圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクの夏休み!!

マヨネーズは救世主

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 けれど、園芸部に入部するつもりなのか、単にオレと張り合っているだけなのか、三馬鹿に小吉さんを取り込まれ、二人一組で作業に当たれと言われたのに、いきなり一人になってしまった。

 これはよろしくない状況だ。先輩と組む以上にサボりの難易度が跳ね上がる。考えもなしに申告すれば、間違いなく担任と組まされる。それだけは避けねば、先輩を泣く泣く留守番させた意味がない。

 一人でぼんやりしているのはマズイ。担任の目に止まれば、強制的に監視下に置かれてしまう。オレは、バーベキュー会場である駐車場を抜け出し、まずは身を隠した。

「これ、もう完全にサボりだよな……早くローションを確保するか、適当な仕事見つけねぇと」

 どちらにも当てがなくて焦る。とにかく公民館の中に忍び込み、使えそうな物を拝借するかと(盗むのではなく借りるのだ。冬休みにちゃんと返しに来る!)裏口に向かおうとした時、先客が何やら大荷物を運び込んでいる最中だった。

「由々式、お前、何やってるんだ?」

 クーラーボックスを肩から提げ、両手いっぱいに買い物袋を抱えた由々式は、面倒臭そうに「母ちゃんの手伝いじゃ」と返事をした。

「あら夷川君、おはよう。ちょっと誠、モタモタしてないで早く運びなさい。まだいっぱい車に残ってるんだから」

 側に停車した車から、同じく荷物を抱えたおばさんが顔を出し、先に公民館の中へと入って行く。

「いい事、教えといてやるべ」

 おばさんの姿が見えなくなった後、由々式は買い物袋を地面に置き、クーラーボックスもその横に置いた。そして買い物袋の中から一つのパックを取り出す。

「こっちはスーパーで売ってる普通の肉じゃ。今から母ちゃんが下味付けて誤魔化すが、完全な安もんじゃ」

 安もんと言われても、豪快な厚みの肉の塊を前に思わず生唾をのんだ。けれど、次の瞬間、オレの頭の中は、呼吸をする事すら吹っ飛んでしまった。

「狙うのは……こっちじゃ。響のセンセーと芽衣の母ちゃんが、えらい奮発したらしいべ。特上の肉じゃ、見よこの霜降り! こっちはシンプルに塩で焼くって言うとったからのぅ、タレの匂いに惑わされず、こっちの肉を狙って食うのが正解じゃ」

 由々式が開いたクーラーボックスの中身は、テレビでしか見た事のないような、見事なステーキ肉が詰まっていた。

「た、楽しみだな」

 あまりの光景に呆然としながら言うと「せいぜい気合い入れて食い溜めしてくれ。明日からは嫌でも残飯当番じゃからなぁ」などと他人事な返事を寄越された。お前は参加しないのかと聞けば、当たり前だろうと言いたげな顔で「する訳ねーべ」と言われてしまう。

「夏休み中、散々こき使われた奴らへの唯一の労いじゃ。ワシが参加する理由なんざねーべ」

 由々式はバーベキューが始まる頃には家へ帰ると言った。

「オレも手伝っていいか?」

 渡りに船とオレは買い物袋に手を伸ばす。すると「車の中にまだまだあるべ。そっち頼む」と仕事にありつく事が出来た。

 バーベキューがメインだが、オレらがどれくらい肉を食うのか分からないので、少しでも腹を底上げしようと、由々式のおばさんが色々なおかずを作って出してくれるらしい。

 メニューリストなるものを見せて貰うと、夏休みに食べた絶品の数々が走馬灯のように蘇り、俄然やる気というか食う気が湧いてきた。

 食材をいつもの調理室に運び込むと、おばさんは村主さんに挨拶に行ってくると、席を外してくれたので、オレはチャンスとばかりにローションに使えそうな物を探し始める。
 石けんや洗剤は、どうにも体に悪そうだからな。口から入れても大丈夫な物の方が安全だろうと思ったのだ。尚且つ、滑りがよくなりそうな物。

 オレは目星を付けていた調味料を見つけて、その大きさにちょっと戦いた。

「なんじゃ、夷川。マヨネーズ抱えて何しとるんじゃ」

「……ちょっと借りられないかと思ったんだが、これは……デカイな」

「業務用じゃからな。マヨネーズ欲しいんか?」

 先輩とセックスする為に必要なんだと、心の中で力説しながら「まあな」と答える。小さいビニールを探して、それに入れれば持って帰れると一人思案していると、何故か由々式はおばさんのカバンを漁りだした。

「このちっこいのんならバレねぇべ。コレ持ってくといいべ」

 差し出されたのは、手のひらサイズのマヨネーズ。それはオレの求めていた姿そのものだった。

「いいのか? これ、開封されてない新しいやつだぞ」

 ちゃっかり受け取りつつも、用途を考えると後ろめたくて、手の中のマヨネーズに視線を落とす。

「気にする必要ねーべ。ほれ、見てみぃ」

 ケラケラ笑う由々式は、おばさんのカバンの中身が見えるよう、こちらに向けてきた。中にはオレが持っているマヨネーズと同じモノが十近く入っていた。

「マヨネーズ好きなんだな、おばさん」

「家にも山ほどあるでな。気にせず持ってくといいべ」

 オレはありがたくマヨネーズをポケットにねじ込み、手伝いもそこそこに由々式と別れた。

 誰にも見つからないよう、乗って来たバスに忍び込む。そして、シートの下に戦利品を隠して、憂いの無くなったオレはバーベキューの準備に邁進した。

 一人だけあぶれた事を申告して、炭を熾していた担任の作業を手伝っていたのだが、使えないと十分も経たずリリースされてしまい、手持ち無沙汰なのを村主さんに目ざとく見つけられ、近くの雑貨屋に飲み物を買いに走るという、無駄に体力を消費する仕事を仰せつかった。

 結果、舗装のあやしい道を大量の液体を乗せた台車で六往復だ。車で走れば一回で済むじゃんと、思わず抗議しそうになったが「信用出来る夷川君だからお願いするのよ」と財布を預かってしまうと、圏ガクの学生でありながら、一人でおつかいを任せてもらえるまでになった事が少しばかり誇らしく、安請け合いをしてしまった。

「やっぱり、納得できねぇ」

 小吉さんの弟子としての誇らしさは別として、阿呆みたいにしんどかったのは変わりないので、楽しそうにテーブルだ椅子だの用意している、人のバディを奪いやがった三馬鹿を台車で轢いておいた。

 不慮の事故だと言うのに「ワザとだろう」と絡んで来る三馬鹿と(担任が滝のような汗を流しながら用意した)炭を片手に一線交える寸前、先輩とその他を乗せたバスが、バーベキュー会場に到着した。

 正真正銘、今年の夏休み最後のイベントだ。奉仕作業の報酬とは言え、招待してくれた村主さんたち地元の人たちに、お礼の挨拶を準備していたらしい担任だったが「じゃあ始めましょうか」というホストの一声と鉄板の上で焼ける肉の匂いで、その場はあっと言う間に騒然となった。

 先払いしてある労働の対価を得ようと、目を血走らせる連中ばかりだ。和やかになんて進行するはずもなく、バーベキュー会場は正に戦場と化した。

「たくさんあるから、ちゃんと焼いて食べなさい!」

 両面が焼けるのを待っていたら、確実に何一つ口に出来ないのだ。鉄板の上に置かれた瞬間、肉が次々と消えるという浅ましさ。由々式に教えてもらった肉の一軍二軍を見極めるなんて悠長な事は不可能だった。
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