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日誌・117 恋愛相談(仮)
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こんばんは。
ボクはしがない武器商人。
地元で地道に安全にコツコツ仕事を請け負っている毎日だ。
武器が流通した結果、どうなろうが先のことは知ったことではない。
金になればそれでいい。そして、手渡した時点で、かかわりは終わりだ。
武器とも人間とも。
糸は切れる。
それなのに。
『やあ、久しぶりだね、みんな』
仕事上がりに酒を飲みながらの、仲間内のビデオ通話に。
その男は姿を見せた。
―――――相変わらず、野を駆ける獣のように、野性美溢れる顔立ち。非現実的な美貌。漆黒の髪に、鮮やかな碧眼。
夜中に、いきなり太陽でも目にした心地で、彼は目を細める。同時に。
いっきに、覚める酔い。
心中、絶叫。
(やっべえええええ)
いや何も、彼はこの男に対して、悪いことなどしていない。
だが顔を見せるだけで、存在感が桁違いだ。
おかげで、すぐ隠れたくなってしまうのだ。
彼が背中を冷たい汗で濡らしている間にも、他の仲間が盛り上がる。
『キョーヤじゃないか!』
『相変わらず男前だな、カザミ』
風見恭也。
通話の参加者の中には、彼がどんな存在か知っている者もいた。
知らない者は、ただ陽気に迎え入れ、知っている者は、緊張と期待を混ぜて彼を見遣る。
次々と挨拶を交わしていく恭也を見ながら、彼は顔だけでなく全身を強張らせた。
恭也の正体を知らない者は幸運だ。
陽気で気のいい感じで挨拶を交わす彼は、一見、人のいい青年。その正体は。
破滅の死神。
電話など通信機器での対話ならば問題なく普通の人間と同じだが、実際に会えば最後。
その人間は破滅する。
だけでなく、人懐こく笑った次の瞬間、恭也は笑顔を向けた相手を平気で殺せる人間だ。
気軽に、それぞれが手にした酒の話から入っていくのに、彼は繊細な配慮をしながら恭也の様子を窺う。
今日はまだ、機嫌がいい方だ。
望んだことではないが、付き合いが長いからこそわかる。
常に微笑を絶やさないから分かりにくいが、今日の笑顔は本物だった。
誰かが、恭也に尋ねる。
『キミがいるなら、そこにクロユリもいるだろう』
間髪入れず、別の誰かが便乗した。
『出ておいで、子猫ちゃん』
からかう口調で口々に言うのに、恭也が画面外に声をかける。
『だってさ。…え? はいはい、わかったよ』
すぐ、彼は呆れた態度で肩を竦める。
はじめて会った時は、美少女と見紛うほどだった恭也の美貌は、今日改めてみれば、すっかり精悍になっていた。いくらうつくしくとも、男性の輪郭だ。
もう、女の子と勘違いされることはないだろう。
どんな言葉を返されたか、笑いをこらえる顔で画面に向き直った恭也に対して、
『何を言われたか当ててやろうか』
誰かが言ったのに、複数の声が重なった。
『酔っぱらいは嫌いです』
そして、げらげら続く無遠慮な笑い声。こういった煩さも、黒百合が嫌うところだ。
基本、無表情だというのに、おそらく今彼女はしかめ面をしていると、想像がついた。きっと、そんな表情も凶悪に愛らしい。
もちろん、彼も黒百合のファンである。
そう思えば、ただ聞いているだけだった彼も幾分気持ちが和んできた。
ああ、平和だ。
ようやく気分が落ち着いたところで、彼は思いきって口を開いた。
「ところで、何か用事があって顔出したんだろ? 誰に何の用?」
聞きたいことがあるならどうぞ、と彼は促す。
和気あいあいとした雰囲気の中で聞いたのは、彼なりの予防線だった。
どうか、問題は大勢がいる場所で提起してほしい。一対一で聞くのは怖すぎる。
もちろん。
後悔するのはすぐだった。
『うん、キミにね、色々聞きたいことがあるんだけど』
ふうん、ボクに―――――いろいろ?
恭也の返事は、朗らかだ。
対して聞いた彼の心はいっきに蒼白になる。
色々ってなに。
できれば一つに絞ってくれないか。
土下座して懇願するからさ!
が、残念ながらできる場面ではなかった。
ちょっと胃薬を用意してきたい。胸をおさえた彼に構わず、恭也は口を開いた。
『ほらこの間話しただろ、ぼく好きな人ができたって』
危うく、口に含んだビールをパソコン画面に噴き出しそうになったのは、何も彼だけではなかったはずだ。
覚えていた。
忘れたかったが。
なにせ、彼の耳に、その言葉は。
ぼく、とっても殺したい人がいるんだ。
という台詞に変換されていたからだ。
え、なに?
これから、相手をどんなふうに始末したかの話が始まるの?
それともまだ殺せないんだ、とかいう話になるの?
ここで無残な話は開示されないだろうが、咄嗟に固唾を呑んだ彼の耳に。
『その人と、今度旅行に行けるかもしれないんだ』
はにかんだ恭也の口から、まったく別の方向性の言葉が飛び出す。
―――――うん?
あまりに普通の話過ぎて、逆に違和感が半端ない。
黙っていれば、画面の中の恭也は、徐々に難しい顔になっていく。
『手筈はぼくに任せてくれるらしいんだけど。…ちょっとこういう話は、黒百合じゃマニュアル的すぎて参考にならない。どんなことすれば、気に入ってもらえるかなぁ』
柳眉を潜めた恭也に、今度は、彼は口の端からビールをこぼしそうになる。
汚くて申し訳ない。
しかし、本気で唖然となった。
え。まさか。これって。
…本当に、字面通りの、恋愛相談なの?
あり得ない。
彼は頭を抱えそうになった。
―――――だって、あの死神だよ?
会った相手を破滅させる、そして抱いた相手は全員死に至らしめた、不吉の塊の悪魔憑き。
そんな男が。
誰かと旅行。
―――――え、無理心中?
言いさし、危うく、堪えた。
固まった何人かを差し置いて、恭也の正体を知らない連中がいっきに盛り上がる。
『へえ、どんな女だ。国籍は? 可愛いか? 美人か?』
『気に入ってほしいのか、可愛い悩みだな!』
『相手の好みとかは押さえてんのか?』
好き勝手な言いようだが、興味を持って、皆、それなりに答えようとしていた。
『ん、日本人。整った容姿だよ。どっちかって言うと、美人系かな。でも家庭的でさ。ちょっと性格が古風』
『日本人で古風…だったら、礼儀作法には煩そうだな』
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