転生令嬢の幸福論

はなッぱち

文字の大きさ
46 / 59
第三章

世の中の厳しさを教えてやりました。

しおりを挟む
「さっきのは教会全体の話。私個人はまた別でね。私はあると思うのよ。女神様が授けて下さる加護」

 そう言うと、ユリア様はクローゼットの奥から小さな錠付きの箱を持ち出してきました。指先で錠の上に小さな魔方陣を描かれますと、封印が解けたのか一陣の風が私たちの髪を揺らしました。

「マザーの私兵が密かに警備している場所があるの。何年もずっと、ね。そこに女神とコンタクトを取れる場所があるんじゃないかって思ってるのよ」

 箱の中から出て来たのは小石ほどの大きさの水晶。ユリア様が呪文でしょうか、ブツブツと何事か呟くと、その先から弱々しいながらも光が照射され、テーブルの上に地図が映し出されました。

「遠征のルートを変更させて、ここに立ち寄れるようにするわ。私兵を出し抜く必要はあるでしょうけど、ケイトが一緒なら簡単よ」

 私、生まれてから都を一歩も出たことがございません。地図をあれやこれと指さされても全くピンと来ず、サリー様に助けを求めるような視線をやりますと、面倒臭そうに顔を顰められました。

「本当に何かあるなら、婆さんに警戒されるんじゃないか。んな露骨に変更なんざさせたらさ。それに一シスターにそんな権限あんのかね」

「別に私が変更を申し出る訳じゃないわよ。バカ王子にテキトー吹き込んで変更させるから問題ないわ」

 確かに良いお噂は聞こえて来ない御方ではありますが、ここまでバカと連呼されているのを見ますと、僅かながら心が痛みます。

 願わくば、生まれのハンディキャップをねじ伏せ、第一王子に王位を継承して頂けますように……そう思わずにはおれません。

「使い古されたマザーの力より、女神の元に乗り込んで貴女の望むだけ力を授かればいい……依頼料の前払いとして、貴女が聖女になる為のお膳立てをするわ。どう、引き受けてくれるわねよ」

 ユリア様は当然の顔をして仰りました。私はニッコリと微笑みを浮かべ、彼女の元へ歩み寄ります。

「もちろん、お引き受けしたいですわ。ただ……もう一声頂きたいですね。確実性のない情報だけで動けるほど、私たちはお人好しではありませんから」

 そして、彼女の手に握られていた水晶をサッと拝借致しました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

【完結】王妃を廃した、その後は……

かずきりり
恋愛
私にはもう何もない。何もかもなくなってしまった。 地位や名誉……権力でさえ。 否、最初からそんなものを欲していたわけではないのに……。 望んだものは、ただ一つ。 ――あの人からの愛。 ただ、それだけだったというのに……。 「ラウラ! お前を廃妃とする!」 国王陛下であるホセに、いきなり告げられた言葉。 隣には妹のパウラ。 お腹には子どもが居ると言う。 何一つ持たず王城から追い出された私は…… 静かな海へと身を沈める。 唯一愛したパウラを王妃の座に座らせたホセは…… そしてパウラは…… 最期に笑うのは……? それとも……救いは誰の手にもないのか *************************** こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

甘そうな話は甘くない

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」 言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。 「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」 「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」 先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。 彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。 だけど顔は普通。 10人に1人くらいは見かける顔である。 そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。 前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。 そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。 「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」 彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。 (漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう) この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。  カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。

処理中です...