転生令嬢の幸福論

はなッぱち

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第一章 

旅立つ準備を完了してやりました。

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 破り散らかした紙を踏み付け、私は机を後にします。お父様への手紙が中途半端になってしまいましたが、気にしている余裕がなくなりました。

 勢いに乗って、今すぐバルコニーから地面目がけてダイブしてやろうと思いましたが、未練でしょうか、私の視線はクローゼットのへと向いてしまいます。

 お二人の不穏な噂を聞きながらも、彼に限って浮ついた裏切り行為などするはずがない。

 そう思い込みながら用意したドレスが、完成を待ちながら、今もクローゼットに眠っているのです。

「私の夢でしたのに……本当に酷い仕打ちをなさいますのね」

 ウエディングドレス姿で元婚約者が身投げすれば、より劇的に復讐は果たされるでしょうね。

 私は迷った末にクローゼットの扉を開きます。そこには私の夢が、未完のまま放置されておりました。

 自分のドレスは自分で作り上げたいと、一針一針、丹精を込めて縫いました。

 元々お裁縫が苦手な私ですので、私が眠った後に婆やが夜なべをして全て直しているのは知っていましたが、それでも愛着はひとしおでございます。

「あなたを道連れには出来ませんね」

 確か婆やには、私と同じ年頃の孫がいると話してくれたことがありました。

 私の醜い復讐劇の小道具に成り下がるより、誰かの幸せと共にあって欲しい。

 別れを惜しむよう、ドレスを一撫でして、私は机に戻ります。我が子同然のウエディングドレスを、一緒に作り上げてくれた婆やに贈って欲しいと、カードにしたため、胸元の大きなリボンに挟みました。

 ドレスに別れを告げ、鏡台へと向かいます。少しお化粧を直しておきましょうと思ったのでございます。けれど、遠くから聞こえてきた教会の鐘の音が、私の足を止めました。

 離れているのに、人々の祝福の声までもが、耳に届きます。

「……もう、行かなくちゃ」

 私は音に誘われるようバルコニーへ、旅立ちへ足を踏み出します。
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