駆け出せ、メグミ 〜裸の性、裸の生き様〜

寸陳ハウスのオカア・ハン

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第19話 レイさんのこと、もっと知りたい

 メグミとレイのレズプレイが始まる。

 台本はシンプル。挨拶から距離が縮まり、視線が絡み、キス。身体の温度が静かに移っていくまでの流れ。

 ふたりはベッドに座り、互いの息を探るみたいに顔を寄せる。
 唇はすぐに重なったが、押しつける強さはどちらも測っている。レイは目を閉じたまま、呼吸のリズムをメグミに合わせ、メグミはそのわずかな受け身の変化を追いかける。
 手が肩に、背に、腰に……。微熱がランジェリー越しに行き来して、衣擦れの音が針の音のように細く刺さる。

 台本通り、レイがメグミのブラジャーのホックにそっと触れる。
 下着が外され、メグミの胸が露わになる。背筋から胸元へ、指先は几帳面に、けれど少しだけぎこちなく、乳首をなぞる。まるで、覚えたばかりの楽譜を鍵盤で確かめているみたいに。

 メグミは驚いた。これまで何度も見た、あの揺らがない彼女の手つきではない。
 現場を支配する蛇のような目線も、快楽を演出する蛇のような舌先もない。レイもまた、探している。正解を外で探すのではなく、ここで、今、ふたりで。

 レイの視線がメグミを見た。一瞬、問いかけるような、助けを求めるような、弱さが泳ぐ。

 それを見て、メグミの胸のどこかが、音を立てて落ちた。

 流れが切り替わる。今度はメグミの番だ。
 抱き合いながら、レイの真紅のランジェリーを脱がす。息が近い。髪が頬をかすめ、肌の匂いがほんのり甘い。

 レイが裸になる。スタジオの照明がわずかに熱を帯び、影が柔らかく溶ける。

 初めてまじまじと見る、レイの身体──きめ細やかな白い肌。首筋から腰、ヒップから爪先までの滑らかな曲線。形のいい乳房おっぱい、きれいなピンク色の乳輪、ツンと勃った乳首──それが今、目の前にある。
 メグミは、レイの胸を揉み、乳首を吸った。
 舌で転がすたび、レイが小さく声を上げ、ピクリと身体を震わす。
 じんわりと胸ににじむ汗は、甘かった。メグミは赤ちゃんのように夢中で吸い付いた。

 乳首を堪能したあと、メグミはレイの脚の内側に手を置き、ゆっくりと身を沈めた。
 視界がきゅっと狭くなる──メグミよりも少しだけ濃くて硬めのアンダーヘアに隠された場所──整っていて、涼しげで、でも今はほんの少しだけ潤んでいる。

 隠されていたレイの匂いに、生まれたままの姿に、急激に鼓動が早まる。
 なぜ、なんで、どうして……。喉に言葉がせり上がり、欲望が頭をもたげる。

「レイさんのこと、もっと知りたい……!」

 その一言で、内側の何かが切り替わった。
 演技のラインが、音もなく越えられる。スイッチではなく、境界の消失。台本の「次にこうする」は溶けて、代わりに「今、こうしたい」だけが残る。

 メグミはレイの膣内なかに舌を入れた。
 奥までなんて全然届かない。でもさっきの乳房と同じように、舌先で感じたかった。だから必死に舌を伸ばし、膣の中を探った。

 舐めながら、鼻先がクリトリスに触れる。メグミが鼻息を荒げるたび、レイの身体がビクッと反応する。

「メグミさん、一緒に……」

 レイがメグミの上に跨がる。69の体勢。レイも、探るようにメグミの膣に舌先を這わし始める。
 レイのおしりがメグミの目の前を覆う。垂れ落ちる愛液と、膣とアナルの匂いが、顔いっぱいに広がる。

「きれい……」

 おしりを揉む。柔らかくて、あたたかい。
 呼吸のたびに、アナルがひくつく。皺、黒ずみ、動き、全部を目に焼き付ける。

 ふと、アナルの周りにちょろんと毛が生えていることにメグミは気づいた。

(剃り忘れ? レイさんって、意外とずぼらなのかな?)

 うっすらと生えるOラインの毛。完璧に見える人の、ちょっとした隙。そんなところにメグミは愛おしさを感じ、舌を這わせた。

 レイの身体がビクビクと震える。メグミの膣口アソコで、声にならないレイの声が響く。

「レイさん、おいしいです……」

 本心だった。今このとき、膣も、アナルも、レイのものならなんでも受け入れられた。

 メグミは本能と勢いで、レイの身体に触れた。
 温度に触れ、微細な震えに触れ、息の上下に触れる。どこが怖くて、どこが平気で、どこで彼女が反応するのか。
 レイは語らない。喉の奥で息が震え、脚がわずかに跳ねる。
 拒まれてはいない。ちゃんとした応答。身体で交わされる意思疎通。無言の了解。

 長回しが続く。誰も「カット」を言わない。

「……イきたい。レイさんで……、レイさんとイきたい!」

「……私も、メグミさんのこと、もっと感じたい!」

 言葉にしてしまえば、もう止まれなかった。
 お互いの指先が、相手の気持ちいいところを探り、舌先がクリトリスを優しく包み込む。
「あっ……そこっ……」
 レイの反応する部分に、メグミは迷わず触れ、責めた。
「そこ、そこぉ……くぅ、あぁっ……もっと……」
 もっとレイの反応が知りたくて、メグミは責め続けた。レイの愛液に顔を濡らしながら、指先で、舌先で、呼吸で。一心不乱に。

「メグミさ……ん゛、んんんっ……ぁ、だめっ、イ、イクッ……♡」

 レイの身体が小さく跳ね、メグミのクリトリスに触れる唇が小刻みに震えた。
 演技か本気かはわからない。でも、メグミには本気の絶頂に感じられた。

 またひとつ、レイに届いた気がした。初めてのレズセックスの中で、メグミは喜びと達成感を覚えた。

 レイは跨っていた態勢から、ぐったりとベッドに転がった。肩で息をしていた。ただ、メグミはそこで止まらなかった。
「レイさん、自分だけズルいよ……。私もイキたい……レイさんと一緒に……」
 普通なら一度カットを挟む。でも、メグミはそれをさせないように、バイブに手を伸ばした。

 気持ちを途切れさせたくなかった。このテンションのまま、もっとレイとしたかった。

 Uの字型の双頭バイブ。これなら、抱き合ったままお互いを刺激できる。
 ふたりでバイブをくわえる。ダブルフェラの状態から、時折、互いの舌先や唇が触れ合う。
 充分に濡らしたあと、メグミはレイに馬乗りになり、膣内なかにバイブを挿入した。
 レイも自らの手で、バイブを挿入する。抱き合う身体の震えと、喘ぎ声が重なる。

 スイッチは、ふたりで一緒に入れた。

 身体の内側から振動が襲ってくる。快感が一気に増幅される。触れ合う肌、繋がり合う膣から熱量が伝わり、身体がどんどん火照っていく。

 汗か涙かわからないまま、ぼやけるメグミの視界の中心には、レイがいた。

「あんっ……レイさんっ……! あっ、はぁ、だ、めっ……もう……!」

 レイを抱き締めながら、メグミは叫んでいた──「大好き」と。

 むせび喘ぐレイの目には、確かに涙が浮かんでいた。

 一瞬、真横にカメラの視線を感じた──抜かれている。全部。涙も、裸も、心も……──でも、関係なかった。たとえ誰が見ていようと、痛みにも似たレイへの想いを、胸が詰まるほどのこの気持ちを、伝えなければ気が済まなかった。

 ふたりは貪り合った。
 男とのセックスとは違う。何の技術もない、ぎこちなく、感情に任せた動き。獣のような抱擁。

 そうして、呼吸が、ぬめりが、体液が、混ざって、全部混ざって……。

「レイさん! レイさん゛! イクっ! イクぅっ!」

「メグミさん……私も……また、おっきいの、来るっ♡」

 言葉が出る。名前を呼び、呼ばれる。
 ただ、それだけなのに──それが、どうしようもなく愛おしかった。


***


「……はい、オッケー」
 監督の声が戻ってくる。照明が少し落ち、現実が足元に返ってくる。
 メグミは呼吸を整えながら、レイの表情を探した。レイは汗を光らせ、目尻に笑いを宿している。何かを言いかけて、言わずに、深く息を吐く。

 スタッフの声が聞こえてくる。
「めっちゃ熱い」
「またすごい作品になる」
「ふたりの化学反応、やばい」
 軽口のようで、熱のある声。メグミは頭を下げ、「ありがとうございました」と言った。レイはバスローブの裾を直しながら、メグミの方を見て、短く、ちゃんと届く声で言った。

「いい作品になりそうだね」

 ほんの少しの沈黙のあと、少し伏せた視線が、どこか遠くを見る。

「……私にとっても、特別なひとつになると思う」

 穏やかな光を宿した目が、優しく微笑んだ。それだけ言うと、レイは控え室へと歩き出した。
 背中が角を曲がって見えなくなる。メグミはその場に残り、胸の内にまだ揺れている波を、深呼吸でなだめた。

 撮影はもう少し続く。その間は、レイとまた一緒にいられる。メグミは、そのことが嬉しかった。


***


 発売後の反応は、想定以上に大きかった。

『メグミ、初レズでも容赦なしの本気セックス』
『メグミ×レイ。レズ史に残る化学反応』
『勢いのメグミ、殻を破るレイ。ただのレズじゃない。ふたりの感情が爆発』

 メグミの名前は、またひとつ伸びた。

 評価されることは嬉しかった。でも、痛みと熱が混ざったあの撮影を思い出すと、胸の奥にチクリとしたものが残る。
 その人を、本気で求めるようにして交わった。あの日の記憶が、画面越しに他人の目に晒されている。
 だが、売れている。評価されている。
 あれは演技ではなかった。演技ではないものを見せた自覚があるからこそ、肯定されているような気もした。

 しばらくしてから、現場でスタッフに呼び止められた。

「そういえば……レイさん、引退したらしいよ」

「えっ……」

 唐突に落とされたその一言で、足元がわずかに空洞になった。音は平坦だったのに、意味は鋭かった。
 よくあるAV女優の引退。それなのに──なぜ、なんで、どうして……──何かざらりとしたものが心に残った。
 メグミは「そうなんですか」とだけ答えることしかできなかった。

 帰り道、電車の窓に映る自分の顔は、いつもより少しだけ静かだった。
 窓の外を流れる景色に、あの落書きが重なる。
 クマのぬいぐるみ。大きなおしりのでぶこが、ふらっとした手足のふらりんが、手を繋いで、こちらを見ている。

 ぼんやりとした名前が口の中で転がり、飲み込めずに、喉の奥に柔らかく残った。
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