アマドーラ帝国の雫

空うさぎ

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迷い込んだ森

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水の流れる音がする…。

 青く澄んだ1滴の雫が、やがて大きな水流となり…多くの生命を潤す。

 ルルド地方に古くから伝わる詩があった。

 アマドーラの泉が枯れるとき
 ルルドの雫が大地を潤す
 アマドーラの地に嵐が吹き荒れるとき
 ルルドの木々が大地を守る
 讃えよアマドーラ
 讃えよルルド
 永久とわに栄えんことを


「―ここは…何処?」
 うっすらと明るい光を感じて、ラルムは徐々に目を覚ました。

「大丈夫かい?」
 少し離れた場所から、温かみのある穏やかな声が聞こえ、こちらに近づく気配を感じたる。目を開けて天井を見上げるのと、柔らかな手が額の上に置かれたのはほぼ同時であった。


「…ここは?」
 いったい自分に何が起こったのだろう…。状況が全く理解出来ない。
 一息、大きく深呼吸する。

 木々が複雑に組み合わされた高い天井を目にして、ここは全く自分の知らない場所だと認識する。
「…すみません、ここは?」
 おそるおそる…体を起こそうと身をよじって起きようとするが、体は思うように動いてくれない…。

「あらあら…まだ動いてはダメ」

 ―そこで視界に入った女性を見て、私は驚きのあまり…目を凝らす。
「サラ…?」
 じっと見つめて、その言葉が過ちであったことを知る。
 ―左の瞼にほくろが無い。
 ―顔の輪郭もサラと違って面長で、髪の毛の色や長い髪の結い上げ方も全く違っていた。
 ―驚きと落胆。
 ―よく似ているけれど…サラではなかった。




「似ているでしょ…」
 にこやかな微笑みを浮かべながら、私の気持ちを代弁するかのように女性が話す。

 私はゆっくりうなずいた。

「サラは私の双子の妹だからね…似ていて当然なのよ」

 ―サラが双子!?
 ―この女性がサラのお姉さん…
 始めて聞く話に、驚きを隠せない。
「サラのお姉さん…」

「驚いたでしょ…まぁ無理もないわね」
「でも、私は貴女を知っているわよ…ラルム フローディアさん」

 そうか…この女性は私の伯母さんにあたるのだ。
 ―咄嗟に…私は一人ぼっちじゃないと思った。
 その事実が、単純に嬉しかった。
 強張った表情が、次第に弛んでいく。

「私の名はミラ フローディア、よろしくね」

 そう言って、ミラは優しく私の肩を抱きしめた。

「はじめまして、ミラ…よろしくお願いします」
 私の声は少し掠れてしまって…それでも声に出して伝えなければならない事があった。
 ―そう、最愛のサラがもうこの世にいないと言うことを。
「サラは去年…流行り病で…」
 そこまで言ったところで―
「知っているわよ…」
「何もかも…知っているから大丈夫」


「……」
 ―それ以上の言葉は…もはや必要ではなかった。
 ただ自然と溢れた涙を、私はそっと拭った。

 ―しばらく静かな時を共有した。
 ミラは私の気持ちが落ち着くまで、そのまま抱きしめてくれていた。
 ―ミラだって、私と同じくらい
 ―ううん…きっと私以上に
 ―サラを失って辛かったはずだ

「―ごめんなさい…ミラ」
「いいのよ…」
「―分かっているから」



「ところで…ラルム、貴女に何があったの?」
「この石がさっそく感応したんだね?」

 私は簡単にここへ来る前の状況をミラに話した。
 ―石のこと、そして…アドリアンのことを。

 でも何故か…誕生日に逢ったアマドールの騎士?魔術師?の事は話せなかった。

「スモン家のアドリアンかい?それはずいぶん厄介な事だね…」そう言ってミラは笑った。
「ラルムの石は…貴女の危険を察して、一番安全な場所に瞬間移動したんだね」
「さすが…アマドーラの雫だわ」
 納得したように、ミラが頷く。


 
 ―アマドーラの雫?
 ―いったい何の事だろう?

 ―アドリアンは今頃、どうしているかな?

 そして私は自分が何処に導かれたかを知る。
 ―ここは奥深いルルドの森。

 ―かつてアルカサンドラ王家に追いつめられて貴族名簿から除籍された貴族が代々治めてきた土地だという。




       
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