駆け出せ、メグミ 〜裸の性、裸の生き様〜

寸陳ハウスのオカア・ハン

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第11話 ギャルの顔してギャルじゃない

 7月。例のビーチにて──。

 潮の香りが鼻をつき、風が日焼け止めの匂いを溶かしていく。
 灼けるような日差しの下、白い砂浜には、水着姿の女の子たちがずらりと並んでいた。

 黒マジックで手書きされた『大乱交スプラッシュギャルズSEX! トーナメント!』のプラカードが、例のビーチに掲げられる。

「はーい! みなさん、今日からよろしくお願いしまーす!」
 スタッフの掛け声に、20人近い女優たちがそれぞれバラバラに返事をする。ノリがいい子もいれば、無言で目線すら合わさない子もいる。海は眩しく、日差しは暴力的だ。

 メグミはその列の中にいた。前列の中央からやや端辺り。フリルの付いたちょっと際どい白ビキニにサングラス。メイクはいつもより派手めで、髪もストレートではなく強めに巻いている。

(このくらいはちゃんとやらないと……)

 メグミは、心に空いた穴を埋めるように、そう自分に言い聞かせた。

 春先の撮影のことだった。
 ルックス、笑顔、演技、技術、現場の空気……すべてにおいて自分を凌駕するAV女優・〇〇レイ。
 彼女との初共演で、圧倒的な差を見せつけられた。挨拶のときの柔らかな笑顔、撮影中の表情、手の動き、脚の角度、喘ぎ声の抑揚……どれも完璧だった。撮影ではレイの現場回しに掌握され、挙句、何度も絶頂に導かれた。

 ようやくAV女優として自信をつけ始めた現場で、メグミは負けた。完全に。

 撮影後、何とか平静を装って帰ったものの、家に帰ってからは、まる一日ぼーっとしていた。悔しいとか、悲しいとか、そんな感情すらうまく出てこなかった。ただ、空っぽだった。胸の奥に、誰かに見せたくない穴が空いていた。

 でも……スケジュールには予定がある。幸いなことに、仕事は、撮影はある。
 ギャラが出る限り、作品になる限り、カメラの前に立つ限り、ちゃんと演じる。AV女優・〇〇メグミとして。

 打ちのめされたからといって、部屋に引きこもって泣いてるわけにはいかない。そんな思いで、メグミはビーチに立っていた。

 今回の企画は『ビーチ×ギャル×大乱交』。
 黒ギャル枠10人、白ギャル枠10人、計20人もの女優を集めた夏の超大型企画。とは言っても、とりあえず人を集めただけの感じは拭えず、全体的に雑な雰囲気が漂っている。ギャラも安い。

(仮面だってわかってる。でも、仕事だから、今回は白ギャルっぽくなりきらないと)

 日焼けサロンを知らない生まれつきの肌。ブリーチやカラーも知らない生まれつきの黒髪。白ギャル、という看板を事務所から背負わされてこの撮影に呼ばれたが、いかにも「ギャルです」というギラギラした見た目の集団の中では、どこからどう見ても地味だと自分でも思った。

 横を見る。隣に並んでいるのは、胸元の開いた水色の水着に、だるそうな顔の女の子。

(この子……ギャルっていうより、ただの学生がナンパに付き合わされてる感じ……)

 金髪のショートウィッグ。雰囲気はおとなしいが、見た目は整っている。メイクもバッチリ。身体は、オスの射精欲をばっちり受け止める『安心安全安産型ヒップ』がチャームポイントか。
 だが、なぜか熱が感じられない。そんな第一印象だった。

 ふと、その女の子と目が合った。

「……ギャルって言われて来たんですよね?」
 その女の子が、ぽつりと漏らすように言った。
「……はい」
 メグミは曖昧に頷いた。すると、女の子は自嘲気味につぶやいた。
「ないですよねー、ギャル感。私たち」
 あまりに図星だったので、思わずメグミも笑ってしまった。

 見渡せば黒く焼けた肌、明るく染めた髪、強めのメイクにギラギラしたボディの「本職ギャル」たちが揃っている。自分と、そしてこの女の子は、その中で明らかに浮いていた。

「あの、メグミっていいます。○○メグミ」
「カナです。○○カナ」

 名前を交わす。それだけで、なんだか肩の力が抜けた。

(同じような子がいて、よかった……)

 ギャルとして呼ばれて、ギャルらしさを演じることに戸惑っていたのは、自分だけじゃなかった。そんな、ちょっとした共犯意識が、メグミの中に生まれていた。

「じゃあ、全体写真撮りますよー!」
 スタッフの掛け声に、メグミはすっとカメラに視線を向けた。
 初日の午後はスチール撮影のみ。まず、水着での集合写真。水着をずらした姿、ヌードも合わせて撮る。

 全体の集合写真が終わると、個別のポーズカット撮影に移る。
 スタッフが各グループに分けて撮影の指示を出しはじめる。まず、黒ギャル枠、白ギャル枠。次に、浜辺を走る組、ビーチボールで遊ぶ組、カメラ目線で煽る組……。

 強すぎる日差しと、多すぎる人数、バラバラの個性。スチール撮影だけなのに、現場にはどこかグダグダ感が漂う。

「メグミさん、こっちお願いしまーす!」
 カメラマンの指示に従い、砂浜や岩場でポーズを取る。
 波打ち際でバナナをくわえ、唾液で濡らし、そして股下に持っていき……。

 バナナをアソコの割れ目に当てると、カメラマンが「いいよ、その表情!」と声を上げた。

 おちんちんに見立てたバナナを使ってどう見せるかを必死で考えているうちに、気づけば「エロい白ギャルの顔」を作っていた。頭の中はおちんちんのことでいっぱいだった。
 最後、カメラマンから「バナナは食べていいですよ」と言われたが、性器に触れたものを食べるのは一瞬、躊躇った。でも、フェラ顔をもうワンカット撮りたいのだと悟って、メグミは頷いた。

 個別の撮影が一通り終わると、入れ違いで、ひときわ派手な水着姿の女性とすれ違った。

「おっ、メグミちゃん、やっと会えたね~! 久しぶり~!」
 ハルカだった。夏の太陽のような笑顔に、胡散臭い色付きデカ眼鏡。ブリーチしたアップバングの髪は、アニメキャラみたいなピンク。日焼けしたグラマラスボディに、紫色のテカテカマイクロビキニ。上も下もすでにいろいろはみ出ている。
「ハルちゃん。この前はいろいろありがとね」
「そんな気にしないでいいよぉー! あたしら一緒に撮影した仲間だし、もうセフレみたいなもんでしょ? 今回も一緒にいっぱいセックスしよう!」
「うん。今回もよろしくね」
「おう! メグミ! またたくさん気持ちよくなろーねー!」
 メグミが控えめに会釈をすると、ハルカはニッと笑って、どこかの女優に手を振って走り去っていった。

(……また大変な現場になりそう)

 ハルカは今日も元気に空気を歪ませているようだった。メグミは、ハルカの去っていく背中を見つめながら、妙な安心感と、ほんの少しの畏れを抱いた。

「さっきのすごい人、知り合い?」
 すでに個別撮影を終えていたカナが、隣で囁くように話しかけてくる。
「あ、うん。前に一緒に撮ったの」
「あの人、撮影前なのにいろいろエロすぎじゃない?」
「うん、まあ……うん」
 なんとなく、ふたりで笑ってしまった。カナとはまだ知り合ったばかり。ただ、少し波長が似ていると思った。

 控室のテントで、水を飲みながらメグミとカナは並んで座った。
「スチールだけなのに、なんか疲れたね……」
「うん。でも……」
 メグミは視線を外の海に向けて、ふと口にする。

「カナちゃんが隣にいてくれて、助かったかも」

 カナは不思議そうに目をパチパチさせながら、しばらく黙っていたが、「私、今日何にもしてないよ?」と笑った。

「そんなことないよ」
「ふふ。まぁ私も、メグちゃんが一緒でよかったかも」

 メグミはカナと顔を見合わせ、また笑った。

 撮影が終わり、太陽が傾くころ、ふたりの間には、ようやく小さな安心が芽生えていた。
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