圏ガク!!

はなッぱち

文字の大きさ
384 / 411
蜜月

すれ違う時間

しおりを挟む
 慣れない事をして、久しぶりに頭が疲れている感じがした。飯食って風呂入って、狭間が敷いてくれた布団に潜り込み、いつもより早めにやってきた眠気と戦いながらノートを広げ今日のまとめをしていると、誰かがオレらの部屋の扉を叩いた。

 寝るには早いと布団の上で胡坐をかいてウトウトしていた皆元が、一瞬で緊張状態に入ったのが布団の中からでも分かった。オレも扉の前に立つ奴に気付かれないよう、そろりと布団から抜け出し、皆元と視線を交わし身構える。

「……セイシュン、いるか?」

 返事がないのに焦れたのか、客はあっさり自分から正体を明かした。皆元は体に溜まった緊張を息と一緒に全て吐き出すと、のそりと立ち上がり「便所行ってくる」と変な気遣いをしやがった。

「オレが出るわ。便所なら部屋に戻る前に行ってただろ」

 なんとなく居心地が悪くてオレも立とうとすると、皆元は振り向かず腹をさする仕草を見せながら「腹の調子が悪いんだよ」と扉を開け、先輩に軽く会釈だけして部屋を出て行く。皆元と入れ替わりで入ってきた先輩は、どこか落ち着かない様子で部屋を見回し「勉強してたのか?」と聞いてきた。

 先輩が部屋に来るなんて考えていなかったので、ノートを不用意に広げたままだった。書かれてある内容は意味不明だろうが(なんせ今日の成果は平仮名二文字だ)先輩の目に触れさせたくなくて、オレは乱暴にノートを閉じた。

「うん……今日やったところの復習」

 本当の事だが嘘を吐いているような後ろめたさがある。頭を切り替えて、先輩を自分の布団の上に招く。オレが手で叩いた場所に腰を下ろした先輩と自然に目が合って、何故か一瞬で逸らされる。

「何?」

 あからさまな態度につい責めるような声が出た。それに気付いているのかいないのか、先輩は少し言葉を濁しながら「今日は何してたんだ?」と聞いてきた。今日と聞いて一番に思い浮かんだのは『手帳』だったのだが、それを馬鹿正直に伝える事は出来ない。少し考える間があったが、オレはもう一つの用事を思い出しその報告をする。

「冬休みに約束してたやつを片付けたよ。野村に謝ってきた」

 心の中で一応と付け加えながら言うと、先輩は「そうか」と目を細めてオレの頭を撫でた。

「お前が怪我しなくてよかった」

 先輩は心底安堵しているような声で言う。あれ……オレ、何か言い間違えたか? 

「なんで謝りに行くだけなのに怪我の心配なんかすんの?」

 思わず聞き返してしまった。確かに一歩間違えれば大惨事になっていただろうが、本当なら穏便に済ませる気持ちはあった訳で、図々しいとは思うが少々解せない。

「俺がまたやっちまったからな。そのせいでセイシュンが責められるんじゃないかと思って心配だったんだ」

 先輩は申し訳なさそうに笑って答えてくれる。冬休みに遊び呆けていた件は、まあ褒められた事じゃあないが、それとこれとは話が違うのだ。

「先輩のせいでオレが責められる理由なんてないよ。オレが謝ったのは、野村に怪我させた事が原因だからな。それ以上でも以下でもない、だろ?」

 先輩の頑張りは誰にも否定させない。霧夜氏には助けられたんだろうが、野村がまた先輩を侮辱しやがったら次は容赦なく潰す。

「こら、物騒な顔するな。いつも誰かがいる訳じゃあないんだぞ。それとも反省室で住みたいのか?」

 額を拳で小突かれる。狭間のおかげで快適な空間にはなりつつあるが、鉄格子の中というのは慣れるような環境ではない。いやこれは間違いなく慣れちゃ駄目なやつだ。「ごめん」と素直に謝る。

「ん……他には、何をしてたんだ?」

 咳払いを一つして、先輩は再び同じ質問をしてきた。『寮長の部屋で先輩のじいちゃんが残した手帳を読もうとして悪戦苦闘してたよ』と言えれば楽なのだが、不用意な事はしたくない。

「オレも勉強してたよ」

 さっき隠そうとしたノートを引っ張り寄せ見せると、どうしてか先輩の表情が少し曇った。

「お前はそんな熱心に勉強する必要ないだろ」

 ちょっと怒ったような声に聞こえるのは気のせいか? 先輩の言う通り、日常の勉強なら熱心にやる理由はもうない。受験は考えていないし、何もしなくても卒業まで赤点を取るような事はないだろう。でも、今日やっていた勉強は違うのだ。何を置いても必死にやるだけの価値がある。

「オレにだってあるよ。やらなきゃいけない勉強。期限もあるから割と必死で」

 オレが言い終わる前に先輩は「悪い」と言い唐突に立ち上がった。そして何を思ったのか、窓を開け放ちひょいと身を乗り出した。

「ちょっと、どこから出て行く気だよ! てか話し終わってねぇだろ! 先輩は今日はどうだったんだよ? 補習早めに終わりそう?」

 窓から帰る気満々の先輩は、首だけ動かしチラリとこちらに視線をやると「明日から頑張る」と独り言のような声量で答えやがった。

「はぁ! 何? 明日とか寝ぼけた事言ってねぇーで今からやれ!」

 こちらの反応と言うか反論を待たず、先輩は危なげもなく壁を伝って降りていく。叫ぶオレに分かったと言いたげに片手を上げ「今からやるって伝えてくれ」と訳の分からない言葉を残し、あっという間に先輩は地面に降り立ち、校舎に向かって走り去った。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

ビッチです!誤解しないでください!

モカ
BL
男好きのビッチと噂される主人公 西宮晃 「ほら、あいつだろ?あの例のやつ」 「あれな、頼めば誰とでも寝るってやつだろ?あんな平凡なやつによく勃つよな笑」 「大丈夫か?あんな噂気にするな」 「晃ほど清純な男はいないというのに」 「お前に嫉妬してあんな下らない噂を流すなんてな」 噂じゃなくて事実ですけど!!!?? 俺がくそビッチという噂(真実)に怒るイケメン達、なぜか噂を流して俺を貶めてると勘違いされてる転校生…… 魔性の男で申し訳ない笑 めちゃくちゃスロー更新になりますが、完結させたいと思っているので、気長にお待ちいただけると嬉しいです!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

僕、天使に転生したようです!

神代天音
BL
 トラックに轢かれそうだった猫……ではなく鳥を助けたら、転生をしていたアンジュ。新しい家族は最低で、世話は最低限。そんなある日、自分が売られることを知って……。  天使のような羽を持って生まれてしまったアンジュが、周りのみんなに愛されるお話です。

処理中です...