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蜜月
後輩の課題
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「寮長は先輩、金城先輩のじいちゃんの手帳を全て持っているんですよね」
オレの言葉に寮長が眉根を寄せたが、特に口を挟む事なく続きを聞いてくれそうだったので、本題を切り出す。
「その中に先輩の名前について何か書いてありませんでしたか?」
「……どうして、それを知りたがるんだ」
寮長に問われて、オレは先輩に聞いた事を全て話した。先輩がどう思っているのかを。
「先輩は警察とか、そういう赤の他人が名前ないと不便だからって、自分に名前を付けたんだと思ってるみたいなんです。でも、もし、そうじゃあないなら、先輩ももっと自分の名前を、その、大事に出来るかなって思って。手帳に何か書かれていませんでしたか?」
話しを聞き終わり、寮長は溜め息を吐いた。
「金城先輩の名前は生まれた時から変わっていない。赤の他人が記号代わりに付けたものなどではないよ」
寮長の言葉が嬉しくて顔を上げると、何故かそのまま黙ってしまわれた。
「あの……それで、なんて書いてあったんですか?」
オレが先をせかすと、再び溜め息を吐かれる。
「自分で読み解けと言ったはずだ。必要なら至急写しを送らせよう」
「あの、どうしても駄目ですか?」
「人の過去に土足で踏み込むようなものだ。更にそこで得たものを吹聴するなど僕には出来ない。それに、人から聞くのでは意味がないだろう。金城先輩に伝えたいなら、お前が手帳を読み、そこから御本人の意志を汲むのが礼儀だと思うが」
実にまっとうなご意見だ。
「先輩の名前は、ちゃんと家族が付けたんですね」
寮長は黙ったまま首肯もしてくれなかったが、否定はしなかった。それだけ分かれば今は十分だった。
「あの、寮長。冬休みが明けたら、手帳を読み解くの手伝って貰えませんか」
「今じゃなくていいのか? 明日には写しを届けさせられるが」
「いえ、今は他にやる事が結構あるので。少し時間が空いてしまいますが、お願い出来ませんか。先輩が卒業するまでには伝えたいんです」
頭を下げると、ふっと寮長が笑ったような気配がした。
「いいだろう、ではそのように準備をしておこう。今度はお前一人で来るように。春日野は絶対に連れてくるな」
墨汁の事やっぱり怒ってますよね。最後の一言で室温が数度下がった気がした。しおらしく「はい」と返事をして、オレは寮長に背を向けた。
先輩は毎日、本当によく頑張っていた。補習と自習、もちろん授業も真面目に受けている。守峰の助けもあって、オレの用意するテキストや課題も完璧なので、当然と言えば当然なのだが、先輩の学力はどんどん上がっていった。
「セイシュン、見てくれ! 小テストで満点を取ったぞ! こんないい点数、初めてだ」
たかが小テスト。授業内容を真面目に聞いていれば、満点で当たり前なのだが、こんなに喜んでいる先輩に水は差したくない。
「さすが先輩だ。この調子でどんどん行こうぜ。目指すは定期考査全教科満点だな!」
「……それは……ちょっと、自信、ないな」
先輩のテンションがメッチャ下がってしまった! 何故だ!
「大丈夫だよ。全教科は言い過ぎたな、とりあえずは半分だ。半分は満点にしようぜ!」
あぁぁ何故だ! 先輩が切ない目で小テストを見つめて黙り込んでしまった。
「そ、そうだ、ご褒美いるな。せっかく満点取ったんだし。何がいい?」
今後のやる気に悪影響だと、オレは必死に先輩を盛り上げようと試みる。でも、オレ金ないし、美味しい物を買ってくるとか出来ないんだよな。自分でも出来る事ってなると、どうしてもエロ方面になるし、それは全力で避けるとして、オレはどうしたらいいんだ!
パニクったオレは、しょんぼりしてしまった先輩の頭を撫でた。
「……なんか、ちょっとくすぐったいな」
顔を上げてくれた先輩は、少し恥ずかしそうに笑ってくれた。
「オレは好きだよ。先輩に頭撫でられるの」
強請ったみたいになったが、先輩もオレの頭を撫でてくれた。
「セイシュン……」
だらしない顔で撫でられていると、軽く唇に何かが触れた。驚いて先輩を見ると、ふにゃっとした顔が言った。
「ご褒美、もらったぞ」
なんか無性に顔が熱い。なんだ、軽いちゅーなのに! なんだ、この甘酸っぱい感じは! これがセックスのないエロか! ちょっといいな!
「よし、今日もよろしくお願いします!」
机に向かう先輩が、こちらを振り向いて礼をした。気のせいか、先輩の顔も少し赤かった。くそぅー押し倒してぇ!
煩悩にまみれて勉強が出来るか! と必死で頭を切り替え、お泊まり勉強会はなんとか順調に進んだ。先輩もすっかり朝型の生活に慣れたのか(元から朝型だった気もするけどな、いっつもオレより早く起きてるし)消灯後は一時間程度で勉強を切り上げてくれた。今日も、明日に備えて早めに寝るぞとなったのだが、ご褒美ちゅーのせいかオレの寝付きは悪かった。
オレの言葉に寮長が眉根を寄せたが、特に口を挟む事なく続きを聞いてくれそうだったので、本題を切り出す。
「その中に先輩の名前について何か書いてありませんでしたか?」
「……どうして、それを知りたがるんだ」
寮長に問われて、オレは先輩に聞いた事を全て話した。先輩がどう思っているのかを。
「先輩は警察とか、そういう赤の他人が名前ないと不便だからって、自分に名前を付けたんだと思ってるみたいなんです。でも、もし、そうじゃあないなら、先輩ももっと自分の名前を、その、大事に出来るかなって思って。手帳に何か書かれていませんでしたか?」
話しを聞き終わり、寮長は溜め息を吐いた。
「金城先輩の名前は生まれた時から変わっていない。赤の他人が記号代わりに付けたものなどではないよ」
寮長の言葉が嬉しくて顔を上げると、何故かそのまま黙ってしまわれた。
「あの……それで、なんて書いてあったんですか?」
オレが先をせかすと、再び溜め息を吐かれる。
「自分で読み解けと言ったはずだ。必要なら至急写しを送らせよう」
「あの、どうしても駄目ですか?」
「人の過去に土足で踏み込むようなものだ。更にそこで得たものを吹聴するなど僕には出来ない。それに、人から聞くのでは意味がないだろう。金城先輩に伝えたいなら、お前が手帳を読み、そこから御本人の意志を汲むのが礼儀だと思うが」
実にまっとうなご意見だ。
「先輩の名前は、ちゃんと家族が付けたんですね」
寮長は黙ったまま首肯もしてくれなかったが、否定はしなかった。それだけ分かれば今は十分だった。
「あの、寮長。冬休みが明けたら、手帳を読み解くの手伝って貰えませんか」
「今じゃなくていいのか? 明日には写しを届けさせられるが」
「いえ、今は他にやる事が結構あるので。少し時間が空いてしまいますが、お願い出来ませんか。先輩が卒業するまでには伝えたいんです」
頭を下げると、ふっと寮長が笑ったような気配がした。
「いいだろう、ではそのように準備をしておこう。今度はお前一人で来るように。春日野は絶対に連れてくるな」
墨汁の事やっぱり怒ってますよね。最後の一言で室温が数度下がった気がした。しおらしく「はい」と返事をして、オレは寮長に背を向けた。
先輩は毎日、本当によく頑張っていた。補習と自習、もちろん授業も真面目に受けている。守峰の助けもあって、オレの用意するテキストや課題も完璧なので、当然と言えば当然なのだが、先輩の学力はどんどん上がっていった。
「セイシュン、見てくれ! 小テストで満点を取ったぞ! こんないい点数、初めてだ」
たかが小テスト。授業内容を真面目に聞いていれば、満点で当たり前なのだが、こんなに喜んでいる先輩に水は差したくない。
「さすが先輩だ。この調子でどんどん行こうぜ。目指すは定期考査全教科満点だな!」
「……それは……ちょっと、自信、ないな」
先輩のテンションがメッチャ下がってしまった! 何故だ!
「大丈夫だよ。全教科は言い過ぎたな、とりあえずは半分だ。半分は満点にしようぜ!」
あぁぁ何故だ! 先輩が切ない目で小テストを見つめて黙り込んでしまった。
「そ、そうだ、ご褒美いるな。せっかく満点取ったんだし。何がいい?」
今後のやる気に悪影響だと、オレは必死に先輩を盛り上げようと試みる。でも、オレ金ないし、美味しい物を買ってくるとか出来ないんだよな。自分でも出来る事ってなると、どうしてもエロ方面になるし、それは全力で避けるとして、オレはどうしたらいいんだ!
パニクったオレは、しょんぼりしてしまった先輩の頭を撫でた。
「……なんか、ちょっとくすぐったいな」
顔を上げてくれた先輩は、少し恥ずかしそうに笑ってくれた。
「オレは好きだよ。先輩に頭撫でられるの」
強請ったみたいになったが、先輩もオレの頭を撫でてくれた。
「セイシュン……」
だらしない顔で撫でられていると、軽く唇に何かが触れた。驚いて先輩を見ると、ふにゃっとした顔が言った。
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机に向かう先輩が、こちらを振り向いて礼をした。気のせいか、先輩の顔も少し赤かった。くそぅー押し倒してぇ!
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