『ウエルカム トゥー ヘブン』

最終話。

　　　　　ＦＩＮ
　俺は勾玉を抱えながら、まっしぐらに走り続ける。疲れていた。天国一周レースは、もうすぐ終わりだ。王に何と言えば、話が済むか？そう思えていた。と、そうしているうちに、最終地点に着いた。このレースの、最期のトライアルだ。
　それは、熱地獄だった。辺りに、サウナのような熱があり、これを超えないといけない。俺は、必死で辺りを嗅ぎ分け、地獄を渡り切ろうとした。疲れる。実際、サウナには熱が浸透していて、辺りは蒸し暑い。俺は苦痛を抱えながら、サウナを超え、渡った。
　渡り切って、時間を頭の中で計算してみると、二十四時間の制限時間でも、三時間半ほどしか使ってなかった。余裕だ。俺は走り切って、王の居宅へと向かう。居宅に着くと、王が玉座に座っていて、俺に、
「どうだ？レースはクリアできたか？」
　と訊いてきた。俺が笑みを浮かべ、
「ええ、大丈夫でした。無事、クリアいたしました」
　と返すと、王が言葉を翻し、
「お前に、ここ天国での永住権を与える。これからは、ここに住め。お前を歓迎する！」
　と言って、高笑いした。これは――、まさに、「天国へようこそ」、つまり、「ウエルカム　トゥー　ヘブン」というものを意味する。そのときの俺には、素直に、そう思えた。
　俺はそれから、第二の生を、ここ天国で送り始めた。差別も偏見もない、安住の地だった。この場所は安らかで、邪魔も、横やりも、何も入らない。一切が、平穏だった。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（了）