パーフェクトワールド

出っぱなし

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「だって、普通に考えたらそう思うだろう。災害で苦しんでいる人たちとか、病気で死にそうな子供とかいるじゃないか。そういう人たちに手を差し伸べるのが、あんたの仕事だろ?」

 神は、急に不機嫌な表情になったかと思うと、うんざりしたかのようにわざとらしくため息を大きくついた。

「全く、どいつもこいつも、私が現れるたびに、うんざりさせるような事ばかりほざきよる。私の仕事をお主たちなんかに決められてたまるか。神などいないのか、などとほざく奴がいるが、私はいる。私には関係ないと思っているだけだ。いいか、お主たちを創ったのは確かに私だ。だがな、その後のことなど知ったことか。問題など自分たちで解決しろ。元々、お主たちが勝手に作り出した問題だろうが。それを困ったときだけ神様助けてください、なんて都合がよすぎるのだ。お主たちは、今まで好きにやってきたのだ。私には知らん! 勝手にしやがれだ!」

 神は、見境なく興奮しているようだった。
 顔は真っ赤になり、額には血管が浮き、テーブルをバンバン叩いている。
 彼はそう訴える神を見ていて、ふと目頭が熱くなってきた。

「何て無責任な。まるでわがままな子供じゃないか」
「そうだよ、それが私だ。フハハハハ!」

 神はやたらと偉そうに高笑いをした。
 彼は平静を取り戻そうとふう、と一息ついた。

「それで話は戻るけど、何であんたは僕のところに現れたんだ?」

 確かに、それは僕もいまだに疑問に思っている。
 結局、僕はこの有様だ。

 神が現れたことに全く意味などないのではないのか?
 まさか、神が全てを仕組んだことなのだろうか?

 ……だめだ、余計なことは考えるな。
 今はこの記憶に集中しろ。

「おお、そういえばそうだったな。よいか、よく聞けよ。お主は、実に平凡な男だ。特に優れてもいなく、特に劣っているというわけでもない。普通の人間だ。そのくせに、怠惰で無気力な男だ。それでいて、何か面白いことが起きないかと期待だけはしている。自分から動こうとしないくせにな。そんな奴はただのクズだ。つまり、ただ単純にお主にムカついただけだ。そして、天罰を下すことにした」

 明らかに不条理なまでに理不尽な言い分だ。
 ただの気分で天罰を下すとか、とんでもない神だと思う。
 だが、神の目は現れてから一番真剣だった。
 彼は間違いなく何かやる気だと思ったに違いない。
 身体が硬直した。

「あ、あなた様は本当に神々しくて、想像以上にすばらしく……」
「媚びを売っても無駄だ、馬鹿者め! お主の想像力が欠如しているからだろうが! 私が素晴らしいことなど、私自身が一番分かっておるわ! さあ覚悟しろ、小僧!」
「ちょっと待ってくれよ! そんなの理不尽じゃないか! だいたい、僕より怠け者なんていくらでもいるじゃないか! ジャンキーとか引きこもりとか、それに悪い奴だって、連続殺人犯とかレイプ魔とか独裁者だって! 自分の保身しか考えない政治家だっているじゃないか! そいつらはどうするんだよ!」
「そいつらにも天罰を与える日がやってくるかもしれんし、来ないかもしれん。それは、私が考えることだ。やれやれ、今度は他人になすりつけようとするとは。全く、お主は虫けらのような男だな。……ふむ、虫けらか。こいつはいい考えだな。お主は、ゴキブリにでも変えてやるか。虫けららしくな。フハハハ!」

 神は実に楽しそうに声をあげて笑った。
 こうして見ると、神ではなく悪魔なのではないだろうか?

「それは勘弁してくれ。何でもするから助けてくれよ」

 彼は完全に泣き声だった。
 その時、神の目はぎらりと光り、こずるくにやりと口元をゆがめた。

「ほほう、そうか、何でもするか。それならばよかろう。私を楽しませてみよ。期間は、そうだな、私が次に、お主の前に現れた時までだ。それは、1週間後かも知れんし、1年後かも知れん。いつかは、私が決めることだ。とにかく、その時までに私を楽しませるのだ、よいな? それでは、私は帰る」

 神は一方的に言うだけ言って、返事も聞かずに店から立ち去った。
 彼はイスの背にぐったりともたれかかった。

 僕は今の出来事を反芻していた。
 もう一度追体験してみても、現実感はまるでなかった。

 記憶違いということはないだろうか?
 いや、それはないだろう。
 おそらく、この記憶は表層的なものではなく、深層的なものだろう。
 そうならば、あやふやなものではないだろう。

 だが、例えそうだとしても、この出来事が一体どういう意味をもっているのだろう?
 全ての不要な部分を削ぎ落とせば、きっとわかってくるのだろうか?
 まだまだ、全ては始まったばかりだ。
 
 急に視線が動くと、いつの間にかジローが来ていた。
 呆然としている彼を、不思議そうな顔をして見つめていた。

「どうした、アニキ? ぼうっとしちまって。ほらほら、ジローちゃんが来たぜ」

 ジローはおどけて手を振っていた。

「たった今、神に会った。虫けらに変えてやるって。でも、楽しませたら許してやるって」

 彼は、ぶつぶつと小声でつぶやいた。

「おいおい、何を意味のわかんねえ事言ってやがる。ハードドラッグにでも手出しちまったのか?」

 ジローは不思議そうに眉をひそめていた。

「いや、何でもない。忘れてくれ」

 彼はどうにか平静を取り戻した声を出した。
 そして、イスにしっかりと座り直した。

 それから、小1時間は話をしたと思う。
 オーストラリアの後、どこに行って何をしたとかいうどうでもいい類の話だ。

 この時のジローは、浅黒い顔に口ひげを生やし、細面の華奢な体つきをしている。
 日焼けをした狐といった感じだ。
 バックパッカーたちがよく着る、麻のシャツにタイのフィッシャーマンパンツという典型的な格好だった。

 この間は、全て簡単に省略されていった。
 そして、ジローは仕事があると言って席を立ち帰っていった。
 彼が何の仕事をしているのか、と尋ねたら、そのうちに教えるよ、とジローは意味ありげにはぐらかすだけだった。

 彼は家に帰り、ようつべでお笑いの勉強をした。
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