17 / 24
第17話 挑戦
メグミは朝の冷たい空気を肺に押し込み、ゆっくり吐いた。
24歳の冬。今日は、挑戦する日だと決めてきた。
コンディションは万全。台本には何度もメモを重ねた。撮影衣装のラインすら、昨夜は何度も鏡で確認した。
撮影場所は、生活感のないマンション。そこが、今日の戦場である。
「よろしくお願いします」
楽屋での挨拶に、レイは前回と変わらぬ笑顔で振り向いた。余裕がある、というより余白がある笑顔。彼女は今日も、プロとして真っ直ぐ立っていた。
「また一緒だね。楽しみにしてたよ」
他意のない声。あるいは、それこそがレイの武器かもしれない。
メグミは笑って一礼し、鏡台の前に腰を下ろした。
心は穏やか。以前のように飲まれてはいない。奥底にある炎も、熱いまま静かに燃えている。
撮影前の打ち合わせは簡素だった。
「立ち位置と大まかな流れだけ、確認でいい?」
玄関、リビング、寝室。動線と切り返し。どこで男優に入ってもらい、どこで絡みを入れ替わるか。レイは台本の細部には踏み込まない。
メグミは無言で頷いた。細かい温度は現場で作る。今日は、どんな状況でも戦えるよう準備してきた。
内容は『不倫ドラマ』。
夫役はベテランの男優。柔らかい目元なのに、カメラが回ると鋼鉄になる人だ。
レイは妻、メグミは不倫相手。守る女と奪う女。構図はシンプル。だからこそ、演技の熱と、身体の説得力が試される。
***
「カメラ、回します」
レイが先に画に入る。
生活臭のないベッドの上に、何の熱量もない男と女が寝そべる。
冷え切った関係の夫婦という設定。レイがおずおずと誘い、男優が気乗りしなさそうに抱く。単調なセックス。いや、もはやセックスとも言えない絡みが、カメラに収められる。
カットが変わる。今度は、メグミの出番。
隣の部屋、ラブホテルを模した部屋での絡み。ここでは、妻との関係に嫌気が差している夫が、不倫相手と密会の真っ最中という設定である。
よれよれのスーツ姿で疲れた表情の男に、メグミは寄り添った。
優しい笑顔で迎え、話を聞き、軽くキスをした。そして、欲望のままに抱いてもらった。
絡み中、カメラには映らない視界の端にレイが見えた。メグミは見せつけるようにイチャラブセックスをした。ねっとりと舌を絡ませてキスし、焦らすようにフェラをした。向こうが欲しがれば、触れる場所すべてを舐めさせた。
「欲しい♡ あなたので、膣奥、いっぱいにして♡」
台本通りのセリフ。そして、膣内で射精に導いた。
腰を上げ、股間に垂れる精液を手ですくい、膣内へと戻す。目にうっとりとハートを浮かべながら……。ただし、ここは疑似射精。男優のものはいきり勃ったままである。
「……ちゃんと会えて、うれしかった♡」
再びのカット。カメラがリビングに戻り、レイと男優を映す。
メグミは玄関の外に出て、レイが出てくるのを待った。
レイが玄関から出る。入れ替わりでメグミが玄関のインターホンを押す。次のカットは、そのまま流れで続く。
「来ちゃったけど、ほんとに大丈夫?」
妻不在のタイミングで呼ばれたから来た、という展開。
男優の後ろに隠れながらリビングへと入る。しげしげと部屋の様子を窺い、男優の反応を待つ。奪う側だが、いきなりはがっつかない。あくまで選択権は夫役の男優に委ねる。
ぽつりぽつりと会話を交わす。台本通り、妻との関係に悩む夫の会話。メグミは目を合わせて、小さく頷きながら、ちゃんと話を聞く。
苦しそうに握られた男優の手に、メグミはそっと触れた。
戸惑うような男優の視線に、そっと微笑みかける。
合図。堪えきれず前のめりになる男優に、そのまま抱かれる。
寂しさを紛らわせるように、ぬくもりを求めるように始まる、不倫セックス。
そしてピークに達する直前、妻役のレイが戻ってきた。
「……ちょっ、……なにやってんのよ!?」
迫真の一声。
リビングに戻ってきたレイの目が、男優とメグミを交互に射抜く。その視線は、台本以上に鋭い。
でもメグミは、見せつけるように、ガチガチに勃起した男優のものに指先を這わし、微笑んだ。
夫役の男優は台本通り狼狽える。素っ裸の背を丸め、言い訳を探すように、目を泳がせる。
メグミはあえて怯えず、その逡巡をすべて見透かしたように男優の腕を抱き締めた。
「私は……あなたを、今、欲しいの」
男優に向けてのセリフを、わざとレイに落とす。
レイは唇を噛んだ。すぐに夫の前に立ちはだかり、その肩を掴む。
「この人は、私の夫。誰にも渡さない」
男優の身体が左右に引き裂かれる。両腕に女を抱えたまま、視線をさまよわせる。
その戸惑いが、次の展開を呼び込む。
「……なら、決めない? ここで」
メグミは挑むような目でレイを見据えた。
「証明して。どっちがこの人を本当に抱けるか。ベッドの上で」
空気が一瞬、凍る。だが、撮影は止まらない。監督がカメラに指を振り、続行を合図する。
「いいわ」
レイは低く吐き捨てるように答えた。
「だったら、見せてあげる。妻としての私を」
レイはそのまま、夫役の男優の手を取り、強引に隣の部屋のベッドへ引きずり込む。
メグミはゆっくりと下着を着直すと、壁に寄りかかり、腕を組んだ。
憤りに任せて服を脱ぐレイを見ながら、メグミは笑った──本当の勝負はここから──そう言わんばかりに。
ベッドの上、レイの裸が露わになる。
妻役としての立ち姿。夫の肩へ伸ばした指は丁寧で、セリフは静かな川のように流れる。
夫婦としてのセックス。レイはきれいで、画は美しい──だが、生ぬるいセックス。
夫役の男優はなかなかイケない。そこまでは台本通り。そこから先は、メグミが奪いにかかる。
「ねぇ。顔、ちゃんと見てあげて。すごく辛そう……」
アドリブ。台本のセリフはもっと俗っぽい。
騎乗位のレイの横から、するりと男優に寄り添う。シーツを掴む男優の手を、ブラジャーのホックへと導く。自分では外さない。あくまで、男優の欲望に委ねる。
男優の目が一瞬だけ笑った。それで、どこかで通じ合ったと、メグミは確信した。
「あなたのこと、私は、ちゃんと見てるよ」
男優の重心がメグミに傾く。レイは騎乗位のまま抑えようとするが、男優はもう妻役を見ていなかった。
レイの膣からぬるりと抜けたものを、メグミは優しく受け入れた。そして、中断していたリビングでの続きを再開した。
妻の横で繰り広げられる、倫理観を無視した欲望まみれのイチャラブセックス。
絡みながら、問いかける。請うのではなく、奪うのでもなく……「ここで一緒に生きたい」という意志を表す。
男優の掌が、メグミの背の呼吸に合わせて緩む。テンポが合う。カメラが寄る。レイはもう蚊帳の外。
男優が「イキそう」と叫ぶ。合図。台本通り、レイが間に割って入る。
メグミは、抵抗せずにポジションを明け渡した。
再びのレイの騎乗位。メグミも男優の顔の上に跨がる。
向かい合う。妻役として、必死に腰を振るレイ。不倫相手役として、それを見つめるメグミ。
メグミは男優の顔の上で腰を振りながら、レイとのリズムをコントロールした。レイが気張れば、舌先が届くか届かない距離まで腰を浮かし、男優の注意を逸らす。レイの気が緩みそうになれば、膣を押し付け、男優のピストンを誘発させる。
押し引きの波が徐々に速くなるそのとき、レイの睫毛が一度だけ長く瞬いた。その瞳は、潤んでいた。
「さっきまでの顔と全然違う。気持ちいいんでしょ?」
レイの耳元に投げた小さな針。彼女の喉元で喘ぎ声が止まる。守りの壁に、薄いひび。そこに男優が呼吸を合わせる。
メグミは身体をななめにして、レイの視界の中心に自分と夫役の影を重ねた。
股を開き、自らの膣口と、それを情けなく求める夫役の舌を見せる。
見せつける、ではなく、見せる──そして、選ばせる。
「やっと……本気になれたんだね」
レイの肩が一瞬だけ強張る。プロの筋肉。強張るが、戻す。
そこに、痙攣にも似た男優のピストン。射精する直前の、熱に浮かされた動き。もう選択の余地はない。あとは、崩れるだけ──。
一瞬、レイの瞳が天井を仰ぎ、声にならない息がこぼれた。
波。彼女の視線が戻るまでの、ごく短い空白。スリップ。それをメグミは見逃さなかった。
欲望のまま、男優の口がメグミの膣口に吸い付く。メグミはそれに応え、受け入れるよう指で割れ目を開いた。そして男優は絶叫し、レイの膣内で射精した。
スリップ後の、追い討つ絶頂──レイは指を噛みながら、膝を震わせていた。
レイが、人間としてそこにいた。妻役でも、元専属AV女優でもない、ただのレイ。その姿は、ただただ美しかった。
***
「カット!」
空気が弾け、スタジオに人の気配が戻ってくる。汗の匂いに笑い声が混ざる。照明の熱も、少しだけ優しくなる。
監督はモニターから顔を上げると、グッと親指を立てた。
起き上がった男優は、タオルで顔を拭きながら、メグミに小さく会釈した。
「いいリードだったね」
「ありがとうございます」
メグミは肩で息をしながらも、足裏は地を踏んでいた。
手応えがあった。勝ち負けの言葉で片付けたくはないが、それでも「届いた」という実感があった。
ベッドから下りていたレイが、バスローブを巻いてやってきた。メイクの崩れはわずかで、眼差しはもういつものレイに戻っている。
「……すごかったよ、メグミさん」
言葉は短く、重かった。
メグミは深く頭を下げた。
ラストカットは当初の台本から変更になった。
当初の台本では、レイの演じる妻が夫を取り返す、といった内容だった。
変更後は、肉欲に溺れた果て、結局この夫婦は崩壊し、不倫相手も去っていく。そんな展開で撮影は終わった。
***
撤収のアナウンスが飛び交う。
メグミはカバンに台本をしまい、ゆっくり呼吸を整えた。
今日は、戦った。生きるために、挑んだ。
演技の線のこちら側で、確かに本気になった。その本気は、カメラにも、人にも届いた。そう思えた。
メグミはスタジオを出ると、小さく笑って歩き出した。
冬。風は冷たいが、足取りは軽かった。
24歳の冬。今日は、挑戦する日だと決めてきた。
コンディションは万全。台本には何度もメモを重ねた。撮影衣装のラインすら、昨夜は何度も鏡で確認した。
撮影場所は、生活感のないマンション。そこが、今日の戦場である。
「よろしくお願いします」
楽屋での挨拶に、レイは前回と変わらぬ笑顔で振り向いた。余裕がある、というより余白がある笑顔。彼女は今日も、プロとして真っ直ぐ立っていた。
「また一緒だね。楽しみにしてたよ」
他意のない声。あるいは、それこそがレイの武器かもしれない。
メグミは笑って一礼し、鏡台の前に腰を下ろした。
心は穏やか。以前のように飲まれてはいない。奥底にある炎も、熱いまま静かに燃えている。
撮影前の打ち合わせは簡素だった。
「立ち位置と大まかな流れだけ、確認でいい?」
玄関、リビング、寝室。動線と切り返し。どこで男優に入ってもらい、どこで絡みを入れ替わるか。レイは台本の細部には踏み込まない。
メグミは無言で頷いた。細かい温度は現場で作る。今日は、どんな状況でも戦えるよう準備してきた。
内容は『不倫ドラマ』。
夫役はベテランの男優。柔らかい目元なのに、カメラが回ると鋼鉄になる人だ。
レイは妻、メグミは不倫相手。守る女と奪う女。構図はシンプル。だからこそ、演技の熱と、身体の説得力が試される。
***
「カメラ、回します」
レイが先に画に入る。
生活臭のないベッドの上に、何の熱量もない男と女が寝そべる。
冷え切った関係の夫婦という設定。レイがおずおずと誘い、男優が気乗りしなさそうに抱く。単調なセックス。いや、もはやセックスとも言えない絡みが、カメラに収められる。
カットが変わる。今度は、メグミの出番。
隣の部屋、ラブホテルを模した部屋での絡み。ここでは、妻との関係に嫌気が差している夫が、不倫相手と密会の真っ最中という設定である。
よれよれのスーツ姿で疲れた表情の男に、メグミは寄り添った。
優しい笑顔で迎え、話を聞き、軽くキスをした。そして、欲望のままに抱いてもらった。
絡み中、カメラには映らない視界の端にレイが見えた。メグミは見せつけるようにイチャラブセックスをした。ねっとりと舌を絡ませてキスし、焦らすようにフェラをした。向こうが欲しがれば、触れる場所すべてを舐めさせた。
「欲しい♡ あなたので、膣奥、いっぱいにして♡」
台本通りのセリフ。そして、膣内で射精に導いた。
腰を上げ、股間に垂れる精液を手ですくい、膣内へと戻す。目にうっとりとハートを浮かべながら……。ただし、ここは疑似射精。男優のものはいきり勃ったままである。
「……ちゃんと会えて、うれしかった♡」
再びのカット。カメラがリビングに戻り、レイと男優を映す。
メグミは玄関の外に出て、レイが出てくるのを待った。
レイが玄関から出る。入れ替わりでメグミが玄関のインターホンを押す。次のカットは、そのまま流れで続く。
「来ちゃったけど、ほんとに大丈夫?」
妻不在のタイミングで呼ばれたから来た、という展開。
男優の後ろに隠れながらリビングへと入る。しげしげと部屋の様子を窺い、男優の反応を待つ。奪う側だが、いきなりはがっつかない。あくまで選択権は夫役の男優に委ねる。
ぽつりぽつりと会話を交わす。台本通り、妻との関係に悩む夫の会話。メグミは目を合わせて、小さく頷きながら、ちゃんと話を聞く。
苦しそうに握られた男優の手に、メグミはそっと触れた。
戸惑うような男優の視線に、そっと微笑みかける。
合図。堪えきれず前のめりになる男優に、そのまま抱かれる。
寂しさを紛らわせるように、ぬくもりを求めるように始まる、不倫セックス。
そしてピークに達する直前、妻役のレイが戻ってきた。
「……ちょっ、……なにやってんのよ!?」
迫真の一声。
リビングに戻ってきたレイの目が、男優とメグミを交互に射抜く。その視線は、台本以上に鋭い。
でもメグミは、見せつけるように、ガチガチに勃起した男優のものに指先を這わし、微笑んだ。
夫役の男優は台本通り狼狽える。素っ裸の背を丸め、言い訳を探すように、目を泳がせる。
メグミはあえて怯えず、その逡巡をすべて見透かしたように男優の腕を抱き締めた。
「私は……あなたを、今、欲しいの」
男優に向けてのセリフを、わざとレイに落とす。
レイは唇を噛んだ。すぐに夫の前に立ちはだかり、その肩を掴む。
「この人は、私の夫。誰にも渡さない」
男優の身体が左右に引き裂かれる。両腕に女を抱えたまま、視線をさまよわせる。
その戸惑いが、次の展開を呼び込む。
「……なら、決めない? ここで」
メグミは挑むような目でレイを見据えた。
「証明して。どっちがこの人を本当に抱けるか。ベッドの上で」
空気が一瞬、凍る。だが、撮影は止まらない。監督がカメラに指を振り、続行を合図する。
「いいわ」
レイは低く吐き捨てるように答えた。
「だったら、見せてあげる。妻としての私を」
レイはそのまま、夫役の男優の手を取り、強引に隣の部屋のベッドへ引きずり込む。
メグミはゆっくりと下着を着直すと、壁に寄りかかり、腕を組んだ。
憤りに任せて服を脱ぐレイを見ながら、メグミは笑った──本当の勝負はここから──そう言わんばかりに。
ベッドの上、レイの裸が露わになる。
妻役としての立ち姿。夫の肩へ伸ばした指は丁寧で、セリフは静かな川のように流れる。
夫婦としてのセックス。レイはきれいで、画は美しい──だが、生ぬるいセックス。
夫役の男優はなかなかイケない。そこまでは台本通り。そこから先は、メグミが奪いにかかる。
「ねぇ。顔、ちゃんと見てあげて。すごく辛そう……」
アドリブ。台本のセリフはもっと俗っぽい。
騎乗位のレイの横から、するりと男優に寄り添う。シーツを掴む男優の手を、ブラジャーのホックへと導く。自分では外さない。あくまで、男優の欲望に委ねる。
男優の目が一瞬だけ笑った。それで、どこかで通じ合ったと、メグミは確信した。
「あなたのこと、私は、ちゃんと見てるよ」
男優の重心がメグミに傾く。レイは騎乗位のまま抑えようとするが、男優はもう妻役を見ていなかった。
レイの膣からぬるりと抜けたものを、メグミは優しく受け入れた。そして、中断していたリビングでの続きを再開した。
妻の横で繰り広げられる、倫理観を無視した欲望まみれのイチャラブセックス。
絡みながら、問いかける。請うのではなく、奪うのでもなく……「ここで一緒に生きたい」という意志を表す。
男優の掌が、メグミの背の呼吸に合わせて緩む。テンポが合う。カメラが寄る。レイはもう蚊帳の外。
男優が「イキそう」と叫ぶ。合図。台本通り、レイが間に割って入る。
メグミは、抵抗せずにポジションを明け渡した。
再びのレイの騎乗位。メグミも男優の顔の上に跨がる。
向かい合う。妻役として、必死に腰を振るレイ。不倫相手役として、それを見つめるメグミ。
メグミは男優の顔の上で腰を振りながら、レイとのリズムをコントロールした。レイが気張れば、舌先が届くか届かない距離まで腰を浮かし、男優の注意を逸らす。レイの気が緩みそうになれば、膣を押し付け、男優のピストンを誘発させる。
押し引きの波が徐々に速くなるそのとき、レイの睫毛が一度だけ長く瞬いた。その瞳は、潤んでいた。
「さっきまでの顔と全然違う。気持ちいいんでしょ?」
レイの耳元に投げた小さな針。彼女の喉元で喘ぎ声が止まる。守りの壁に、薄いひび。そこに男優が呼吸を合わせる。
メグミは身体をななめにして、レイの視界の中心に自分と夫役の影を重ねた。
股を開き、自らの膣口と、それを情けなく求める夫役の舌を見せる。
見せつける、ではなく、見せる──そして、選ばせる。
「やっと……本気になれたんだね」
レイの肩が一瞬だけ強張る。プロの筋肉。強張るが、戻す。
そこに、痙攣にも似た男優のピストン。射精する直前の、熱に浮かされた動き。もう選択の余地はない。あとは、崩れるだけ──。
一瞬、レイの瞳が天井を仰ぎ、声にならない息がこぼれた。
波。彼女の視線が戻るまでの、ごく短い空白。スリップ。それをメグミは見逃さなかった。
欲望のまま、男優の口がメグミの膣口に吸い付く。メグミはそれに応え、受け入れるよう指で割れ目を開いた。そして男優は絶叫し、レイの膣内で射精した。
スリップ後の、追い討つ絶頂──レイは指を噛みながら、膝を震わせていた。
レイが、人間としてそこにいた。妻役でも、元専属AV女優でもない、ただのレイ。その姿は、ただただ美しかった。
***
「カット!」
空気が弾け、スタジオに人の気配が戻ってくる。汗の匂いに笑い声が混ざる。照明の熱も、少しだけ優しくなる。
監督はモニターから顔を上げると、グッと親指を立てた。
起き上がった男優は、タオルで顔を拭きながら、メグミに小さく会釈した。
「いいリードだったね」
「ありがとうございます」
メグミは肩で息をしながらも、足裏は地を踏んでいた。
手応えがあった。勝ち負けの言葉で片付けたくはないが、それでも「届いた」という実感があった。
ベッドから下りていたレイが、バスローブを巻いてやってきた。メイクの崩れはわずかで、眼差しはもういつものレイに戻っている。
「……すごかったよ、メグミさん」
言葉は短く、重かった。
メグミは深く頭を下げた。
ラストカットは当初の台本から変更になった。
当初の台本では、レイの演じる妻が夫を取り返す、といった内容だった。
変更後は、肉欲に溺れた果て、結局この夫婦は崩壊し、不倫相手も去っていく。そんな展開で撮影は終わった。
***
撤収のアナウンスが飛び交う。
メグミはカバンに台本をしまい、ゆっくり呼吸を整えた。
今日は、戦った。生きるために、挑んだ。
演技の線のこちら側で、確かに本気になった。その本気は、カメラにも、人にも届いた。そう思えた。
メグミはスタジオを出ると、小さく笑って歩き出した。
冬。風は冷たいが、足取りは軽かった。
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった
くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。
血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。
夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。
「……涼介くん」
薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。
逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。
夜、来て。
その一言が——涼介の、全部を壊した。
甘くて、苦しくて、止まれない。
これは、ある夏の、秘密の話。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。