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蜜月
圏ガクの良心
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「あとお前、なんで突っ立ってるんだ。人に謝る時は頭下げんだよ! 地べたに這いつくばってやり直せや!」
野村の汚い手がオレの頭を掴んだ瞬間、膨らみ切った怒りに着火した……はずだった。
「おや、珍しい顔が見えますね」
手を振り払い力任せに拳を叩きつけるはずだったが、小気味良い足音が冗談のように職員室内に響き渡り、クズとオレの時間を止めた。いや、オレらだけじゃあないな、他の教師も一瞬で息を潜めているような異様な雰囲気に変わった。
「一年生は野村先生の授業を受けていないはずですが……」
真っ直ぐオレらの元へ足音が、霧夜氏がやって来た。野村はバツが悪そうな顔で立ち上がり言葉を選んでいるのか「はあ、まぁ、そうなんですが」と自分の頭を掻いている。
「金城先輩の試験結果で誤解がありました。その時、オレが先走って……野村先生に怪我をさせてしまったので、謝罪に来ました」
野村が言い淀んでいる隙に事情を説明すると、霧夜氏はあらましは知っていたのだろう、少し表情を曇らせる。それを好機と見たのか、野村はオレの背中を思い切り叩き、話に乗っかってきやがった。
「コイツはとんでもない奴で、こっちの話は聞きもせず、いきなりドカンと腹を蹴られたんですわ。紛れもない教師への暴力ですぞ、これは口先だけの謝罪では足りないと今から罰を与えるところだったんですよ」
「罰……ですか……」
「もちろん体罰ではないですよ。暴力は生徒だろうが教師だろうが、いけませんからなぁ」
木刀を持った奴が言っても全く説得力のない言葉を、野村は振りかざすように言い切った。これなら文句はないだろうと言いたげだ。霧夜氏は静かに頷いて「では」とにこやかに口を開いた。
「その罰、私に頂けませんか?」
「はぁ?」
「少し人手が欲しい案件がありまして、お忙しい先生方の手を煩わせるのは申し訳なかったので丁度良かった。それを夷川君にさせようと思うのですが、どうでしょう?」
霧夜氏の強引な取引に野村は一瞬上司に見せてはいけない顔をしたが、何かを悟ったのかオレを睨みつけた後「好きにして下さい」と乱暴に椅子を引き寄せ座り直し「行け」と吐き捨てるように言った。
霧夜氏が歩き出したので、オレも後を追う。職員室を出ると室内の(空気……と言うのが一番しっくりくるか)空気が変わったのが分かった。張り詰めていた物が緩まったような感じは、オレにとっては危険な場所だった事を嫌でも理解する。生徒にとって職員室はアウェーであるのは間違いない。
「霧夜先生、ありがとうございました」
扉を閉じた後で、自然と感謝が口から出た。助けて貰ったんだなと、少し妙な気持ちだが自分の言葉で気付いた。
「金城君のことは、守峰先生に一任していますので心配はいりません」
穏やかな口調だが、余計な事はしなくていいと注意をされる。素直に返事をすると、霧夜氏は少し待つよう言い残し、校長室に入って行った。何か面倒な雑用があるのだろうと思ったら、数冊の本を持って戻ってきた霧夜氏に「この続きを探して下さい」とお願いされた。こんな超私的な用事に教師の手を借りるのは確かに申し訳ないなと納得する。文芸部の使いっ走りは慣れたもので二つ返事で引き受けると「それから」と更に追加でお願いされた。
「今度、花壇の手入れを一緒にやって下さい。緑は多いですが、校内は少し殺風景でしょう。花でも育ててみようと思うんです」
これは園芸部の使いっ走りだな。両方の部活と面識があるので、問題なく遂行出来るだろう。そう思い園芸部の、小吉さんの活動を手伝いますと返事をすると、霧夜氏は少し言いにくそうに「こちらは園芸部ではなく、私個人としての活動になります」と言った。
「園芸部にも打診してみたのですが……花壇ではなく畑になってしまいそうだったので」
小吉さんの辞書に食えない植物は載っていないらしい。オレらに花を愛でる感性はない……が、手伝いくらいなら出来るだろう。オレ個人として土いじりを引き受け、その場を辞した。
野村の汚い手がオレの頭を掴んだ瞬間、膨らみ切った怒りに着火した……はずだった。
「おや、珍しい顔が見えますね」
手を振り払い力任せに拳を叩きつけるはずだったが、小気味良い足音が冗談のように職員室内に響き渡り、クズとオレの時間を止めた。いや、オレらだけじゃあないな、他の教師も一瞬で息を潜めているような異様な雰囲気に変わった。
「一年生は野村先生の授業を受けていないはずですが……」
真っ直ぐオレらの元へ足音が、霧夜氏がやって来た。野村はバツが悪そうな顔で立ち上がり言葉を選んでいるのか「はあ、まぁ、そうなんですが」と自分の頭を掻いている。
「金城先輩の試験結果で誤解がありました。その時、オレが先走って……野村先生に怪我をさせてしまったので、謝罪に来ました」
野村が言い淀んでいる隙に事情を説明すると、霧夜氏はあらましは知っていたのだろう、少し表情を曇らせる。それを好機と見たのか、野村はオレの背中を思い切り叩き、話に乗っかってきやがった。
「コイツはとんでもない奴で、こっちの話は聞きもせず、いきなりドカンと腹を蹴られたんですわ。紛れもない教師への暴力ですぞ、これは口先だけの謝罪では足りないと今から罰を与えるところだったんですよ」
「罰……ですか……」
「もちろん体罰ではないですよ。暴力は生徒だろうが教師だろうが、いけませんからなぁ」
木刀を持った奴が言っても全く説得力のない言葉を、野村は振りかざすように言い切った。これなら文句はないだろうと言いたげだ。霧夜氏は静かに頷いて「では」とにこやかに口を開いた。
「その罰、私に頂けませんか?」
「はぁ?」
「少し人手が欲しい案件がありまして、お忙しい先生方の手を煩わせるのは申し訳なかったので丁度良かった。それを夷川君にさせようと思うのですが、どうでしょう?」
霧夜氏の強引な取引に野村は一瞬上司に見せてはいけない顔をしたが、何かを悟ったのかオレを睨みつけた後「好きにして下さい」と乱暴に椅子を引き寄せ座り直し「行け」と吐き捨てるように言った。
霧夜氏が歩き出したので、オレも後を追う。職員室を出ると室内の(空気……と言うのが一番しっくりくるか)空気が変わったのが分かった。張り詰めていた物が緩まったような感じは、オレにとっては危険な場所だった事を嫌でも理解する。生徒にとって職員室はアウェーであるのは間違いない。
「霧夜先生、ありがとうございました」
扉を閉じた後で、自然と感謝が口から出た。助けて貰ったんだなと、少し妙な気持ちだが自分の言葉で気付いた。
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穏やかな口調だが、余計な事はしなくていいと注意をされる。素直に返事をすると、霧夜氏は少し待つよう言い残し、校長室に入って行った。何か面倒な雑用があるのだろうと思ったら、数冊の本を持って戻ってきた霧夜氏に「この続きを探して下さい」とお願いされた。こんな超私的な用事に教師の手を借りるのは確かに申し訳ないなと納得する。文芸部の使いっ走りは慣れたもので二つ返事で引き受けると「それから」と更に追加でお願いされた。
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「園芸部にも打診してみたのですが……花壇ではなく畑になってしまいそうだったので」
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