転生令嬢の幸福論

はなッぱち

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第一章 

楽しかった思い出に浸ってやりました。

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 エイダンとは幼い頃から家同士のお付き合いがある仲でございました。私にとっては、初めてできた男の子のお友達で、幼い頃などその生態に度肝を抜かれては、淑女にあるまじき叫び声を上げ、近所に魔獣が出るとお父様方を震え上がらせたものです。

 彼のやんちゃは、年を重ねるごとに雄々しくなり、実に勇敢な青年となりました。けれど、剣のお師匠様から本物の剣を持つことを許されるようになると、その勇敢は蛮勇へとクラスチェンジ。

 街道沿いに盗賊が出ると聞けば、夜な夜な待ち伏せては根絶やしにする勢いでバッサバッサとなぎ倒し、誇らしげにその首を抱えて帰還しては、私の記憶を削りました。

 いくら懸賞金の引き換えに必要とはいえ、人の生首を屋台で買ったお菓子のような気軽さで持ってこられた日には、自力で目に映った光景を消去でもせねば、ショックでベッドから起き上がることもできませんでした。

 もちろん、そんな彼が盗賊だけで満足などするはずもございません。近隣の村を襲う野獣が出ると聞けば、我先にと駆けつけ国営のハンターが出動する前に一捻りでございます。

 名も分からぬ野獣の血の滴る肉を庭で焼き、一緒に食べようと誘って下さるのは、ありがた迷惑以外の何物でもありませんでしたが、私の為に一番美味しそうな部位を持って来たと言われては、断る言葉など見つかるはずもありません。

 食事にはバランスが大事よと、家中からかき集めました薬草を生で食みながら、必死でお腹におさめましたとも。

 けれど、繊細な私の体は猛烈に拒絶反応を起こし、三日三晩、上から下への大騒ぎお起こした挙げ句、お医者様から拾い食いは控えるようにと屈辱の限りを尽くしたお小言を頂戴してしまいました。

 人の尊厳まで踏みにじる、悪魔のような獣の肉ですら、レアな状態でお楽しみになる野趣溢れる彼エイダンが、外の世界に興味を持つのは避けられぬことでございました。
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