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第43話。
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その日の昼過ぎ、ジミーと亜季は、島内有数の規模を誇る、大手整形外科のオフィスが入ったビルを訪れた。立派じゃないが、そこそこの規模のビルだ。
「この用紙に、ご記入いただけますか?」
整形外科は、受付嬢までが整形しているかのようだった。不気味な感じである。目の前に座っているスーツ姿の若い女性の顔は不自然だった。明らかに、顔をいじっている。
用紙の一番上の言語選択欄で、日本語に〇を付ける。希望する顔のイメージを具体的にお書き下さい、という質問まであった。
二人とも全く目を合わさずに、黙々と記入し続ける。二人の前に、さっきの受付嬢とは別の女性が来た。
少し薄くピンクがかった衣装を着て、ナースキャップを嵌めている女性だ。
安っぽい衣装で、あまりいい印象はない。コスプレを見ているようで、これから医師の診察を受ける気にはなれなかった。
キタガワタクヤ――、ジミーの名乗った偽名だった。亜季は、ナカタニレイコを名乗っている。
二人が同時間帯に、別々の診察室でドクターの診察を受けた。ジミーには女医が付き、亜季には男性医師が付く。二人とも納得行くまで、自分の希望を伝えた。
「OK。北川さん、心配ないわ」
と女医が言って、
「この程度の手術なら、わけないわ。上手くいくから、くれぐれも心配だけはしないでね」
と言葉を重ねた。女医の胸のIDカードには、マリー・セルラーとある。
ジミーの診察を終えたマリーは、カルテを看護師に渡し、
「ちょっとあたし、一息ついてくるわね。今日は、朝から休んでないのよ」
と言った。
タフな医者の側面を、余すことなく、周囲に見せ付ける彼女も、時折、あたしだって、人間なんだから、と言いたそうだった。
診察室を出て、裏手の喫煙エリアへと回った彼女が、隣の診察室から出てくるジョージ・ハワードと、ばったり出くわす。
ジョージも、タバコ休憩らしかった。
二人は、狭い喫煙エリアでタバコを吹かしながら、互いのクランケについて、情報交換し合った。
「あたしの今日の午後一のクランケのタクヤは、なかなかいい男よ。用紙に、日本語で記入してあったから、多分日本人」
「俺のクランケのレイコも、日本人だよ。目鼻立ちがすっと整ってて、なかなかの美人だぞ。それに若いし」
「そう?それ、あたしへの当て付け?若くないから?」
「いやあ、五十代の俺から見れば、三十代の君はまだまだ若いよ」
「悪かったわね。若くないんでしょ?」
そんな風に言って、頬を膨らませて見せるマリーは、実際なかなかの美人で、整形外科のマドンナ的存在だった。美人で、美形なのは、間違いない。
「ところで、彼女のオペはいつするの?」
「そうだな……」
マリーの質問に、ジョージが少しだけ考え込む。
「君はいつする、タクヤのオペ?」
「そうね。彼、明日の午後も、また来るって言ってたから、明日午後の一番目かしら?」
「じゃあレイコにも、タクヤと同じ時間に来てもらおう」
「二人、同時間手術ってことね?」
「その方がいいだろ?手間も省けて。な?」
「賛成。じゃあ、明日の午後にしましょう」
二人がその場で、オペの時間を決め合う。これはジミーたち二人にとって、格好のアリバイ作りとなった。
タバコを吸い終えた二人は、吸殻を灰皿で揉み消すと、再び診察室へと戻った。なぜか診察室の方が、視覚的にも心理的にも、喫煙エリアより狭苦しかった。
その日の昼過ぎ、ジミーと亜季は、島内有数の規模を誇る、大手整形外科のオフィスが入ったビルを訪れた。立派じゃないが、そこそこの規模のビルだ。
「この用紙に、ご記入いただけますか?」
整形外科は、受付嬢までが整形しているかのようだった。不気味な感じである。目の前に座っているスーツ姿の若い女性の顔は不自然だった。明らかに、顔をいじっている。
用紙の一番上の言語選択欄で、日本語に〇を付ける。希望する顔のイメージを具体的にお書き下さい、という質問まであった。
二人とも全く目を合わさずに、黙々と記入し続ける。二人の前に、さっきの受付嬢とは別の女性が来た。
少し薄くピンクがかった衣装を着て、ナースキャップを嵌めている女性だ。
安っぽい衣装で、あまりいい印象はない。コスプレを見ているようで、これから医師の診察を受ける気にはなれなかった。
キタガワタクヤ――、ジミーの名乗った偽名だった。亜季は、ナカタニレイコを名乗っている。
二人が同時間帯に、別々の診察室でドクターの診察を受けた。ジミーには女医が付き、亜季には男性医師が付く。二人とも納得行くまで、自分の希望を伝えた。
「OK。北川さん、心配ないわ」
と女医が言って、
「この程度の手術なら、わけないわ。上手くいくから、くれぐれも心配だけはしないでね」
と言葉を重ねた。女医の胸のIDカードには、マリー・セルラーとある。
ジミーの診察を終えたマリーは、カルテを看護師に渡し、
「ちょっとあたし、一息ついてくるわね。今日は、朝から休んでないのよ」
と言った。
タフな医者の側面を、余すことなく、周囲に見せ付ける彼女も、時折、あたしだって、人間なんだから、と言いたそうだった。
診察室を出て、裏手の喫煙エリアへと回った彼女が、隣の診察室から出てくるジョージ・ハワードと、ばったり出くわす。
ジョージも、タバコ休憩らしかった。
二人は、狭い喫煙エリアでタバコを吹かしながら、互いのクランケについて、情報交換し合った。
「あたしの今日の午後一のクランケのタクヤは、なかなかいい男よ。用紙に、日本語で記入してあったから、多分日本人」
「俺のクランケのレイコも、日本人だよ。目鼻立ちがすっと整ってて、なかなかの美人だぞ。それに若いし」
「そう?それ、あたしへの当て付け?若くないから?」
「いやあ、五十代の俺から見れば、三十代の君はまだまだ若いよ」
「悪かったわね。若くないんでしょ?」
そんな風に言って、頬を膨らませて見せるマリーは、実際なかなかの美人で、整形外科のマドンナ的存在だった。美人で、美形なのは、間違いない。
「ところで、彼女のオペはいつするの?」
「そうだな……」
マリーの質問に、ジョージが少しだけ考え込む。
「君はいつする、タクヤのオペ?」
「そうね。彼、明日の午後も、また来るって言ってたから、明日午後の一番目かしら?」
「じゃあレイコにも、タクヤと同じ時間に来てもらおう」
「二人、同時間手術ってことね?」
「その方がいいだろ?手間も省けて。な?」
「賛成。じゃあ、明日の午後にしましょう」
二人がその場で、オペの時間を決め合う。これはジミーたち二人にとって、格好のアリバイ作りとなった。
タバコを吸い終えた二人は、吸殻を灰皿で揉み消すと、再び診察室へと戻った。なぜか診察室の方が、視覚的にも心理的にも、喫煙エリアより狭苦しかった。
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