいない世界に恭也はいるのだから、下手なことをは口にできない。

「トラさん」
息を弾ませながら、苦し気に眉根を寄せ、恭也が唇を雪虎の耳に這わせる。
次いで、甘いもののように、肌の上を、ねっとりと、…舌が。


ぞくり、と快感が背中を撫で上げ、―――――…ずしり、と快感が下腹にたまっていく。


―――――これは、よくない。絆されそうになる。
受け身の時は、遊び慣れた態度でこちらを翻弄してくるくせに。
オスとして振る舞うときは、…こんなふうになる、とは。

切り替えるように、雪虎は思い切って、声を上げた。


「時間が」


とたん、ぴくりと恭也の腕が震え、拘束が緩んだ。
「…ないんだろう、が」
これ幸いと、雪虎は。
恭也の腕の中で、身体の向きを変えた。

腕を伸ばし、恭也の身体を引き寄せ、
「…っ」


すっかりその気になった下半身。


その、濡れた、先端と、…先端を。


挨拶を交わすように、くに、と一度押し付け合って。
軽く離せば。

ねち、と先走りが透明な糸で互いを繋いだ。その体液が。
…ぬとり。

陰茎を、伝い、落ちる。


そのわずかな感覚にすら、背筋が震えそうになった。


その時になって、気付く。
(…金色?)
恭也の下の色が、髪色と違っていた。

今まで気づかなかったのは、暗い場所で性急に身体をつなげていたせいだろう。
しかも、常に。―――――獣の体勢だった。

つまりは、恭也の後ろから突いていたわけで。
いや、たまにならあった気もするが。

明るい中で、しかも真正面から向き合って、という体勢は初めてという事実に気付いて、雪虎は自分のダメさ加減に内心で少し落ち込んだ。
なんとなく、上目遣いで恭也を見上げる。
刹那、もうひとつ発見があった。

…恭也は睫毛も金色だ。

こうなれば、―――――髪は染めているのだろうか? だが不自然な感じはない。では。
見た通りなら、髪は黒で、他は金、ということになるが。


(こいつ、どれだけ人種が混じってんだ?)


今度はつい、まじまじと恭也を見つめた。
「…トラさ」
雪虎の視線に、居心地悪そうに身じろいだ恭也を、今度は挑戦的に見上げ、笑ってみせる。

「どっちにしろ、このままじゃ」

ぐ、と唆すように、腰を押し付け、動かした。性器がこすれ合い、―――――たまらなく気持ちがいい。
ああ、待ち焦がれた。



強い、刺激。



感じるまま、眉根を寄せた。その表情に、恭也が息を呑む。
「外、歩けない、…だろうが…っ」
刹那、雪虎の語尾を飲み込むように。

恭也が両手で顔を包み込み、―――――口づけた。

その、両手が。



他人の命をゴミように扱うものだと知っている。なのに。



大切なもののように扱ってくるこの手が、簡単にそうできるシロモノとは、どうしても思えなかった。
ぬるり、すぐに、恭也の舌が雪虎の歯列を割って入りこむ。
雪虎は抵抗なく舌を絡めた。急くような動きを宥めるようにしながら、一方で。

恭也の腰を強く引き寄せた。

立ったまま―――――恭也の腰に、乗りあがるように、して。
腰を上下に動かす。陰茎をこすり合わせる。
相手が上に動かせば、一方は下へ。

共に、快楽を追って、互いを追い立てる。
「は…っ」
「ふ、ぅ」
二人が揃って、問題がなくなれば、もうすぐここへ人が戻ってくるだろう。
そうなる前に立ち去らなくてはならないのに、そういった焦りすら、刺激になるのだから、雪虎は大概ろくでなしだ。

すぐ、そういった気持ちすら、気持ち良さでぐずぐずになった。

「トラさん…っ」
特別なもののように名を呼ぶ恭也と額を合わせ、動きを速める。
夢中になって、互いに互いを追い立てた。
けれど。
知っている。

―――――…勘違いしてはいけない。

今、恭也が。
雪虎に執着するのは、普通に触れられる相手が雪虎しかいないからだ。


世界が広がれば、簡単に、雪虎を置いていくだろう。…それが正しい。



今が、間違いだ。



だから。
(もし俺が、本当の意味で、どうにかして…手助けしてやれるなら)
してやりたいのにな、と。
自分勝手に、思う。

どうせ、雪虎のことだ。




…最後まで責任なんて、―――――取れもしないくせに。








しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

【創作BL】溺愛攻め短編集

めめもっち
BL
基本名無し。多くがクール受け。各章独立した世界観です。単発投稿まとめ。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...