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蜜月
忘れられない記憶
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視界が開けた気がした。オレも同じ事をすればいいんだ。
「先輩ッ! オレが先輩の名前付けるよ! 先輩がオレにしてくれたみたいに!」
思いつきを宣言すると、無駄にデカい声になってしまい先輩を驚かせた。こちらの勢いに負けて「おぉ、分かった」と反射的に了解を得られたので、早速頭をフル稼働させる。
要するにアレだ。あだ名とかニックネームとかそういうものだと思えばいいよな。
「すぐ用意するから、ちょっと待ってろ。何個か出すから好きなの選んでいいよ」
勢いに任せて大きく出たが、パッと思い浮かぶと思ったのにオレの頭がポンコツなせいで何一つアイデアは出てこなかった。あんまり人の名前を意識した事がないせいかもしれない……仲良い奴いないから愛称みたいなので呼ぶ相手もいないしな。いやいや、そんな訳あるか! 仲良い奴はいるけど、あだ名で呼び合うようなノリが全員ないだけだ。まあ、それも名前で呼ぶとキレるオレのせいかもしれないが……。
自分の素行に多少の反省をしつつも、再び頭を回す。オレ以外の奴が先輩をどう呼んでいるのか記憶を探るが、だいたいが『金城』か『金城先輩』だった。
「あ! じいちゃんは先輩の事、変な呼び方するよね! 『勝ボン』って」
じいちゃんにかかればオレも『清ボン』になってしまうのだが、んー……カツボンか。オレが頻繁に呼ぶと、ちょっと間抜けな感じがするな。先輩もオレと同じ感覚らしく渋い顔をして意志を伝えてきた。
「そう言えばスバルは慣れ慣れしく『きんちゃん』とか呼んでたな」
数少ない参考資料だが、スバルの真似をするのは面白くなくて却下と即断したが、それ以前に金城の『きんちゃん』では意味がなかった。だが、この法則は使える気がする。
「勝家だから『かつちゃん』? なんか言いにくいな……あ、じゃあ『かっちゃん』だ」
これ以外にないと思えたので、これでどうだと先輩に向かってもう一度「かっちゃん」と呼ぶと、何故か呆然としていた。
「え……せんぱい、なんで」
自分の口からも戸惑うような声が出る。オレの声に気付いた先輩が、不思議そうな顔をした。
「なんで、泣いてるの?」
先輩の頬を伝って、はらはらと涙がこぼれ落ちている。先輩は確かめるみたいに自分の目元や頬を拭う。
「なんだこれ」
泣いている自覚がないのか、振り払うように強引に目元を擦るが、何かが溢れるように涙は止まる気配はない。
「先輩、だいじょうぶ?」
涙を拭ってやりたくて手を伸ばすが、大丈夫だと言われ、やんわりだが拒絶されてしまう。
感情が追いついていないのか、先輩は戸惑った表情のまま暫く泣き続けた。ようやく止まった涙を事務的に確認すると先輩は「ごめんな」と何故か謝った。
「すまん、少し一人にしてくれ」
何も出来ず狼狽えるオレは、どうして泣いたのか聞く事なんて出来ず、持ち込んだ物をかき集め一人で部屋を後にした。
少し時間が経てば元通りの先輩に戻る。自分に言い聞かせて、その日は大人しく部屋で過ごした。由々式が帰ってくるまで、窓から一番離れた部屋の隅で膝を抱えて『忍者勇者カクレコノハ』を見て、先輩の事を色々と考えてみるが、漠然と取り返しがつかないような得体の知れない不安だけが増してしまった。
「先輩ッ! オレが先輩の名前付けるよ! 先輩がオレにしてくれたみたいに!」
思いつきを宣言すると、無駄にデカい声になってしまい先輩を驚かせた。こちらの勢いに負けて「おぉ、分かった」と反射的に了解を得られたので、早速頭をフル稼働させる。
要するにアレだ。あだ名とかニックネームとかそういうものだと思えばいいよな。
「すぐ用意するから、ちょっと待ってろ。何個か出すから好きなの選んでいいよ」
勢いに任せて大きく出たが、パッと思い浮かぶと思ったのにオレの頭がポンコツなせいで何一つアイデアは出てこなかった。あんまり人の名前を意識した事がないせいかもしれない……仲良い奴いないから愛称みたいなので呼ぶ相手もいないしな。いやいや、そんな訳あるか! 仲良い奴はいるけど、あだ名で呼び合うようなノリが全員ないだけだ。まあ、それも名前で呼ぶとキレるオレのせいかもしれないが……。
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「あ! じいちゃんは先輩の事、変な呼び方するよね! 『勝ボン』って」
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「勝家だから『かつちゃん』? なんか言いにくいな……あ、じゃあ『かっちゃん』だ」
これ以外にないと思えたので、これでどうだと先輩に向かってもう一度「かっちゃん」と呼ぶと、何故か呆然としていた。
「え……せんぱい、なんで」
自分の口からも戸惑うような声が出る。オレの声に気付いた先輩が、不思議そうな顔をした。
「なんで、泣いてるの?」
先輩の頬を伝って、はらはらと涙がこぼれ落ちている。先輩は確かめるみたいに自分の目元や頬を拭う。
「なんだこれ」
泣いている自覚がないのか、振り払うように強引に目元を擦るが、何かが溢れるように涙は止まる気配はない。
「先輩、だいじょうぶ?」
涙を拭ってやりたくて手を伸ばすが、大丈夫だと言われ、やんわりだが拒絶されてしまう。
感情が追いついていないのか、先輩は戸惑った表情のまま暫く泣き続けた。ようやく止まった涙を事務的に確認すると先輩は「ごめんな」と何故か謝った。
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