駆け出せ、メグミ 〜裸の性、裸の生き様〜

寸陳ハウスのオカア・ハン

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第15話 頼むぞ! 黒ギャルのヒカリ、白ギャルのメグミ!

 これは単なるAV女優たちの夏合宿ではない。そんな重い静けさが漂っていた。

 2日目のボロ旅館から、初日のざわめきは消えていた。
 20人から10人へ、そして今は6人に。夕食も初日のようなバーベキューではなく、安い仕出し弁当である。
 選ばれる者と落とされる者、これはAV女優としての生き残りを賭けたトーナメントであるという厳然たる事実が、空気を支配している。

 誰もが明日の撮影に向けて体力を温存していた。あのハルカですら、今日は黙って布団に包まっている。

 明日は最終日。泣いても笑っても、午後には、この作品のメインとなる女優が選ばれる。

 夜。時計の針を見て布団に包まったはいいものの、なかなか寝付けず、メグミは大広間を出た。みんな寝息を立てていたが、ヒカリの布団だけは空いていた。

 食堂の冷蔵庫から水のペットボトルを取り、ごくりと喉を鳴らした。冷たい水が身体に染みた。
 ペットボトルを手に、旅館の中をふらふらしていると、エントランスの薄闇の中で、小さな火がフッと浮かんだ。

 火と人影──とっさに、メグミは身構えた。

「あ……」

「……あ、あの、こんばんは」

 タバコの火だった。エントランスの暗闇でタバコを吸っていたのは、ヒカリだった。

「起きてたんだ」
「うん、ちょっと寝れなくて」
「……そうなんだ。あたしも」
 同じ事務所の同期だが、まともに向き合ったのはこれが初めてだった。キリッとしていて、しっかりしていて、ちゃんと黒ギャルで、なんとなく話しかけづらいイメージをメグミは持っていた。

 メグミが言葉を探していると、ヒカリはタバコを灰皿に入れ、火を消した。
「ねぇ、ちょっと海行かない? 夜の、例のビーチ」

 唐突なヒカリの誘いに、メグミは頷いていた。

 外に出る。まばらな街灯と、夜の暗闇がふたりを包む。潮風と虫の音の中、サンダルの足音が静かに響く。

 少し歩くと、例のビーチが見えた。夜の浜辺は、昼間の騒々しさが嘘のように静かである。

 ヒカリはタバコに火をつけ、深く吸い込んだ。海の月明かりに照らされるその顔は、いつもよりずっと穏やかに見えた。

「メグって呼んでいい?」

「……うん、いいよ」

 しばらく沈黙が流れる。波の音がそれを埋める。

「あのさ、ハルカと絡んだことあるの、マジ?」
 メグミは少しだけ笑って、「ちょっと前にね」と答えた。
「すごいね。あの子、相当クセあるでしょ?」
「……まあ、うん」
 ヒカリは小さく吹き出すと、肩をすくめた。
「明日、同じ組だよね。よろしくね、メグ」
「うん。こちらこそ、ヒカリちゃん」
 それだけの会話だった。でも、不思議と心が軽くなった。

 気づけば、旅館の明かりが見えていた。帰り道、特に会話はなかったが、居心地は悪くなかった。

 大広間に戻る。乳を放り出し畳の上でいびきをかくハルカを避けつつ、布団に入る。横の布団では、カナがぐっすり寝ている。

 明日もどうなるかわからない。けれど、少しだけ、やれる気がした。


***


 翌朝、太陽は無慈悲なまでに高く、熱を振りまいていた。

 20人いた女優陣は、6人に絞られている。人数が減ったぶん、責任も期待も、それぞれに重くのしかかってくる。

 1組目の撮影『淫乱ギャルのすごテクで搾り取れ!』はすでに始まっている。内容はタイトル通り、わりとスタンダードなもの。テクニックのナオ、ビジュアルのジュリアといったところか。

 対して、メグミたちの組は女優4人、男優3人の変則マッチ。制作意図としては、とにかくハルカのダイナマイトボディを中心にを作ることだろう。

 もう勝負水着と言っていいほどに着た白ビキニを着用したメグミは、ヒカリ、ハルカ、そしてカナと共に、砂浜に設営された撮影エリアへと向かった。

「メグミちゃん、昨日のカナちゃんとのコンビ、すごく良かったよ。今日もお願いね」
 スタッフの一人が、メグミの肩を軽く叩く。
 メグミは笑顔を返し、ちらりとカナの方を見た。カナも少し照れたように会釈をしていた。

 撮影前の打ち合わせから、ハルカは自由奔放だった。男優に話しも通さず、勝手にポジションを決めようとする。スタッフが注意しても、「え~、でもこっちのがエロくない?」と涼しい顔。
 ヒカリは少しイラッとした目をしつつも、「じゃあそのシーンの前、手マンと潮吹きで流れ作るから任せて」と入り込む。メグミも「じゃあ私は繋ぎのところでフェラ入るね」と即興で段取りを整える。
 カナはメグミの後ろで、何度も頷きながらついてくる。
 目立とうとはしない、でも逃げない。そんなカナの姿勢に、メグミはふと、親近感を覚えた。

 スタッフが最後の確認を始める。メグミたちも、いつでも出られるように砂浜で待機する。

 そのとき、監督の大きな声が響いた。

「頼むぞ! 黒ギャルのヒカリ、白ギャルのメグミ!」

 その声にふたりが振り返ると、監督の指差す先には、テントの下でアイスを食べるハルカがいた。ハルカはニッと笑いながら、謎におっぱい丸出しのセクシーポーズを取り、意味深なウィンクを返していた。

「……やっぱ、お守りか」

 ヒカリがぼそっと漏らし、メグミは笑いをこらえた。


***


  撮影が終わったあとの海風は、どこか心地よかった。

 ハルカはいつものように「いやぁ~、めっちゃ気持ちよかった~」と笑いながら、アイスを食べている。
 そのハルカを横目に、タオルで股下を拭くヒカリが「砂が……、ひどい目にあったよ……」と小さくごちる。
 カナは小さく手を振ってくれた。メグミも自然に笑えた。

 撮影は、なんやかんやあったが無事に終わった。
 
 撮影中は、何がどうなってたか、もうよく覚えていない。誰とどう絡んで、ハルカが何回イったのかも、正直どうでもいい。
 トラブルも、戸惑いも、笑いもあったが、4人の連携が形になった瞬間は、確かにあった。

 そして──

「……頑張ったね」

 そう言った誰かの言葉が、なぜか胸に残った。


***


 昼食後の午後。
 全員がテントに戻る。『大乱交スプラッシュギャルズSEX! トーナメント!』と手書きされたプラカードを持った監督が、優勝者を発表する。

「最後のソロ撮影、ジュリアさんでーす!」

 スタッフの拍手と歓声に包まれ、ジュリアは少し照れたように笑っていた。
 メグミも拍手を送った。気づいたジュリアは、メグミにぺこりと会釈をした。最後まで隙がない優等生だと、メグミは感じた。

「出来レースだよ、こんなの」
 ヒカリがぽつりとつぶやく。
「ま、ジュリアは売れ線だから」
 タバコで一息つくナオがわずかに反応したが、みんな疲れ切っていた。ヒカリはずっと不満そうだったが、メグミはそれに反応する余裕もなく、ただ無言で帰り支度を始めていた。
 バスを待つ間にハルカは消えていた。ナオに訊くと、午後の撮影から外れた男優をナンパしていたらしい。

 バスに揺られながら、メグミはぼんやりと窓の外を見ていた。

 例のビーチが遠ざかっていく。潮風に流される乾いた砂と汗のにおいが、鼻をくすぐる。

 その隣から、小さな声がした。

「メグちゃん、お疲れ様」

「……カナちゃんも。お疲れ様」

 ふたりは目を合わせ、ふっと微笑み合った。

 2日半の夏。疲れたけれど、大変だったけど、いい経験ができた。あのビーチで、自分の何かが少しだけ変わった。そんな気がしていた。

 ──強くなれた。そう思いたかった。

 メグミは遠ざかる夏の日差しを目で追いながら、胸の奥に思いを刻んだ。
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