駆け出せ、メグミ 〜裸の性、裸の生き様〜

寸陳ハウスのオカア・ハン

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第21話 温泉娘! 前編!

 企画『温泉娘!』。
 女優が温泉旅行をして、旅館でエッチをする鉄板ご長寿シリーズ。今回は2泊3日、女優3人での旅行はシリーズとしては珍しい。

 ロケバスのドアが開くと、硫黄の匂いと肌を撫でる冷たい空気が一斉に流れ込んできた。

 白く染まった山並みを望む、静かな温泉街。例の旅館に到着したとき、空には薄い雪雲が垂れ込めていた。

 例の旅館に荷物を預けると、すぐに観光シーンの撮影が始まる。撮影班は最小限。女優3人と、カメラを持つ監督、それに音声スタッフとADがひとりずつ。

「じゃあ、ここからちょっと歩きながら撮っていきまーす。リラックスしてお喋りしましょ~」

 監督の軽い声に合わせて、メグミ、マイ、カナの3人は石畳の道を並んで歩き出した。
 カメラは前から、音声は後ろから。特別なセリフも演出もない。ただ自然体で歩いて、話すだけのカット。

「着いたね~! めっちゃ温泉街っぽい! 楽しみだね~!」
 マイが声を弾ませる。白い息がふわっと舞う。
「そうだね。マイちゃん、すごい気合い入れて準備してたもんね」
 メグミは両手をポケットに突っ込みながら、ゆっくりと歩調を合わせる。カナは微笑みながら、首をすくめ、マフラーを巻き直している。

「マイちゃん、そんな楽しみにしてたんだ。どんな準備してきたの?」

 監督の問いかけに、マイが「よくぞ聞いてくれました」と言わんばかりに鼻を鳴らす。
「この前、3人で買い物行ったんですよ。アウトレットに。そこでいろいろ買ったんです。あのときも、ちょっとした旅行みたいで」 
「うんうん。最初はカナちゃんがバッグ買いたいって言って……。でも結局一番買ってたのマイちゃんだったやつ。もう、どんだけお金使うんだって感じで」
「だって~! 冬物セールだったし、せっかくの旅行なんだから買っちゃうよ~! 小物ポーチとかスキンケアセットとか。このモコモコブーツも。あ、あとお酒! 日本酒のミニボトルも買ったの! 夜、一緒に飲むんだ~」
 何を話しても楽しそうなマイに、メグミは思わず苦笑した。
「マイちゃん、今日は飲みすぎないでね。この前は大変だったんだから」
 メグミが横目で見ると、カナが思い出したように口を開く。
「あー、あのラーメン屋の……」
「ちょっとカナちゃんストップ~! ラーメン屋のおじさんとの話は内緒だってぇ~」
 マイがカナにすがりつくように抱きつくと、カナはくすっと笑った。目を細めて、腕をそっと受け止める。口数は少ないけれど、楽しそうに見守っているのが伝わる。

「こうやって3人でいるの、楽しいねぇ」
 マイが、ふと落ち着いた声で言った。
 メグミは頷きながら、カメラを一瞥する。レンズの向こうで、監督が小さく頷いている。

「3人は普段から一緒に遊ぶの?」

 監督の言葉に、メグミは少しだけ視線を外してから答えた。
「元々はカナちゃんとふたりで遊ぶことが多かったんだけど……。最近はマイちゃんともよくお茶行ったりしてるよね」
「ね! カフェ巡り部、結成してます!」
「……カフェっていうか、マイちゃんが選ぶ店は、スイーツかお酒メインだけどね」
「ふふっ、でも、ふたりもわりと楽しんでるでしょ~?」
 マイはそう言うと、無邪気な笑顔でウインクした。

 わちゃわちゃと笑い合う声が、湯気の立つ温泉街に溶けていく。
 カメラのファインダー越しにその様子を見ていた監督が、ぽつりと呟いた。

「……なんか、ほんと仲いいんですね。女子旅みたい」

 メグミはその言葉に、小さく笑って頷いた。

「そうかも。今回は仕事ですけど、思い出にもなるといいなって思ってます」


***


 町の名所を巡って、おみくじを引いて、足湯に入って、あっという間に夕方になる。

「いただきまーす!」

 小さな旅館の一室で、女優3人と監督だけの食卓。刺身に鍋に、山菜の小鉢。一応カメラは回っているが、まるで社員旅行みたいな雰囲気だった。

 マイはおちょこを片手に、日本酒をなめるように飲みながら、昔の撮影話を喋りまくっていた。

「前に温泉ものに出たときは、スタジオのしょぼい温泉セットで、しかもなぜかソープマットもあって、えぇ~スーパー銭湯ですらないの~!? 嘘でしょ~ってなったから、今回ちゃんと温泉入れると思うと嬉しいなぁ~」
「いや、そのへん事前に説明あったでしょ?」
「えー! でも温泉ものって聞いたら、普通こういう場所で撮ると思わない?」
「マイちゃん、ちゃんと契約書の内容は確認しないと」
 呆れるメグミの前で、マイは「てへっ」とポーズを取った。いつものお気楽ぶりに、メグミはまた苦笑した。

 笑い合うふたりの隣で、カナはあまり口を挟まなかった。おいしそうに食事はしている。視線を合わせれば笑ってくれるし、会話に頷いてはくれる。ただ、目元にはどこか影がつきまとう。
 カナの輪郭は、何となく遠くにあるような気がした。

 夕食後も撮影は続いた。温泉には3人で入った。
 白いタオルを巻いた状態から、ゆっくりとお湯に浸かり、肌を濡らし、タオル越しに乳首や陰毛を透けさせる。そこから徐々にパーツを見せていき、タオルをはだけ、全裸へ……。
 とはいえ、初日は湯船の中での本番はなく、単なるオープニング用のカット。のぼせない程度でカメラは撤収され、1日目は終わった。


***


「メグちゃん、カナちゃん、お酒飲も~」

 夜、3人はマイの持ってきた日本酒のミニボトルで晩酌した。

「明日から本番撮影、だよね……。ちょっと緊張するな~」
 緊張すると言いつつも、酔っているせいか、マイの雰囲気はいつも通りだった。
「大丈夫。個別撮影は特別な設定もないし、普通のセックスだから」
 メグミは笑ってなだめる。日中の撮影は、温泉宿の一室で、ただ男女が愛し合う、というだけの構成である。
 それでもマイは、緊張を隠さず笑った。
「そっかー……。でも普通って逆にムズくない?」
「普通……。普通……、まあ……う~ん……」
 メグミはなんとなく悩んでしまった。カナは、相槌こそ打つものの、そのときも何も言わなかった。

「あ、雪だ」
 マイは部屋の窓を開けて、夜風を受けながら空を見上げた。メグミとカナもその隣に腰を下ろし、ぼんやりと空を見上げた。

 暗闇の中に、ぽつりぽつりと白いものがちらつく。

「なんか、ずっとこのままがいいよね~」

「……そうだね」

 静かに舞い落ちる雪の結晶を見ながら、メグミは呟いた。
 メグミは、何も言わずにいるカナを見た。夜空を見上げるカナの横顔は、今にも吸い込まれてしまいそうで、メグミの胸は思わずざわついた。

 この業界で心を許せる人間は限られていた。裸を晒して仕事をする女優同士だからこそ、どこまでが素で、どこまでが演技なのか……。考えると距離を取ってしまうことが多かった。
 しかし、カナとマイとは自然と仲良くなれた。人生の親友と言ってもよかった。

 マイの言葉通り、この時間がずっと続いてほしいとメグミも思っていた──しかし、いつか終わりはやって来る。

 不意に、カナが視線を合わせてきた。その目元には、穏やかな光が宿っていた。メグミは、ただ微笑み返すことしかできなかった。

(カナちゃん……たぶん、もしかしたら……)

 この感覚を、メグミは知っていた。

 冬の空には雪の星空が広がっていた。夜風は肌寒かった。
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