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蜜月
ストレスと愛情の違い
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「お前は狭間の身内だよね?」
それなのになんでこんな簡単な事も出来ないんだと、性悪は憎たらしい顔で言葉を使わず責めてくる。別に狭間とは兄弟でも親戚でもない。あんなとんでもない遺伝子とは無縁だと一応反論しておく。
「誰もそんな下らない事言ってないよ。とんでもないって分かってるんだったら、少しは心配してやったら?」
性悪に真っ当な指摘をされて少し黙った。言われる通り、狭間は止まると爆発でもするのかと思うほど、一日中動き回っている。校内は分からないが、旧館内は生徒が使用している部屋以外全て狭間の手が入っているのは、反省室の居心地の良さが毎回上がっているのが証拠になるだろう。
「手伝える事があれば言えって伝えてある。い、一応」
苦し紛れに答えれば、思い切りこちらを見下しながら性悪はハッと鼻で笑う。そして、オレが座ろうとした椅子をその場で引くと、座れと言わんばかりに場所を移動した。
「お前に手伝える事なんてないだろうね。邪魔だから、ここで大人しく座ってろ」
性悪は女装している時のような優美な微笑を浮かべながら、唾でも吐きそうな劣悪な声で言いやがった。態度を見ていると要求を無視して、故意に掃除の邪魔をしてやろうかとも思ったが、誰の得にもならない不毛な体力の使い方は止めておく。
この部屋に来た時の定位置に座り、ぼんやりと乱雑に並んでいる本の背表紙を眺める。霧夜氏ほどではないが寮長も活字中毒なのか、常に本が新陳代謝しているようだ。時間潰しの為、タイトルの読めない本に手を伸ばすと、手の甲を箒の柄でぺしっと叩かれた。
「部屋の物に勝手に触るな」
本気なのか冗談なのか、性悪は弱々しい力で箒を振るう。痛みがないせいで、腹がたつとかキレるといった感情が湧かず、おずおずと手を引っ込める。
「別に何もしねぇし。暇だから本でも読んでようかと思っただけだろ」
「ここにお前が読める本なんてない。見て分からない?」
確かに背表紙から読み取れるタイトルは一つも存在しなかった。ページを捲っても読むなんて上等な事は出来ず、せいぜい見るのが精一杯だと思う。暇つぶしとしては適当な相手ではないとオレも納得し、ならば別の暇つぶしをするかと性悪に視線を向けた。
手際よく部屋の掃除をする性悪を眺めていると、一つ気が付いた事があった。日常のように目にする狭間の手際とは全く違っていたのだ。狭間は本当に人間か疑いたくなるような無駄が一切ない機械的な手際なのだが、性悪のそれは効率とは程遠い、けれど無駄とは言えない丁寧さがあった。寮長が手にするであろう本一冊一冊の埃を丁寧に払い、誰の目にも秩序が分かるよう並べ直す。力任せに開けられた皺だらけのカーテンを整え、窓ガラスにベッタリと付いたバカデカい手形を拭き取る。窓が壊れていないか静かに開け閉めをして確認した後、(執事もどきの所業だと思うが)片付けているつもりなのかベッドのど真ん中で乱雑に丸められた布団に手をかけた。
「……寮長には性悪が勝手に掃除してるって言わない方がいいのか」
確認のつもりで呟くと、ベッドのシーツを回収している性悪が露骨に動きを止めた。
「もし寮長に誰が部屋を片付けたのか聞かれたら、性悪じゃあなく狭間が掃除してたって言えばいいのか?」
図々しさには定評のあるオレでも、この丁寧な仕事を「自分がちゃちゃっとやっときました!」とは言える気がしなかったのだ。腰でも痛めたのか、少しずつこちらを振り返った性悪は「……なに……それ?」と掠れた声で聞いてきた。
「え? いや、バレたらヤバいのかなって思って聞いたんだけど余計な世話だった? こんなコソコソやってるけど、寮長の了承は貰ってるとか?」
「それじゃない……ボクの聞き間違いじゃなければ、性悪って聞こえたんだけど、それは一体なんなの?」
オレの聞きたい答えは返ってきていないが話が進みそうにないので、ビシッと性悪を指差して教えてやると、見る見る内に奴の顔は紅潮し絵に描いたように怒り出した。
それなのになんでこんな簡単な事も出来ないんだと、性悪は憎たらしい顔で言葉を使わず責めてくる。別に狭間とは兄弟でも親戚でもない。あんなとんでもない遺伝子とは無縁だと一応反論しておく。
「誰もそんな下らない事言ってないよ。とんでもないって分かってるんだったら、少しは心配してやったら?」
性悪に真っ当な指摘をされて少し黙った。言われる通り、狭間は止まると爆発でもするのかと思うほど、一日中動き回っている。校内は分からないが、旧館内は生徒が使用している部屋以外全て狭間の手が入っているのは、反省室の居心地の良さが毎回上がっているのが証拠になるだろう。
「手伝える事があれば言えって伝えてある。い、一応」
苦し紛れに答えれば、思い切りこちらを見下しながら性悪はハッと鼻で笑う。そして、オレが座ろうとした椅子をその場で引くと、座れと言わんばかりに場所を移動した。
「お前に手伝える事なんてないだろうね。邪魔だから、ここで大人しく座ってろ」
性悪は女装している時のような優美な微笑を浮かべながら、唾でも吐きそうな劣悪な声で言いやがった。態度を見ていると要求を無視して、故意に掃除の邪魔をしてやろうかとも思ったが、誰の得にもならない不毛な体力の使い方は止めておく。
この部屋に来た時の定位置に座り、ぼんやりと乱雑に並んでいる本の背表紙を眺める。霧夜氏ほどではないが寮長も活字中毒なのか、常に本が新陳代謝しているようだ。時間潰しの為、タイトルの読めない本に手を伸ばすと、手の甲を箒の柄でぺしっと叩かれた。
「部屋の物に勝手に触るな」
本気なのか冗談なのか、性悪は弱々しい力で箒を振るう。痛みがないせいで、腹がたつとかキレるといった感情が湧かず、おずおずと手を引っ込める。
「別に何もしねぇし。暇だから本でも読んでようかと思っただけだろ」
「ここにお前が読める本なんてない。見て分からない?」
確かに背表紙から読み取れるタイトルは一つも存在しなかった。ページを捲っても読むなんて上等な事は出来ず、せいぜい見るのが精一杯だと思う。暇つぶしとしては適当な相手ではないとオレも納得し、ならば別の暇つぶしをするかと性悪に視線を向けた。
手際よく部屋の掃除をする性悪を眺めていると、一つ気が付いた事があった。日常のように目にする狭間の手際とは全く違っていたのだ。狭間は本当に人間か疑いたくなるような無駄が一切ない機械的な手際なのだが、性悪のそれは効率とは程遠い、けれど無駄とは言えない丁寧さがあった。寮長が手にするであろう本一冊一冊の埃を丁寧に払い、誰の目にも秩序が分かるよう並べ直す。力任せに開けられた皺だらけのカーテンを整え、窓ガラスにベッタリと付いたバカデカい手形を拭き取る。窓が壊れていないか静かに開け閉めをして確認した後、(執事もどきの所業だと思うが)片付けているつもりなのかベッドのど真ん中で乱雑に丸められた布団に手をかけた。
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「もし寮長に誰が部屋を片付けたのか聞かれたら、性悪じゃあなく狭間が掃除してたって言えばいいのか?」
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