圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

過去

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「あーなんだ、まず、そうだな……試験を受けさせたのは、おれの独断ではない。提案したのはおれだがな」

 進路希望を一つも書かない先輩の状況を聞いて、オッサンと学校側が相談の上、本人には試験当日に伝えるというサプライズ入試が敢行されたらしい。先輩の進路に対する態度には、オレ自身何度も腹を立てたので気持ちは分かるが、オッサンだけでなくサプライズ入試を認めた霧夜氏も結構な無茶をする。

「事前に伝えると、逃げそうだったからな。どうせ試験の後、阿呆みたいに悩んでただろ。それを先にさせると、話が進みそうになかったんでな」

 考える時間を与えず、試験を受けさせたのは正解かもしれない。先に知らされていたら、先輩は確実に試験をまともに受けなかっただろう。帰ってきてからの様子を少し話してやると、オッサンは『やっぱりな』と言いたげな顔を見せた。

 そして「結論から言うと半々だ」と真剣な顔で言った。なんの結論だと聞き返せば、さっきの質問の答えだと言う。

「詳しい状況は分からない。ただ勝家が城井浩太郎という老人を殺そうとしたのは事実だ。勝家に自覚があったのかは怪しいがな。城井は猿轡をはめられ麻袋に詰め込まれた状態だったからな」

「…………先輩は、じいちゃんを殺したって言ってた。その城井って人が先輩の祖父なのか?」

「あぁそうだ。勝家の母親は城井の娘だ。娘は母親に引き取られ、そちらの姓を名乗っていたらしい。それが金城だ」

 先輩は本当のじいちゃんか分からないって言ってたけど、血縁関係はあったのか。

「勝家は麻袋に二発の銃弾をブチ込んだ。恐らく放っておけば城井は死んだだろうが、そうはならなかった。瀕死の傷を負ってなお、城井は自殺した。勝家に自分を殺させたくなかったんだろうさ」

 ドバッと寄越された情報の濃さに一瞬だけ頭の中が真っ白になった。

 二発の銃弾って事は、先輩は『じいちゃん』と慕っていた城井という男に拳銃を向けた。いや、麻袋に詰め込まれていたのなら、相手が誰だか分からなかった可能性も高そうだな。とは言え、先輩が『人』に拳銃を殺意を向けたのは事実なのか。人が入っているとは知らず、単なる射撃訓練による事故だった、とかいう可能性は……ないよな。そもそも、拳銃を手にしている時点で大問題だ。

 あ、でも、自殺だったんだよな。それなら先輩が殺したって事にはなってないのか? 

「城井が自殺した事は勝家には伝えていない」

 なんでだよ! 先輩はずっと自分が殺したって苦しんでるんだぞ。

「そりゃ悪かったな、気が利かなくて。じゃあお前から勝家に言ってやれよ。『お前がトドメ刺さなかったから、瀕死の爺さんお前を庇う為に根性見せて自殺したんだぜ』ってな」

 オッサンの言葉にオレは閉口するしかなかった。自分のキャパを遙かに越えた事情を前にして、オレはただ自分の中の常識がはじき出す疑問を口にする事しか出来そうになかった。

「……先輩は今、どういう状態なんだ。なんで逮捕とか、されてないんだよ。未成年だからか?」

 圏ガクは更生施設のような側面はあっても、あくまでただの高校、学校なはずだ。それともオレが知らないだけで、正真正銘の更生施設なんだろうか。

「安心しろ。ここはその一歩手前だ。掃き溜めだろうと、胸張って卒業できる学校だよ」

 オッサンはそう前置きして、先輩の特殊な事情について、不可解な事を言った。

「城井の件について、おれらは勝家を容疑者ではなく凶器として処理している」

「……きょう、き?」

 人間を凶器として処理って、少し無茶すぎないか。それなら『未成年だから』の一言で済まされた方が、まだ理解出来るってものだ。

「これ以上の深入りをする気なら、ここを出る前におれはお前の記憶が飛ぶまでぶん殴らなきゃならないんだが……その覚悟はあるか?」

 このオッサンに殴られたら、本気で記憶が飛びそうだが、要するに『ここだけの話』にしろという意味だろう。黙って頷くと、オッサンは隣りに座れとベッドを叩いた。それに従うと、何故かいきなりベッドに押し倒された。そして、問答無用に体をまさぐられる。

「おいッ! なにすんだ、離せ!」

 必死で抵抗するも、さっき学んだとおり微塵も歯が立たず絶望的な気分になる。

 乱暴な手つきで、半ば破るような勢いで服を脱がされる。いくら布団がフカフカだろうと、地下の冷たい空気の中で半裸にされるのは、勘弁してくれと言いたくなった。

「オッサン、本気で何したいんだよ」

 全身をまさぐった後、オッサンは一人むき出しの便器に向かう。服を整えつつ、文句を言うと、オッサンは便器に何かを投げ捨て、水を勢いよく流した。

「お前、羽坂のオトモダチと一緒に居ただろ」

 柏木の事を言い当てられ、それが顔に出たのだろう。オッサンはオレの服に付けられていた(恐らく)盗聴器の存在を教えてくれた。それがいつから付けられていたのか考えると、自分のおめでたさに泣けてくる。

「あのボンボンも勝家の何が気に入ったのやら。まあ、色々と助かってはいるけどな」

 プライバシーを全力で侵害してくる相手だが、オレがやらかしたドジから先輩を守ってくれたのは会長だ。やり方はかなり無茶苦茶だが。

 再び戻って来たオッサンは、盛大にベッドを軋ませて隣りに座る。オレのホモ発言に無遠慮な嫌悪感を見せてくれたので、香月たちのような危険はないと分かっていても、圧倒的な力の差に少しだけ腰を浮かせて距離を取った。

「悪いが全部は話せんぞ。もう終わった事、お前が知らなくていい事はぼかす。分かったら黙って聞け。いいな」

「今の先輩の事情が聞ければそれでいい」

 黙れと言われても、それだけは言っておく。そこをぼかされては意味がないのだ。オッサンは了承してくれたのか、ニタッと笑い淡々と説明を始めた。

 先輩は幼い頃から武器として育てられていたらしい。秘密機関でもテロリストでもなく、あくまで個人ならしいが、その辺はオレが知らなくてもいい部分なようで、オッサンはただ『男』としか説明してくれなかった。

 男が幼い先輩に叩き込んだのは、人が人を襲う様々な方法、有り体に言えば暗殺術で、男は先輩をそのように運用するつもりだったようだ。だが英才教育を施したというのに、どういう訳か、先輩は決定的に向いていなかった。失敗すれば酷い折檻が待っているのに、先輩は誰一人殺める事は出来なかったらしい。成果を一つも見せない先輩に業を煮やし、男は先輩を何度も傷付けた。体の傷痕は全て、男が先輩を追い込む為にやったのだと聞かされ、怒りで頭がおかしくなりそうだった。

「んで、何度も殺されそうになっていた勝家を治療させられていたのが城井だ」

 オッサンは先輩のじいちゃん、城井老人については詳しく教えてくれた。

 先輩を庇う為に自殺を選んだ人らしいが、どうしてそうなってしまったのか、何も知らないオレには不可解としか言いようがなかった。

 きっと城井老人にとっても、先輩は大切な存在だったのだろう。なら、どうして、もっと早く先輩を助けられなかったのか。あの悲惨な傷を治療していたのなら、先輩がどんな扱いを受けていたのか、気付かないはずがない。

 そう疑問に思い、つい口を挟んでしまったのだが、「黙って聞け」と容赦のない拳骨と一緒にその答えをもらった。

「治療させられていたってのは、あくまでおれらから見た場合だな。恐らく城井は勝家の治療をさせて貰ってたんだろうさ」

 名前すら教えてもらえない諸悪の根源である『男』から、先輩を助け出す事は不可能だったって事か? 重ねて聞けば、オッサンは「イエース」と冗談のような口調で答えた。

「城井がつかず離れず勝家の側にいた事が割と奇跡みてーなもんでな。男の所在をここまで長く掴んでいた事例は他にないんだよ。孫を思う城井の執念みたいなもんじゃないかとおれは思っている」

 仮に城井老人が男から先輩を取り戻そうと警察などを頼ろうものなら、その時点で殺されていただろうと、オッサンは付け足した。

 男にとって先輩は邪魔になったら始末する程度のモノで、例え死のうがお構いなしだった訳だ。生きているのが不思議と思わせる傷痕が何よりの証拠だな。それを必死で阻止しようとしたのが、城井老人なのか。

「元は町医者だった城井が、闇医者家業に足を突っ込んだのも、勝家を誰にも知られず治療したいが為だ」

 闇医者か。あまりに現実感がなくて、いや、オッサンの言葉に頭の処理が追いつかなくて、オレはその怪しげな職業についてはスルーした。気になる事は他にも山ほどあったからな。

「先輩の親、その城井の娘だったか、その人はどうしてるんだ。自分の子供が犯罪者に誘拐されてるのに何もしなかったのか?」

 まあ自分の身の上を考えると、子供を売っぱらう親もいるかもしれないと本気で思ってしまうのは情けない話だが、先輩の状況はあまりに異常だ。少なくとも祖父の城井老人は真っ当な人のようにも思う。なら、その娘、先輩の母親は何をしているのか。

「何もしてねぇよ。勝家が生まれ出た時には既に死亡していたからな」

 妙な言い方が引っ掛かったが、オレは「じゃあ父親は?」と口にしてしまった。

「勝家を引きずり出して育てた」

 オッサンの言葉にオレの頭の中は耐えきれず、一瞬視界すらも真っ白になった気がした。

「黙って聞けと忠告してやったろうが。少し休むか?」

 頭のせいで体がふらついたらしく、オッサンはオレの肩に手を回し、無様に後ろへ倒れ込む前に支えてくれる。出来る事なら、休憩と称して、地下から脱出したい気持ちもあった。けれど、それは出来ない。

「大丈夫、ちょっとクラッとしただけだ」

 オッサンの支えを丁重に返却すると「無理しなくていい」と、意外にもこちらを気遣うような声が聞こえた。だが、余計なお世話だ。

「まだ大事な事が聞けてない。続けてくれ」

 先輩の過去は、この際どうでもいい。オレにとって一番大事なのは今の先輩だ。オッサンの気が変わっていないか不安になったが、目が口ほどに物を言ったのだろう、溜め息一つで脱線していた話を再開してくれた。

「殺しは出来なかったとは言え、勝家はかなりの仕事をやらされていた。まあ、本来の用途を思えば欠陥品だが、使い方次第では超一流の犯罪者の出来上がりな訳だ」

 学習してオレは黙って話を聞こうとしたが、つい口を挟んでしまう。

「先輩は自分の意思で人を傷付けたりしない」

「そうだな。だが、勝家の身柄を確保した当時、おれらには勝家に自分の意思ってのがあるのか分からなかったんだよ」

 オッサンたち警察が、先輩と男の身柄を拘束、逮捕したのは、先輩が城井老人を殺害しようとした現場だったらしい。

「男を先に確保出来なかったら、恐らくおれらは勝家に圧倒されていただろう。腕に自信のある久保ですら、秒殺だったからな」
 黙って頷くだけで流そうとしたのに、敵の名前を耳にして、思わず反応してしまった。一瞬だがオレに宿った敵意を察してか、オッサンは豪快に笑う。

「そう嫌ってやるな。久保が危惧している事は的を射てる。私情もだいーぶ入ってるがな」

 先輩に秒殺された事を根に持っているのかと聞けば「それもある」と笑いやがる。何が可笑しいんだと聞けば、意外な名前がまた出て来た。

「若狭の妹っつーか、お前にとっては女教師って言った方がいいか? まあどっちでもいいな。久保はそいつと一時期盛り上がってたんだよ。勝家を出しにしてな」

 どんだけ尻の軽い女なんだ。いや、普通なのかな……先輩を誘惑しやがった女として、オレの中で固定されてしまっているせいか、あまり良い印象がない。

「そう言や、なんで一年のお前が若狭を知ってんだ? あいつが圏ガクに居たの二年前だぞ」

 あんたの不用意な一言で知る羽目になったんだよ。

 山センから聞いた話を(初日に山センがヤったってのは省いたが)すると、無責任なオッサンは苦笑しながら事情を話し出した。

 長い間、人として扱われていなかった先輩の処遇について、オッサンたちは困ったそうだ。先輩には同情的な意見もあったが、久保と同じく危険視する声が多数あったようで、順当に保護施設へ送るという選択は困難だったらしい。

 そこでオッサンが思いついたのは圏ガクだった。圏ガクなら暴力が日常茶飯事、先輩が少々暴れようが誰にも迷惑はかからないと安直に思ったのだとか。

「別にそれだけが理由じゃないぞ。おれの恩師がここに居たからな。勝家がどんな奴なのか、先生に見て貰いたかったんだよ」

 オッサンの恩師? 霧夜氏の事だろうか。

「勝家にねちこく絡んでるおっさんの事じゃねぇからな」

 恩師の正体は圏ガクの校長だと、オッサンは教えてくれた。霧夜氏はその校長に頼まれた代理ならしい。昔から度々、その校長に助っ人を頼まれ、霧夜氏は何度か圏ガクで教鞭を執り、タイミング悪くオッサンはその頃に入学したのだと、嫌そうな顔で言った。

「先生に丸投げって訳にはいかんだろうと思ってな、若狭の妹を勝家に付けたんだよ」

 付けたってなんだ。世話係って事か? いや、それにしたって無謀だ。圏ガクだぞ。普通の女を放り込むなんて、警察のする事とは思えない。

 冗談で済まない無責任さに、オレが眉を顰めていると、オッサンはそれには気付かず、少しばかり声のトーンを落として続けた。

「まあ、これも偶然なんだが、おれの後輩の若狭が病気で逝っちまったんだ。その時健気に看病していた年の離れた妹に学生時代の事を色々話していたらしくてな。葬式の時に本人から相談されたんだよ。『兄貴が行ってた圏ガクで働きたい』ってな」

 渡りに船とオッサンは高校教師だったその後輩の妹に先輩の事を話した。

「兄貴の影響か、これがまたエライ跳ね返りでな。圏ガクの現状は説明したんだが『ガキに舐められるようなハンパな生き方してない』っつって快諾してくれたんだよ、これが」

 面白いように上手く事が運んだと、オッサンは膝を叩いて笑う。警察とは思えない凶悪な面を見ていると、偶然ではなく裏で仕組んだ結果なのではと思ってしまうが、あえて黙って聞いた。

「勝家のフォローをしてやってくれと頼んだが……おれとしてはもう一歩踏み込んだ所まで世話してやってくれと思ってた訳だ」
 下卑た笑みを浮かべ、オッサンはオレをジロジロと見た。

「一番分かりやすいだろ、色恋っつーのは。勝家が若狭妹にコロッと惚れてくれりゃあ、こちとら『あーこいつもただのガキだな』と思える訳だ。な?」

「『な?』じゃねぇよッ! よくも先輩を誑かしやがったな!」

「別に誑かせとは言ってない。勝家の首に首輪をはめてくれりゃあなぁと思っただけだ」

 く、首輪!? なんちゅー事を言いやがる。そんなもんオレが引き千切ってやる!

「ま、実際はそれが裏目に出た結果が今日を招いたって感じなんだけどな」

 反省はしているのか、おっさんは肩を竦めてにやけ面を引っ込めた。

 一応教師としての自覚はあったその女教師は先輩を拒み、ろくでもない上級生たちの中に飛び込んでしまった。そこへ追いかけて来た先輩が女教師を助けた訳だが、その姿を目の当たりにし、女教師は自分をレイプしようとした奴らより先輩に怯えていたらしい。

「勝家が暴れたって聞いて慌てて駆けつけたんだが、その時、若狭妹と久保は親身になったんだよ」

「そいつらのなれ初めなんて聞いてねぇし。つーか、先輩はその女をレイプしようとした奴らから助けただけだろ。それなのに、なんで先輩が悪いみたいになってんだよ」

「若狭の話では、勝家も強引に迫ったらしいから『助けただけ』ではないがな」

 昔の事とは言え、先輩が他の奴をどうこうって話は堪えるな。自分の狭量さに泣きたくなるが、グッと奥歯を噛んで踏み止まる。

「先輩からは逃げたんだろ。なら、未遂だ問題ない」

「未遂も立派な犯罪だ」

「そうッだけど……先輩は助けたんだろ。なんで、その辺を汲んでくれないんだよ」

 なんで、オレを助ける為に笹倉を殴っただけで駄目なんだよ。

「お前は見た事がないから言えるんだ。実際にあの時の勝家を見た若狭の気持ちをおれらは否定出来ん」

 女教師が先輩の事をどう言ったのか、オッサンは詳しく話さなかった。ただ、その日を境に、先輩を一人の生徒としては見られなくなったと言い残し、女教師は圏ガクを辞めたそうだ。

 久保をはじめとする先輩を危険視する奴らは、すぐに対処するべきだと圏ガクに乗り込んだが、オレの知らない圏ガクの校長がそれを阻止してくれたらしい。

「勝家に圏ガクを卒業させる事、先生はそれを認めさせた。でもな、久保たちもただでは折れてくれなくてな。条件を出してきやがったんだ」

 オッサンは分かるだろと言いたげな目をした後、黙ったままのオレを見て溜め息を吐いた。

「勝家の暴力行為を認めた場合、しかるべき処分をする……それが卒業までの時間を守ってくれる条件だったんだよ」

 疑いようもなく、オレのせいだ。オッサンの言葉の重さに潰されそうになったが、潰れている暇はない。

「で、こっからが本題だ」

 折れそうになる気持ちを気合いで補強していると、オッサンはオレの方を向いて真剣な顔を見せた。

「色々話したが、ぶっちゃけ全部片付いてんだよ。情けない話だが、勝家しか残ってねぇんだ」

 事情は聞くなとオッサンは念押しするが、さっきまでの話を思えば、簡単に『片付いた』と言える理由がまるで浮かばない。殴られるのも覚悟して、その部分を尋ねると、心底嫌そうな顔をされたが、意外にあっさりとその理由を教えてくれた。

「事情を知る人間が、勝家以外に残ってないんだよ。全員あの世に逝っちまってるからな」

「逮捕されたんじゃないのか、先輩の……先輩と一緒にいた男は」

「ムショん中で事故死した……って事になってるが、身内が始末したんだろうさ。奴ら、勝家に関しては一切関与しないと公言してきやがったからな。ま、本当なんだろう。だから、おれが貰う事にした。文句あっか?」

「文句あるに決まってんだろ。てか、奴らって誰だよ」

「お前は知らなくていい。ただ、勝家に余計なしがらみはない事だけ今すぐに理解しろ」

 有無を言わさぬ圧力を感じ、オレは黙って頷く。すると、オッサンはニッと歯を見せて笑うと、ガッとオレの頭を片手で掴みグラグラと揺すってきた。

「あの笹倉って奴の事は、確かにイレギュラーではあるが、さほど問題だとは思ってない。羽坂が動かなくても、久保程度ならおれが丸め込めるしな」

 頼もしい一言にオレは安堵しそうになったが、目の前にあるオッサンの顔は何故か険しくなった。

「めんどくさくて、考えんようにしてきたが、やっぱりどうにも簡単にはいきそうにない」

 オッサンは真っ直ぐにオレの目を見て言った。問題は先輩自身だと。

 先輩は自分自身の置かれている事情を全て知らされている。城井老人の自殺や、先輩の出生に関する事は伏せられているらしいが、圏ガクに送られた経緯や現状に至る全てを、校長の指示で説明したとオッサンは言う。

「圏ガクで過ごす三年間は、勝家自身のこれからを見つける為に使えと先生は言った。その答えが多分……さっきお前も見てただろ、あの部屋でのやり取りだ」

 さっき、あの部屋でのやり取り。数分前の出来事なのに遠い気がした。思い出すのに一瞬呆けてしまったが、オッサンの言いたい事をすぐに理解した。

「先輩は、自分でここを出て行こうとしている……のか」

 自分の声とは思えないくらい、低い声が出た。否定して欲しいのに、オッサンは「そういう事だ」とハッキリと肯定しやがった。

「で、勝家の自称恋人の色男。お前にミッションをやる。心して聞け」

 誰が自称だ。オレと先輩は、学校公認(黙認と書いて公認と読む)の関係だ。

「おれは勝家を箱ん中で飼うのは心底もったいないと思ってる。自分がやらされていた事の償いをしたいなら、おれが国民の安全の為、こき使ってやる方が有益だ」

「それ以外に選択肢はないのかよ」

「ねぇーよ。勝家が危険である事も事実なんだ。一歩間違えば、それこそ記録的な犯罪を犯す可能性がある。誰かがその責任を持たなきゃなんねーだろ。それをおれがやってやるって言ってんだ」

 オッサンに責任が取れるのかと聞けば、先輩が何かやらかす前に自分がぶちのめすと当然のように言いやがった。大丈夫かと思わないでもないが、冗談を言っているようにも見えず、オレはジッとその横顔を見つめる。

「なんだよ、何が言いたい?」

 オレの視線が居心地悪かったのか、オッサンはムスッとした顔をする。

「あんたはどうして先輩を構うんだ」

 フンと鼻を鳴らしながら、オッサンはそっぽを向く。オレの素朴な疑問は、少しの間だけ宙に浮いていたが、意外と素直に答えてくれた。
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