駆け出せ、メグミ 〜裸の性、裸の生き様〜

寸陳ハウスのオカア・ハン

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第5話 本気のセックス

 その日、夏の日差しは痛いほど暑かった。

 倉庫街にある撮影スタジオ。殺風景なタイルに、ローション撮影専用の浅いバスタブ。換気扇の音はうるさく、天井は低い。冷暖房は弱く、室内は蒸している。

 企画内容は『ローション風呂』。
 ローション風呂を中心にセックスする。ただそれだけ。ローションのぬるぬるを楽しみながら、女の子の無邪気でリラックスした絡みを撮る、わりと緩めのシリーズである。

 監督は、トミタカという初老の男だった。頑固なラーメン屋のような風貌に、無駄のない指示。業界内では、どんな内容でも作品をエロくできると評価される監督である。

 挨拶のあと、メグミは思い切って言葉を続けた。

「あの……どうしたら見てる人に届くセックスって、できるんでしょうか?」

 メグミは探りながら、しかし踏み込んだ。監督は一瞬考えてから、短く言った。

「演技か本気か、視聴者は見抜く。それだけだよ」

 一瞬、心臓がきゅっと縮んだ。
 全部、見抜かれていたんだろうか──メグミは頷くことしかできなかった。

 相手の男優のハセとは、控室の隣で鉢合わせた。
 過去に一度、絡みがあった。多くは話さなかったが、しっかり女性を見てくれる人、という認識があった。

 だから聞いてみた。
 メグミが「今日、ちゃんとやりたくて……」と話すと、彼は苦笑して言った。

「ちゃんとって何?」

「その、演技じゃなくて、本気で感じて……見せたい、というか……」

 彼は肩をすくめて、水を一口飲んだあと、言った。

「……プライベートでも仕事でもいいけど、イッたことってある?」

 答えに詰まったメグミを見て、彼はふっと息を吐いた。

「本当に気持ちよくなってる女の子の姿って、それだけで観てる人の心に届くものだよ」

 鼓動が、少しだけ大きく動いた。
 セックスはしていた。ちゃんと濡れていたし、感じていた──でも、満ち足りたことはなかった。

「今日の撮影、よろしくね」
 ハセの微笑みに、メグミは「はい」と答えた。

 このとき、メグミの中でひとつの願望が生まれた。それは、自分の思いを表現するための手段ではなく、「本気で気持ちよくなるセックスがしたい」という渇望だった。


***


 ふたりで入るローション風呂は、想像よりずっと狭かった。

 半透明のローションが、どろりと粘りを保ったまま張られている。ぬるぬるで、つるつる。ほんのりと湯気が立っていて、空気は甘く、重たい。

 初めてのローションプレイ。

 男優の手が、そっとメグミの肩に触れる。ローションがぬるりと流れ、ぬめりが背筋に沿って落ちていく。
 キス。ぬるぬるの唇が触れる。違う──いつもと、何かが違う。
 ぬるくて、でも熱い。肌が火照っているのか、ローションの温度が移っているのか、自分でもわからない。

 ローションの膜を通して、男優の指が、滑るように下腹部へ向かってくる。
 普段ならゾクッとするようなタイミングなのに、粘液越しでは、感覚が一瞬遅れて届く。でも、届いた瞬間は、鋭い。
 男優の指が、メグミのクリトリスをすくい上げ、滑るように撫でる。ローションの膜のせいで、どこが自分の肌で、どこが男優の肌なのか、曖昧になっていく。

 ローションの中で男優と抱き合いながら、メグミは表情を作った。「感じてる風」ではなく、「本気で気持ちよくなる」瞬間を描きながら。

 しかし、そう思えば思うほど、ローションの熱で火照る肌とは反対に、身体の内側は冷たくなった。
 胸を揉まれ、乳首を舐められる。脚を開いて、指で膣口アソコをいじられる。快感に喘ぎ、カメラに視線を送る。でも、まだ演技。感じる表現に過ぎない。

 ──それでも、どこかで、もう一歩先に行きたかった。今日こそ、仮面を突き破りたかった。

 そのときだった。両手でメグミのアソコをいじる男優が、少し指の角度を変えた。

 その瞬間、奥の方が妙にこすれて、びくんと身体が跳ねた。

「あっ……」

 声が漏れた。意図しない音。自分でも驚くくらいの響き。

 熱い。重たい。やわらかい。ぐにゃぐにゃしてるのに、確かに男の人が、自分に触れてる。

 照明の熱が額ににじむ。カメラは回っている。でも、どこか遠い。

 男優がリズムを少し変える。背後から、舌がローションまみれのおしりを舐め、アナルにも触れる。膣内 なか、クリトリスと3点を同時に責められ、自分の奥に響く感覚が一気に増幅する。

「ん、や……ちょっ……!」

 演技じゃない。演技で言ったことのないセリフが口からこぼれた。
 息が詰まり、ローションまみれの指がバスタブの縁を強く掴む。

「い……く、あっ、だめ、イッ……!」

 下腹がビクビク痙攣する。声が跳ねて、目の奥が真っ白になる。

 人生で初めて、自分の意思とは関係なく、絶頂という波が押し寄せた。

 へなへなと座り込むメグミの前に、男優のものが近づいてくる。

 メグミは、思わずくわえていた。
「……ん、んぐっ……♡」
 フェラ。ローションに唾液が混じり、粘りがやわらぐ。
 ローション越しでも、我慢汁のぬめりと味がわかった。興奮してくれた証拠だと思うと、なぜか嬉しくなった。

 トロトロになったアソコは、硬くなったものを待っていた。

 脚を開く。男優が腰を沈める。
 ぬめった膜の中を、太い肉が通っていく。メグミの奥に、それがゆっくりと、でも確実に入ってくる。

 動き出す。粘液が、押し流されるたびに泡立ち、撥ねる。
 音がいやらしい。ぴちゃぴちゃと、水ではない何かがぶつかる音が、天井に反響する。

 メグミは必死で、相手に身体を預けた。でも、ローションが間にあるせいで、きちんと抱きしめられている感覚にはならない。ずっと、くっついてるのに、どこか一枚、隔たっている。

(ちゃんと、抱き合いたい……。もっと、奥まで……)

 ずるずると動くたびに、ローションの膜が剥がれていく気がした。
 自分の中に、素の自分が顔を出してくる。
 仮面の下、ぬるぬるの中で、裸の何かが震えていた。

 カメラの存在なんて、もう忘れていた。

 動きに合わせて、体がひとつになっていく感覚。ローションが間にあるのに、それでもちゃんと入っているという感覚が、どうしようもなくいじらしく、妙に気持ちよかった。

「……すごい。……気持ちいい」

 その声は、もう演技ではなかった。

 立ちバックでは、自ら腰を振った。自分の中で一番気持ちいい場所を探すように。

 そして、彼の指がクリトリスに触れた瞬間──

「っ、だ、だめ……っ、あっ、ああっ、ああああっ……!!」

 自分でもびっくりするくらい、大きな声が出た。

 体が跳ねて、足の指が丸まって、意識が飛ぶ。

 ぼんやりとしたときの中、追い打つように腰を振る彼が、一瞬、動きを止めた。

膣内なかに、出すよ」

 合図。

「……はい♡」

 そのまま中で果てられて、メグミはまたピークに達した。


***


 ローション風呂の作品は、結局ヒットしなかった。
 レビュー欄も荒れず、褒められすぎもせず、静かに流れていった。でも、そこにはこんな一文があった。

『黒髪ロングの地味子、〇〇メグミ。他の女の子が笑っちゃってるような緩い企画で、唯一ガチでイッてる。感じやすいのか、演技じゃない気がして……抜けた!』

 メグミは、それを見て何も言えなかった。ただ、ちゃんと見てくれてる人がいたと思うと、胸がいっぱいになった。

 次の単体契約は来なかった。
 これからは、ワンランク下の企画女優として回されていくだろう。
 でも、メグミの中には確かに、「ちゃんと、本気で、気持ちよくなったセックスができた」という感触が残っていた。

 それは小さな種火だった。演技の奥で、仮面の裏で、「私はここにいる」と叫びたくなるような何かだった。

 次の撮影現場へと向かうとき、メグミは人生で初めて絶頂した瞬間を思い出し、心に描いた。

 誰かのためのセックスではない、自分の表現としてのセックスを、メグミは確かに掴んでいた。
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