圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

すれ違う時間

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 慣れない事をして、久しぶりに頭が疲れている感じがした。飯食って風呂入って、狭間が敷いてくれた布団に潜り込み、いつもより早めにやってきた眠気と戦いながらノートを広げ今日のまとめをしていると、誰かがオレらの部屋の扉を叩いた。

 寝るには早いと布団の上で胡坐をかいてウトウトしていた皆元が、一瞬で緊張状態に入ったのが布団の中からでも分かった。オレも扉の前に立つ奴に気付かれないよう、そろりと布団から抜け出し、皆元と視線を交わし身構える。

「……セイシュン、いるか?」

 返事がないのに焦れたのか、客はあっさり自分から正体を明かした。皆元は体に溜まった緊張を息と一緒に全て吐き出すと、のそりと立ち上がり「便所行ってくる」と変な気遣いをしやがった。

「オレが出るわ。便所なら部屋に戻る前に行ってただろ」

 なんとなく居心地が悪くてオレも立とうとすると、皆元は振り向かず腹をさする仕草を見せながら「腹の調子が悪いんだよ」と扉を開け、先輩に軽く会釈だけして部屋を出て行く。皆元と入れ替わりで入ってきた先輩は、どこか落ち着かない様子で部屋を見回し「勉強してたのか?」と聞いてきた。

 先輩が部屋に来るなんて考えていなかったので、ノートを不用意に広げたままだった。書かれてある内容は意味不明だろうが(なんせ今日の成果は平仮名二文字だ)先輩の目に触れさせたくなくて、オレは乱暴にノートを閉じた。

「うん……今日やったところの復習」

 本当の事だが嘘を吐いているような後ろめたさがある。頭を切り替えて、先輩を自分の布団の上に招く。オレが手で叩いた場所に腰を下ろした先輩と自然に目が合って、何故か一瞬で逸らされる。

「何?」

 あからさまな態度につい責めるような声が出た。それに気付いているのかいないのか、先輩は少し言葉を濁しながら「今日は何してたんだ?」と聞いてきた。今日と聞いて一番に思い浮かんだのは『手帳』だったのだが、それを馬鹿正直に伝える事は出来ない。少し考える間があったが、オレはもう一つの用事を思い出しその報告をする。

「冬休みに約束してたやつを片付けたよ。野村に謝ってきた」

 心の中で一応と付け加えながら言うと、先輩は「そうか」と目を細めてオレの頭を撫でた。

「お前が怪我しなくてよかった」

 先輩は心底安堵しているような声で言う。あれ……オレ、何か言い間違えたか? 

「なんで謝りに行くだけなのに怪我の心配なんかすんの?」

 思わず聞き返してしまった。確かに一歩間違えれば大惨事になっていただろうが、本当なら穏便に済ませる気持ちはあった訳で、図々しいとは思うが少々解せない。

「俺がまたやっちまったからな。そのせいでセイシュンが責められるんじゃないかと思って心配だったんだ」

 先輩は申し訳なさそうに笑って答えてくれる。冬休みに遊び呆けていた件は、まあ褒められた事じゃあないが、それとこれとは話が違うのだ。

「先輩のせいでオレが責められる理由なんてないよ。オレが謝ったのは、野村に怪我させた事が原因だからな。それ以上でも以下でもない、だろ?」

 先輩の頑張りは誰にも否定させない。霧夜氏には助けられたんだろうが、野村がまた先輩を侮辱しやがったら次は容赦なく潰す。

「こら、物騒な顔するな。いつも誰かがいる訳じゃあないんだぞ。それとも反省室で住みたいのか?」

 額を拳で小突かれる。狭間のおかげで快適な空間にはなりつつあるが、鉄格子の中というのは慣れるような環境ではない。いやこれは間違いなく慣れちゃ駄目なやつだ。「ごめん」と素直に謝る。

「ん……他には、何をしてたんだ?」

 咳払いを一つして、先輩は再び同じ質問をしてきた。『寮長の部屋で先輩のじいちゃんが残した手帳を読もうとして悪戦苦闘してたよ』と言えれば楽なのだが、不用意な事はしたくない。

「オレも勉強してたよ」

 さっき隠そうとしたノートを引っ張り寄せ見せると、どうしてか先輩の表情が少し曇った。

「お前はそんな熱心に勉強する必要ないだろ」

 ちょっと怒ったような声に聞こえるのは気のせいか? 先輩の言う通り、日常の勉強なら熱心にやる理由はもうない。受験は考えていないし、何もしなくても卒業まで赤点を取るような事はないだろう。でも、今日やっていた勉強は違うのだ。何を置いても必死にやるだけの価値がある。

「オレにだってあるよ。やらなきゃいけない勉強。期限もあるから割と必死で」

 オレが言い終わる前に先輩は「悪い」と言い唐突に立ち上がった。そして何を思ったのか、窓を開け放ちひょいと身を乗り出した。

「ちょっと、どこから出て行く気だよ! てか話し終わってねぇだろ! 先輩は今日はどうだったんだよ? 補習早めに終わりそう?」

 窓から帰る気満々の先輩は、首だけ動かしチラリとこちらに視線をやると「明日から頑張る」と独り言のような声量で答えやがった。

「はぁ! 何? 明日とか寝ぼけた事言ってねぇーで今からやれ!」

 こちらの反応と言うか反論を待たず、先輩は危なげもなく壁を伝って降りていく。叫ぶオレに分かったと言いたげに片手を上げ「今からやるって伝えてくれ」と訳の分からない言葉を残し、あっという間に先輩は地面に降り立ち、校舎に向かって走り去った。
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