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蜜月
セイシュンの解答
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先輩の余裕と言ったらいいんだろうか、普段ならある包容力を一切感じさせず、いつもの穏やかさから滲む辛そうな表情が、オレのスプーンを持つ手を止めさせた。
「セイシュン?」
オレらの間にある弁当を机の端に避け、真っ直ぐ先輩を見つめる。
「昨日からなんか変だよ、先輩」
気の利いた事なんて言えず、自分の中にある不安を言葉にすると、一瞬で先輩の無理は剥がれ落ちた。今にも泣き出しそうな表情にオレの胸も苦しくなる。辛い気持ちとか少しでも吐き出して欲しくて先輩の言葉を待つが、何かに耐えるように先輩は黙り込んでしまった。きっと今オレに出来るのは待つ事だけだろう。頭で分かっていても、手を伸ばさずには、もう一歩踏み込まずにはいられなかった。
「オレ…………何かやらかした?」
先輩が息を飲んだのを感じた。俯いていた顔が真っ直ぐこちらを向くと、間違った場所に踏み込んだ事を思い知らされる。
「お前は何もしてない。セイシュンのせいなんかじゃない」
拒絶とは違う、けれど先輩の中に立ち入る事を強い視線が阻んでくる。怖気付いて踏み出した一歩を戻しそうになるが、もう一歩、前へ進む。
「オレじゃあ役に立たないって思ってるのかもしれないけどさ、先輩を支えるくらいは出来る。話すだけで先輩の気持ちが落ち着くなんて都合の良い事も考えてない。でも、知りたいんだ。先輩の辛さの欠片でもいい。オレも……知りたいんだ」
上手く言葉にならなくて、ちゃんと伝わっている気がしない。先輩は悩んでいるのか単にウザいと思っているのか、判断の難しい表情で沈黙する。何を焦っているのか、理由の分からない焦燥感が手を汗ばませた。
「すまん……今は、何も、言える気が、しないんだ」
先輩は絞り出すような声で言う。こんな時、恋人はどうしてやるのが正解なんだろう。オレは自分とはきっとかけ離れているであろう、模範解答を頭の中で探しながら口を開く。
「一人になりたい?」
先輩はこちらを向かずに小さく頷いた。オレは端に避けた食いかけのオムライスを二つ先輩の前に並べて立ち上がる。
「しばらくは一人にしてやるよ。でも、ちゃんと飯は食え」
念を押すよう言った後、オレの使っていたスプーンを手に取るまで顔を覗き込んでやると、観念したのか王道のオムライスを一口食ったので、宣言通りオレは黙って部屋を出た。
先輩の部屋を出て、とりあえず自室にでも戻ろうと思っていたのだが、足がまともに動かず階段を下りる前に座り込んでしまった。クソ寒い中、震えるのも忘れて、ただ先輩の事ばかり考える。
「オレ、なんにもできねぇのかな」
無力な呟きは白くなって消え、オレの体が芯まで冷え切っても、先輩の気配は部屋から動かなかった。
「何やっとんねん、お前」
先輩の部屋の方ばかりを意識していたせいで、目の前に立たれるまで気付けなかった。階段の数段下に立った髭は、不機嫌そうな声で意味もなくこちらを睨みつける。何もやっていないので返す言葉もなく俯いていると「あの阿呆、なんぞ妙なもんでも食うたんか?」と視線で先輩の部屋を指しながら言う。
「いつまでたっても返しに来んから部屋覗いたんや」
夜にはコタツ返す約束だったな。あの調子じゃあ忘れていても不思議はない。僅かばかりの申し訳なさから顔を上げると、何故か髭は気まずそうに顔を顰め「揃いも揃って」と独り言のように呟く。
「あんな腑抜けた面、久し振りや。一年やった頃を思い出してもうたわ」
あぁ、全く。本当に腑抜けやがって。髭の一言で冷え切った体の奥が熱くなった。蹴りでも入れられた気分だ。立ち上がって恩人を見る。
「髭、じゃなくてッ真山先輩! 一個頼んでもいいですか?」
勢いでやってしまった髭呼びを誤魔化せたのか不安になるような厳つい顔で「なんや」と聞かれ、ちょっとビビりつつも遠慮なく頼み込む。
「あいつ一人だとまともに飯も食わないと思うんだ。腹減ってたら気の滅入る事ばっかり考えて余計腑抜けるからさ、気が向いた時だけでいいから、一緒に飯食ってやって下さい」
自分で頼んどいてなんだが、髭と先輩の仲は割と先輩側の一方通行かもしれないと思っていたので、まともな返事は期待していなかった。けれど、オレを無視して階段を上る髭は、横を通り過ぎた時にぼそっと「気が向いたらな」とちゃんと応えてくれた。
「セイシュン?」
オレらの間にある弁当を机の端に避け、真っ直ぐ先輩を見つめる。
「昨日からなんか変だよ、先輩」
気の利いた事なんて言えず、自分の中にある不安を言葉にすると、一瞬で先輩の無理は剥がれ落ちた。今にも泣き出しそうな表情にオレの胸も苦しくなる。辛い気持ちとか少しでも吐き出して欲しくて先輩の言葉を待つが、何かに耐えるように先輩は黙り込んでしまった。きっと今オレに出来るのは待つ事だけだろう。頭で分かっていても、手を伸ばさずには、もう一歩踏み込まずにはいられなかった。
「オレ…………何かやらかした?」
先輩が息を飲んだのを感じた。俯いていた顔が真っ直ぐこちらを向くと、間違った場所に踏み込んだ事を思い知らされる。
「お前は何もしてない。セイシュンのせいなんかじゃない」
拒絶とは違う、けれど先輩の中に立ち入る事を強い視線が阻んでくる。怖気付いて踏み出した一歩を戻しそうになるが、もう一歩、前へ進む。
「オレじゃあ役に立たないって思ってるのかもしれないけどさ、先輩を支えるくらいは出来る。話すだけで先輩の気持ちが落ち着くなんて都合の良い事も考えてない。でも、知りたいんだ。先輩の辛さの欠片でもいい。オレも……知りたいんだ」
上手く言葉にならなくて、ちゃんと伝わっている気がしない。先輩は悩んでいるのか単にウザいと思っているのか、判断の難しい表情で沈黙する。何を焦っているのか、理由の分からない焦燥感が手を汗ばませた。
「すまん……今は、何も、言える気が、しないんだ」
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「一人になりたい?」
先輩はこちらを向かずに小さく頷いた。オレは端に避けた食いかけのオムライスを二つ先輩の前に並べて立ち上がる。
「しばらくは一人にしてやるよ。でも、ちゃんと飯は食え」
念を押すよう言った後、オレの使っていたスプーンを手に取るまで顔を覗き込んでやると、観念したのか王道のオムライスを一口食ったので、宣言通りオレは黙って部屋を出た。
先輩の部屋を出て、とりあえず自室にでも戻ろうと思っていたのだが、足がまともに動かず階段を下りる前に座り込んでしまった。クソ寒い中、震えるのも忘れて、ただ先輩の事ばかり考える。
「オレ、なんにもできねぇのかな」
無力な呟きは白くなって消え、オレの体が芯まで冷え切っても、先輩の気配は部屋から動かなかった。
「何やっとんねん、お前」
先輩の部屋の方ばかりを意識していたせいで、目の前に立たれるまで気付けなかった。階段の数段下に立った髭は、不機嫌そうな声で意味もなくこちらを睨みつける。何もやっていないので返す言葉もなく俯いていると「あの阿呆、なんぞ妙なもんでも食うたんか?」と視線で先輩の部屋を指しながら言う。
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