『記憶の中で』

篠崎俊樹

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第6話。

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 西川さんは、隣町の障碍者施設の主任で、年配だから、夜は寝ている。俺は寝れないときは、自室でパソコンを立ち上げて、小説を書いている。原稿なんか、徹夜で書くことだってある。精神安定剤さえ飲み忘れなければ、夜書いて、朝方まで起きておく。そして、朝は、普通に送迎車に乗って、障碍者施設に働きに行くのだ。その代わり、そういった日は、大抵、午後四時ごろ、磯崎家に帰ってくれば、即、睡眠導入剤を服用して、仮死状態を作ってから、先に安全状態にしておく。そして、夕方から仮眠を取り、三時間~四時間ほど眠って、午後八時には起きてから、また、原稿を書く。
 俺も四〇代だから、正直、疲れる。夜起きておいて、朝まで書くと、腰が痛い。また、目も疲れる。三〇代までの無理は利かなくなった。今は睡眠時間が四時間ほどで足りるけど、無理していると、持たない。早々に、寝ることだってある。街は夜、静かだ。起きておけば、朝は来る。その代わり、隣町の障碍者施設の仕事から帰ってきて、睡眠導入剤を服用して、夕方から、優雅に仮眠を取る。もちろん、夜の作業が疲れれば、夜間、仮眠を取ることにしている。夢を追うのは、大変だ。俺は街の人から誤解されているので、自分が小説を書いて、立とうとしていることは、知られていない。舞子には、言っている。妻は小説を読むし、俺も、舞子のために、小説を書いているようなものだ。実際、そうだった。俺が原稿を仕上げるために徹夜するのも、半ば、妻のためだ。
 目が疲れたときは、磯崎家の自宅二階から、窓を開けて、夜景を見る。景色はタダだ。紘一は、部屋に引きこもって、寝ている。何もできやしない。一流私大の英文科を出ていて、英語もろくにできず、そのうえ、引きこもり。終わりだろう。笑ってやる。世の中、まともな人間だって、大勢いるのだが、悪父は最低の人間だ。俺はもう、紘一に関して、構いたくない。時間の無駄。そう思える。俺はいつの間にか、あの人間と別れ別れになった。もう、頼ることもないだろう。俺にとって、今大切なのは、パソコンに書き溜めてある小説と、舞子、それに、隣町の障碍者施設での仕事ぐらいだ。あとは、病院である。院長に診てもらっていて、症状が安定している。一部の精神安定剤を注射してもらっているので、安全だ。
 俺にとって、興味があるのは、作家として本が出せることで、書店に行かなくても、作家はやれると思っている。世の中、電子書籍などの時代で、紙の本など売れないのだ。新聞がネットで出ている時代に、紙の本を買う馬鹿がいるだろうか?いない。俺は、寝る時間だってある。いい加減、どこかで、睡眠だって取りたいのだ。また、俺にとって、自分の本を読んでくれる人を探すことはしてない。本など、出版されれば、誰かが読んでくれている。反応を待つだけだろう。俺は世捨て人だから、書籍の売れ行きなど、興味がないのだ。また、俺自身、自分の仕事が区切りのいいところで終われば、どこでだって、睡眠導入剤を服用して、寝る。そうしている。それが、俺のやり方だった。(以下次号)
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