『記憶の中で』

篠崎俊樹

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最終話。

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     FIN
 俺にとって、隣町の障碍者施設で、西川さんの指導の下、働くことは、磯崎家を食べさせていくためだけで、他に意義はない。梅沢とは、ほとんど話をしない。紘一とも、一切没交渉。俺にとって、パソコンにある、書き溜めた小説だけが救いであり、話のネタとなる。俺のこの小説、『記憶の中で』も体験談であり、半ばは愚痴だ。俺にとって、小説を書いて、発表していくことは、ライフワークであり、ちょっとした可能性に賭けてみるという点では、一番いい方法なのだ。俺にとって、今の出版社との契約もあるし、これからも、そっちの線で行ってみるが、実際、まだ、書きたいこともある。現に、舞子には言っている。「いつか作家でお金を稼いで、君に美味しいものを食べさせてあげる」と。俺にとって、それができるかどうかは、分からない。ただ、命が続く限り、書いていく。また、書かないといけない。
 西川さんには、俺個人の作家業のことは言っておいた。障碍者施設で働く時間以外は、書いていいと言われて、安心している。俺にとって、作家で食うことは夢なのだ。でも、できないことじゃない。四〇代だと、回り道していても、まだイケる。
 紘一に関して、再度言っておくと、問題外だ。全く話にならない。俺との意識が違う。俺は、自分が障碍者施設で働き終わって、磯崎家に帰宅した後の時間も書いている。睡眠導入剤を服用した後で、眠たいのだが、頑張ってみる。俺にファイトはあるのだ。俺自身、寝る間も惜しんで書く。妻は外資系企業で事務員をやっているから、収入面に関しては、問題ない。俺としては、舞子の給料にプラスアルファで、お金を稼いで、今後、この磯崎家で暮らすための足しにしてほしいと思っている。俺的には、そういった狙いだ。俺のこの小説は、最初からガンガン、悪父、紘一を攻撃して書いてきたが、話のネタが尽きてきたので、この辺りでまとめて、一つ話を作ってから、結ぼうと思う。俺も、結稿のタイミングを見計らって、考えているのだ。紘一のことはもういい。これ以上、書かない。呆れた認知老人だと思う。俺や妻にとって、悪父は、一切かかわりたくない存在なのだ。また、紘一のことをこれ以上書くと、この小説がごみ溜めになる。いいものに仕上げて、最高のエンディングを作るために、あえて書かない。そう思っている。第一、引きこもりの老人のことを、あれこれ述べても、面白くないじゃないか?俺はそういった気持ちでいる。自分の心境と、今後のことを述べた辺りで、小説自体に、稿を結んでいい。最後に言っておくと、俺は当面、二足の草鞋を履く。そのつもりだ。隣町の障碍者施設で働きながら、本職の作家を目指す。ここまで綴って、この小説を終わりにしようと思う。最後に、俺的に、一番口にしたいセリフを出して、終わりにする。「統合失調症の子供に栄冠あれ!」
                      (了)
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