『悪』

篠崎俊樹

文字の大きさ
上 下
2 / 5

第2話。

しおりを挟む
     2
 昔、ある歌手の歌に、俺は涙がこぼれ出た。聴いていて、ボロボロ泣いた。その歌手の名前は出さないけど、俺は、自分にその歌が合っていると思った。俺が泣くこともあるのだけど、何て言うか、俺は、寝る前に、睡眠導入剤を服用してから、眠れないときに、歌をユーチューブで聴くのが好きなのだ。俺にとって、歌はカタルシスである。小説に次いで、好きなものである。俺は元々、ずっと文筆をやってきて、一方で、四十三年間、乱暴で、粗暴な毒親に見張られて、生きてきた。何とか生きてきた。でも、いい。今は、俺と、毒親は、立場が、完全に逆転している。俺は力づくで、毒親の持ち物などを、燃えるゴミに捨ててやる。俺が悪と化す瞬間だ。俺がやったことは、全部必要なことだったのである。力には力。弱い立場にいて、たとえ、まともな光が当たらない存在でも、必ず逆転して、光を差させてみせる。俺は悪いことをしたとは思ってない。そう思ってほしい。あの歌手の歌に、俺は涙が出た。歌詞に共感できた。涙がポロポロ出た。これ以上は言わない。
しおりを挟む

処理中です...