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第12話 夏合宿! in 例のビーチ
「夜はバーベキューなんで楽しんでくださーい! じゃあ、明日もよろしくお願いしまーす!」
スタッフの軽い声が、波にかき消されながら響き渡る。
陽が傾き、空が赤く染まり始めるころ、例のビーチのテント下に置かれた木製テーブルとグリル台を真ん中に、夕食のバーベキューが始まった。
「せめて虫除け、置いてほしいなぁ……」
メグミは手に持った紙皿を扇ぎながらぼやいた。蚊が多い。風は生ぬるく、湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。
それでも、肉の焼ける匂いはたまらなく食欲をそそった。
スタッフと一緒に鉄板の前に立っているのは、ジャージ姿のカナだった。
金髪のウィッグは外している。短めの黒い髪はひとつに結び、まるで部活のマネージャーみたいな佇まいで、豚トロを片面ずつ焼き、焼けたものから順に女優たちの皿へ回していた。
「おっ、カナちゃん上手いじゃん」
「ありがとうございます。焼き加減、どうですか?」
「いや、これ絶妙な火の通り方だよ」
女優の声に混じり、スタッフもカナを褒める。カナは照れたように笑いながら、さっと油を足し、焼き野菜を鉄板の端へずらす。
その様子を少し離れた場所から眺めていたメグミは、肉の匂いに誘われるまま、皿を手に焼き場に近づいていった。
「……カナちゃんすごいね。私、料理とか、こういうの苦手で」
メグミがぽつりとつぶやくと、トングを動かしていたカナが、ちょっと困ったような笑顔を向けた。
「バーベキューって、料理ってほどのものじゃないよ?」
クスクス笑いながら、すかさず言われる。それがなんとなく悔しくて、メグミは「いや、火加減とか難しいじゃん」とむくれてみせる。
するとカナは「はい、豚トロ」と言って、絶妙な焼き加減の一枚をメグミの皿にのせてくれた。
「実際、料理は得意だけどね。こうやってじっくり火を見てるの、わりと好きなんだ」
「そうなんだ……。ありがと」
メグミが肉をほおばると、噛んだ瞬間に、ジュワッと脂が溢れ出す。香ばしくて、ほんのり甘くて、口の中で肉の繊維がほぐれていく。
「うまっ……」
「でしょ?」
ちょっと嬉しそうに笑うカナの横顔に、メグミも小さく笑い返した。
なんとなく心が和らいだ。夏はまだ始まったばかり。だけど──カナとなら、やっていけそうな気がする──潮風と肉の香りのなかで、メグミはそんなことを思った。
***
初日が終わったこと自体にはホッとしたが、その足で連れていかれた宿に、メグミは思わず声を漏らしそうになった。
「……これ、潰れる前にAVロケで貸してるのかな」
隣でカナが呟く。表情がない。
旅館というより、元民宿といった方が近い。襖は剥がれ、トイレの扉は軋み、風呂はほんのり薄暗い。畳の香りは懐かしいが、どこか湿気を含んでいる。
夕食のバーベキュー後、20人の女優陣はボロ宿の一階大広間に押し込まれた。
布団を敷き、荷物を広げ、ようやく個人のスペースを確保したメグミは、スマホを片手に、紙の台本とスケジュール表に目を通した。
翌日の撮影は、午前中が女優20人×男優20人の乱交シーン。午後はそこから選抜された10人の個別撮影。そのままの流れで翌日以降も撮り続け、最終的に「勝ち残った」女優がソロ撮影となり、作品のメインを張る──という形式らしい。
メグミは広間を見渡した。
ヒカリ、ジュリア、ハルカ……。
どの名前にも見覚えがあるし、顔見知りもちらほらいる。けれど、中身はわかっていない。
勝ち抜き、すなわち戦いである。相手の情報を知らなければ、戦いには勝てない。
そんなとき、視線の先で誰かがタバコに火を点けた。
ナオ。年齢不詳で、ダウナーな雰囲気の企画女優。事務所は違うが、撮影でたまに顔を合わせる。目立つ存在ではないが、どんな現場でも動じないタフな子で、隠れた情報通でもある。
タバコをふかすナオの横顔には、今日もどこか疲れがにじんでいた。メグミは少し迷ってから、足を運んだ。
「ナオちゃん。ちょっといい?」
「お、メグミ。どーしたの?」
「……今回みたいな企画って、経験ある?」
そう切り出すと、ナオは頷いて煙を吐いた。
「うん。純粋な対戦ものとはちょっと違うけど、セックスバトル的なやつだね。とりあえず人集めて、乱交でふるいにかけて、そこから画になる女優を拾う感じ」
「でも、誰が残るかって、最初から決まってるような気もするけど」
「そりゃまあ、売り出したい子はいるんだろうけど、誰がどこまでものになるかってのは、その場のライブ感じゃない?」
メグミは視線を移し、遠くでタバコを吸うヒカリを見やった。
同じ事務所で、同い年の同期の黒ギャル女優。とはいっても、共演は初。公私ともに絡みはない。
「ヒカリさんは……やっぱり強いよね」
「このメンツの中じゃ頭ひとつ抜けてるね。もうすぐ専属って噂もあるし。回しや仕切りができて、ギャル的なノリも作れる。使える女優だよね」
ヒカリの隣に肩を寄せながら、缶チューハイを飲んでいる白ギャル、チナの姿も目に入る。
「メグミ、事務所〈コアラボ〉でしょ? チナも同じだっけ?」
「うん。だけど、ヒカリさんと一緒で、いまいち絡みなくて……」
「元地下ドルだし、撮影じゃ器用に立ち回るタイプだよ。ま、定期的に胸や顔いじってるわりに、性格はずっと悪いけど」
ナオは鼻で笑うと、深くタバコを吸い込んだ。
視線をずらす。かつては大型新人としてデビューしたものの、今はあまり聞かなくなったシュンカ。部屋の隅で退屈そうに座っている。
その近くには、今回の最注目株のジュリア。モデルのようなルックスに、隙のない愛想の良さ。新人ながら、名前を聞くだけでスタッフのテンションが上がっていたのを思い出す。
「ジュリアさんってモデルみたいなのに、何でこんなギャラの安い雑な企画に出てるのかな?」
「わかんない。けど、商品としては完成されてるし、優勝候補の筆頭でしょ」
しばらくの間、ナオもメグミも、スマホをいじっているだけのジュリアに見惚れていた。
「そういやさ、あのハルカ。マイクロビキニのまま旅館まで歩いてきたよ。スタッフに着替えろってマジギレされてた」
「そうなんだ……。ハルちゃんらしいというか、なんというか……」
「いくら例のビーチがAV撮影用でも、通報されたら終わるって」
注意されても、本人はどこ吹く風だったらしい。今は姿が見えないが、ハルカは相変わらず悪目立ちしているようだ。
「みんな強キャラばっかだね~。明日ちゃんとできるか、不安になるなぁ」
「メグミも強キャラっしょ? 少なくとも、あたしみたいな万年企画の数合わせじゃないって」
そう自嘲するナオに、近くの布団で寝転がっていたカナが「私は絶対、数合わせだけどね」と笑う。
「でも、カナも場数はそれなりに踏んでるでしょ? あたしより下なんていないから大丈夫だって」
ふたりの力の抜けた言い方に、思わずメグミも小さく笑った。
──自分だって、たぶん数合わせである。まるでキャラじゃない白ギャルという設定。でも、仕事は仕事だ。どこまでやれるかはわからないが、最後までちゃんとやるつもりでいる。
「ま、地味白ギャル三羽烏、頑張ろうや」
ナオはそう言うと、短くなったタバコを灰皿に落とし、新しいものに火を点けた。
3人が話していると、その輪に逃げ込むようにしてジュリアが寄ってきた。
「あの~、ヒカリさんがちょっと酔ってきてて……。絡まれまして……」
すり寄ってきた彼女は、新人なのに妙に礼儀正しく、それでいて卑屈ではなく、誰に対しても言葉を選んでいた。
「私、黒ギャル枠で呼ばれたんですけど、別にギャルじゃないんですよ。ヒカリさんみたいにギラギラっていうか、オラオラしたのは苦手で……。メグミさんやナオさんみたいに、落ち着いた人がいてくれて安心してます」
素直な言動と、澄んだ瞳。前評判通りの印象に、メグミは内心で「この子は売れる」と思った。
だが、そこに──ハルカの笑い声が割って入る。
「おーい、何なに? 女子会? 混ぜて混ぜて~!」
ハルカは風呂上がりのラフなタンクトップとショーツ姿。ノーブラなので、乳首の形がはっきり浮かんでいる。
ハルカを見るや否や、ジュリア、ナオ、カナは目を合わせる間もなく、すっと立ち上がって散っていった。
残されたのは、メグミひとり。
「そういえばさ、メグミちゃんってオナニー何でしてる?」
どかっと腰を下ろしたタイミングで放たれた、いきなりの変化球に、メグミは一瞬フリーズした。
「……え、どうしたの? いきなり」
「いやぁ、前に一緒にやった撮影。あのとき、マイバイブ使おうと思ってたのに、やり忘れたなぁーって」
「……ま、マイバイブ?」
「あ、ちなみにあたしの最近の推しメーカーはコレ! じゃーん!」
そう言うと、ハルカは後ろに手を回し、お尻の割れ目からにゅるんと1本のバイブを取り出した。
「……持ち歩いてるんだね、ハルちゃん……」
「うん。それでね、これのすごいところなんだけど──」
その後は、熱心に推しバイブの説明をされた。
ハルカの話は、下ネタとエロの探究心がごちゃまぜだった。だけど、そのエグさを超えた先にある妙な真剣さに、メグミは耳を傾けていた。
(この人は、この世界に生きてるんだな……)
疲れた顔ひとつ見せず、性の話題を楽しむように、自然体で語るハルカ。その姿は、ある意味で理想的なAV女優像なのかもしれないと思った。
***
電気が消え、大部屋にずらりと敷かれた布団のなかで、メグミはカナと並んで横になった。
布団から覗いた天井は、シミだらけで、今にも崩れてきそうだった。
「……なんか、部活の合宿みたいだね」
カナがぽつりと呟く。
「カナちゃん、何部だった?」
メグミが聞くと、少し間をおいてから「卓球部」と返ってきた。
「メグちゃんは?」
「私は、美術部だった」
「美術部って、合宿あった?」
「……こんな感じのは、ないかな」
メグミは曖昧に笑って、目を閉じた。
大学卒業後、退路を断ってデビューしたものの、売れず、そこから現場を積み重ね、ハルカとの共演で自信をつけて。でも、レイとの撮影で自分の実力を思い知らされて、打ちひしがれて、そんな状態で例のビーチに来て……──いろんなことが、目まぐるしく過ぎていった。
明日からは、20人の女優とビーチでの撮影が始まる。
心は落ち着かない。でも、今はこうして、カナと並んで眠れることが、少しだけ救いだった。
波の音が遠くで鳴っていた。夜は静かだった。
明日は、来る。撮影は、始まる。
AV女優メグミの人生は、まだ終わらない──まだ、終わりたくない。
思いは溢れる。でも今夜は、ただ眠ろうと思った。
スタッフの軽い声が、波にかき消されながら響き渡る。
陽が傾き、空が赤く染まり始めるころ、例のビーチのテント下に置かれた木製テーブルとグリル台を真ん中に、夕食のバーベキューが始まった。
「せめて虫除け、置いてほしいなぁ……」
メグミは手に持った紙皿を扇ぎながらぼやいた。蚊が多い。風は生ぬるく、湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。
それでも、肉の焼ける匂いはたまらなく食欲をそそった。
スタッフと一緒に鉄板の前に立っているのは、ジャージ姿のカナだった。
金髪のウィッグは外している。短めの黒い髪はひとつに結び、まるで部活のマネージャーみたいな佇まいで、豚トロを片面ずつ焼き、焼けたものから順に女優たちの皿へ回していた。
「おっ、カナちゃん上手いじゃん」
「ありがとうございます。焼き加減、どうですか?」
「いや、これ絶妙な火の通り方だよ」
女優の声に混じり、スタッフもカナを褒める。カナは照れたように笑いながら、さっと油を足し、焼き野菜を鉄板の端へずらす。
その様子を少し離れた場所から眺めていたメグミは、肉の匂いに誘われるまま、皿を手に焼き場に近づいていった。
「……カナちゃんすごいね。私、料理とか、こういうの苦手で」
メグミがぽつりとつぶやくと、トングを動かしていたカナが、ちょっと困ったような笑顔を向けた。
「バーベキューって、料理ってほどのものじゃないよ?」
クスクス笑いながら、すかさず言われる。それがなんとなく悔しくて、メグミは「いや、火加減とか難しいじゃん」とむくれてみせる。
するとカナは「はい、豚トロ」と言って、絶妙な焼き加減の一枚をメグミの皿にのせてくれた。
「実際、料理は得意だけどね。こうやってじっくり火を見てるの、わりと好きなんだ」
「そうなんだ……。ありがと」
メグミが肉をほおばると、噛んだ瞬間に、ジュワッと脂が溢れ出す。香ばしくて、ほんのり甘くて、口の中で肉の繊維がほぐれていく。
「うまっ……」
「でしょ?」
ちょっと嬉しそうに笑うカナの横顔に、メグミも小さく笑い返した。
なんとなく心が和らいだ。夏はまだ始まったばかり。だけど──カナとなら、やっていけそうな気がする──潮風と肉の香りのなかで、メグミはそんなことを思った。
***
初日が終わったこと自体にはホッとしたが、その足で連れていかれた宿に、メグミは思わず声を漏らしそうになった。
「……これ、潰れる前にAVロケで貸してるのかな」
隣でカナが呟く。表情がない。
旅館というより、元民宿といった方が近い。襖は剥がれ、トイレの扉は軋み、風呂はほんのり薄暗い。畳の香りは懐かしいが、どこか湿気を含んでいる。
夕食のバーベキュー後、20人の女優陣はボロ宿の一階大広間に押し込まれた。
布団を敷き、荷物を広げ、ようやく個人のスペースを確保したメグミは、スマホを片手に、紙の台本とスケジュール表に目を通した。
翌日の撮影は、午前中が女優20人×男優20人の乱交シーン。午後はそこから選抜された10人の個別撮影。そのままの流れで翌日以降も撮り続け、最終的に「勝ち残った」女優がソロ撮影となり、作品のメインを張る──という形式らしい。
メグミは広間を見渡した。
ヒカリ、ジュリア、ハルカ……。
どの名前にも見覚えがあるし、顔見知りもちらほらいる。けれど、中身はわかっていない。
勝ち抜き、すなわち戦いである。相手の情報を知らなければ、戦いには勝てない。
そんなとき、視線の先で誰かがタバコに火を点けた。
ナオ。年齢不詳で、ダウナーな雰囲気の企画女優。事務所は違うが、撮影でたまに顔を合わせる。目立つ存在ではないが、どんな現場でも動じないタフな子で、隠れた情報通でもある。
タバコをふかすナオの横顔には、今日もどこか疲れがにじんでいた。メグミは少し迷ってから、足を運んだ。
「ナオちゃん。ちょっといい?」
「お、メグミ。どーしたの?」
「……今回みたいな企画って、経験ある?」
そう切り出すと、ナオは頷いて煙を吐いた。
「うん。純粋な対戦ものとはちょっと違うけど、セックスバトル的なやつだね。とりあえず人集めて、乱交でふるいにかけて、そこから画になる女優を拾う感じ」
「でも、誰が残るかって、最初から決まってるような気もするけど」
「そりゃまあ、売り出したい子はいるんだろうけど、誰がどこまでものになるかってのは、その場のライブ感じゃない?」
メグミは視線を移し、遠くでタバコを吸うヒカリを見やった。
同じ事務所で、同い年の同期の黒ギャル女優。とはいっても、共演は初。公私ともに絡みはない。
「ヒカリさんは……やっぱり強いよね」
「このメンツの中じゃ頭ひとつ抜けてるね。もうすぐ専属って噂もあるし。回しや仕切りができて、ギャル的なノリも作れる。使える女優だよね」
ヒカリの隣に肩を寄せながら、缶チューハイを飲んでいる白ギャル、チナの姿も目に入る。
「メグミ、事務所〈コアラボ〉でしょ? チナも同じだっけ?」
「うん。だけど、ヒカリさんと一緒で、いまいち絡みなくて……」
「元地下ドルだし、撮影じゃ器用に立ち回るタイプだよ。ま、定期的に胸や顔いじってるわりに、性格はずっと悪いけど」
ナオは鼻で笑うと、深くタバコを吸い込んだ。
視線をずらす。かつては大型新人としてデビューしたものの、今はあまり聞かなくなったシュンカ。部屋の隅で退屈そうに座っている。
その近くには、今回の最注目株のジュリア。モデルのようなルックスに、隙のない愛想の良さ。新人ながら、名前を聞くだけでスタッフのテンションが上がっていたのを思い出す。
「ジュリアさんってモデルみたいなのに、何でこんなギャラの安い雑な企画に出てるのかな?」
「わかんない。けど、商品としては完成されてるし、優勝候補の筆頭でしょ」
しばらくの間、ナオもメグミも、スマホをいじっているだけのジュリアに見惚れていた。
「そういやさ、あのハルカ。マイクロビキニのまま旅館まで歩いてきたよ。スタッフに着替えろってマジギレされてた」
「そうなんだ……。ハルちゃんらしいというか、なんというか……」
「いくら例のビーチがAV撮影用でも、通報されたら終わるって」
注意されても、本人はどこ吹く風だったらしい。今は姿が見えないが、ハルカは相変わらず悪目立ちしているようだ。
「みんな強キャラばっかだね~。明日ちゃんとできるか、不安になるなぁ」
「メグミも強キャラっしょ? 少なくとも、あたしみたいな万年企画の数合わせじゃないって」
そう自嘲するナオに、近くの布団で寝転がっていたカナが「私は絶対、数合わせだけどね」と笑う。
「でも、カナも場数はそれなりに踏んでるでしょ? あたしより下なんていないから大丈夫だって」
ふたりの力の抜けた言い方に、思わずメグミも小さく笑った。
──自分だって、たぶん数合わせである。まるでキャラじゃない白ギャルという設定。でも、仕事は仕事だ。どこまでやれるかはわからないが、最後までちゃんとやるつもりでいる。
「ま、地味白ギャル三羽烏、頑張ろうや」
ナオはそう言うと、短くなったタバコを灰皿に落とし、新しいものに火を点けた。
3人が話していると、その輪に逃げ込むようにしてジュリアが寄ってきた。
「あの~、ヒカリさんがちょっと酔ってきてて……。絡まれまして……」
すり寄ってきた彼女は、新人なのに妙に礼儀正しく、それでいて卑屈ではなく、誰に対しても言葉を選んでいた。
「私、黒ギャル枠で呼ばれたんですけど、別にギャルじゃないんですよ。ヒカリさんみたいにギラギラっていうか、オラオラしたのは苦手で……。メグミさんやナオさんみたいに、落ち着いた人がいてくれて安心してます」
素直な言動と、澄んだ瞳。前評判通りの印象に、メグミは内心で「この子は売れる」と思った。
だが、そこに──ハルカの笑い声が割って入る。
「おーい、何なに? 女子会? 混ぜて混ぜて~!」
ハルカは風呂上がりのラフなタンクトップとショーツ姿。ノーブラなので、乳首の形がはっきり浮かんでいる。
ハルカを見るや否や、ジュリア、ナオ、カナは目を合わせる間もなく、すっと立ち上がって散っていった。
残されたのは、メグミひとり。
「そういえばさ、メグミちゃんってオナニー何でしてる?」
どかっと腰を下ろしたタイミングで放たれた、いきなりの変化球に、メグミは一瞬フリーズした。
「……え、どうしたの? いきなり」
「いやぁ、前に一緒にやった撮影。あのとき、マイバイブ使おうと思ってたのに、やり忘れたなぁーって」
「……ま、マイバイブ?」
「あ、ちなみにあたしの最近の推しメーカーはコレ! じゃーん!」
そう言うと、ハルカは後ろに手を回し、お尻の割れ目からにゅるんと1本のバイブを取り出した。
「……持ち歩いてるんだね、ハルちゃん……」
「うん。それでね、これのすごいところなんだけど──」
その後は、熱心に推しバイブの説明をされた。
ハルカの話は、下ネタとエロの探究心がごちゃまぜだった。だけど、そのエグさを超えた先にある妙な真剣さに、メグミは耳を傾けていた。
(この人は、この世界に生きてるんだな……)
疲れた顔ひとつ見せず、性の話題を楽しむように、自然体で語るハルカ。その姿は、ある意味で理想的なAV女優像なのかもしれないと思った。
***
電気が消え、大部屋にずらりと敷かれた布団のなかで、メグミはカナと並んで横になった。
布団から覗いた天井は、シミだらけで、今にも崩れてきそうだった。
「……なんか、部活の合宿みたいだね」
カナがぽつりと呟く。
「カナちゃん、何部だった?」
メグミが聞くと、少し間をおいてから「卓球部」と返ってきた。
「メグちゃんは?」
「私は、美術部だった」
「美術部って、合宿あった?」
「……こんな感じのは、ないかな」
メグミは曖昧に笑って、目を閉じた。
大学卒業後、退路を断ってデビューしたものの、売れず、そこから現場を積み重ね、ハルカとの共演で自信をつけて。でも、レイとの撮影で自分の実力を思い知らされて、打ちひしがれて、そんな状態で例のビーチに来て……──いろんなことが、目まぐるしく過ぎていった。
明日からは、20人の女優とビーチでの撮影が始まる。
心は落ち着かない。でも、今はこうして、カナと並んで眠れることが、少しだけ救いだった。
波の音が遠くで鳴っていた。夜は静かだった。
明日は、来る。撮影は、始まる。
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