『逆行。』

篠崎俊樹

文字の大きさ
8 / 64

第8話。

しおりを挟む
     8
「もういいよ。聞き飽きたんだ、そのセリフ」
 誰よりも孤独なジミーが、タカに対して、そう切り出した。統合失調症の青年は、孤独だ。誰にも心を許さないし、許せない。それが、この青年の特徴だった。難しい性格なのだ。
 ジミーが切り出した。ひときわ、難しい表情を浮かべて、だ。
「この間、喫茶店で知り合った大島亜季って子と、スマホの番号交換したんだ。今から掛けてみる」
 素朴な告白で、別に難しい性質だから、言葉を選ぶのが、得意じゃないのだ。でも、それが、この青年の性格だった。元々、統合失調症というのは、気が楽じゃなく、性格的に楽天的でもなくて、感情も鈍麻しがちだ。それが、この病気の特徴でもある。
 タカは、そんなジミーを冷笑した。侮蔑の念がこもっている。ジミーは、そんな相方の様子を見て、心穏やかじゃいられなかったようだ。また、怒り出す素振りは見せてないにしろ、感情は湧き出しけていた。実際、スマホを持つ手は、湧き出した怒りのせいで、ブルブルと震え、今にも、本体を壊してしまいそうな感じだった。
 電話帳を開き、電波を発信して、少しだけ待つ。呼び出し音が鳴り始めた。発信すれば、スマホなど、どこからだって繋がる。すぐに、亜季が出た。ジミーは、不器用な言葉つきで、話を始める。交わす会話の中でも、互いの気持ちを、笑い合うことで誤魔化し合う。会話中で、一番、核心を突いた言葉が出てきた。「ところでジミーさんって、どんなお仕事してらっしゃるんですか?」というセリフだ。
 それに対して、ジミーは答えた。適当に、だ。その適当な受け答えも、邪気がなく、いいものだった。統合失調症の患者特有の、独特の代物だ。 
 ジミーには、亜季の心の奥底が分かるような気がした。やりたいことがないと言っている人間の方が、返って野心のようなものを持っているものだと思うし、実際、彼女は、いろんな意味で、視野も広いし、性格は難しくない。また、人は亜季を見て、いろいろと考えることもないだろう。普通の女性だ。
 ジミーは、晴れた休みの日に、一緒にディズニーシーに行くことを提案した。デートだ。また、男女なら、デートぐらいしても、平気だ。実際、若い者同士なら、それぐらい、するだろう。当然と言えば、当然であって、不自然じゃない。
「ジミー、そろそろ電話切れ!作戦会議続行」
 タカが背後から急かす。裏堅気の男特有の言動だ。ジミーはスマホを持つ手を幾分震えさせ、軽く頷き、電話を切った。その後、スマホをジーンズのポケットにしまい、相方に正対する。揃って、小一時間、作戦を練り続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

処理中です...