『逆行。』

篠崎俊樹

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第35話

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 その夜、一人、捜査本部にこもった華は、持ってきていたノートパソコンで、捜査資料を作っていた。今の季節、南半球は初冬だ。長い長い夜が、何かと物憂い。惑う気持ちが出てくる。
 その夜、思わぬことが起きた。本当に思わぬことだ。
 午前三時過ぎ。憔悴しきっていた華のいる捜査本部に、意外な人物が一人現れたのだ。
 但馬勇だ。別室でブランデーを思いっきり呷っていたらしい彼は、酔った勢いで、こちらの部屋へとやってきたのだった。
 性行為に誘ったのは、但馬の方だった。本来ならタブーだったが、絡み合う。
「まだ、仕事残ってますから」
 行為が終わった後、華が言った。その言葉は、淡々としている。
「ああ。俺はもう寝る」
 但馬は、案外素っ気無く言い、仮眠を取るため、隣の部屋へと入っていった。簡易ベッドが一つある。手狭だった。
 しばらくして「グーグー」という、彼の眠る鼾が、こちらの部屋まで聞こえてきた。それを聞きながら、華がひたすらパソコンに向かう。淡々と、キーを叩き続ける。
 二時間後、彼女が、書類全てを調え終えた時、いつの間にか、朝になっていた。夜が明けて、陽が差し込んでいる。
 少し仮眠を取ろうとソファーに横になったが、プレゼンに対する緊張感があって、焦燥感も募り、眠れない。それもそのはずだ。一晩、徹夜で仕事をしたのだから……。
少しでも眠りたい、と願った彼女は、手持ちのハンドバッグから、睡眠導入剤を取り出して、水で流し込んだ。ようやく、眠気が訪れたのは、午前六時前だった。
 今日は、午後一で会議が招集される。華の作成した資料を基に、捜査方針が議論される予定だ。もちろん但馬、ペルソナ、それに加えて、その他の現地警察官数名も臨席する。午後一時の会議開始まで、ちょうど七時間あった。
 しかし、そんなに長く眠れるわけがない。多分、午前九時には叩き起こされてしまう。徹夜明けがきついのは、今でも感じることだ。彼女は、そんなことを思いながらも、今日の会議の進め方を躍起になって模索していた。
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