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第45話。
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その頃、東京では、自首したばかりのタカが、警察に洗いざらい喋っていた。さすがの彼も、実行役のジミーがいなくなった以上、殺人を続ける理由がなくなってしまったのだ。
「刑事さん、俺、君島逮捕のためなら、全面的に協力しますからね」
打って変わって、態度を変えたタカを、警察サイドは幾分不審に思い、気味悪がった。
蒸し暑い夏が始まろうとしている日の午後だった。空に鮮やかな飛行機雲が棚引く中、代々木南署の取調室で、八田が問う。
「お前、君島の行った国に、検討付くか?」
「そうですねえ……あいつはもう、セントアルバにはいないと思いますよ。行くとしたら、そうだな……あ、そうそう、あいつ、以前『真夏のメリークリスマスっていいよなあ。一度でいいから見たいよ』なんて言ってたこと、ありましたよ」
「つまり、オーストラリアってことか?」
「その可能性が、高いですね」
警察の読みは、半分当たり、半分ハズレだった。
その時、八田に、セントアルバからの出国者を押さえるだけの行動力があれば、事件は無事解決だったのに、だ。
「オーストラリア国際警察に至急連絡だ。君島次郎と大島亜季を国際手配しろ。いいか、容疑は殺人だ。大至急、頼む」
八田の命令を受けた畑野可奈警部補が、早速、オーストラリア警察に捜査依頼を打診した。電話先の相手は、かなり好意的だった。協力打診に関して、いい返事を期待していなかっただけに、可奈の心が弾む。OKのオファーが出たことを八田に告げると、彼が言う。
「もしかしたら、今度は君に行ってもらうことになるかもしれない」
「私がですか?」
「ああ。君は所轄所属とは言っても、立派な刑事だからな」
「ありがとうございます」
可奈は若い。それに、行動力がある。
今年三十の大台に乗り、年齢では、ベテランの域に達する彼女は、実は、矢島課長の東大の三年先輩だった。つまり、れっきとしたキャリア組ということになる。しかし可奈は、自分がキャリアであるということへの自覚を欠いていた。つまりいつも、そこら辺りにいる、同年代の女性と変わらない気持ちでいるのだ。
職場でも、一人暮らしのマンションでも、捜査資料を読む以外は、ファッション誌の類を読んで、溜め息をつく。流行りの若手女流作家の文庫本もかなり読むし、映画や音楽の流行にも敏感だ。年に数日のわずかな休みでも、若者の街、下北沢などをぶらつかないと、どこか落ち着かない。それに今でも、渋谷センター街や原宿に通い続けている。どれをとっても、感覚が若かった。
可奈はふっと、目の前の八田が、自分の父親ぐらいの年齢であることに、今更ながら気付いた。
八田に敬礼した彼女が、自分のデスクへと戻る。
パソコンで、オーストラリア警察宛にお礼のメールを打つ。英語が得意で、署一の国際派で通る彼女にとって、それぐらい、朝飯前だった。送信した後、幾分体のだるさを感じる。
「あ、上戸。この資料のここのところ、作り直しておいて」
「先輩、どうかしたんですか?」
後輩婦警の上戸麗華が、心配そうに可奈を見た。
「あ、ちょっと、仮眠取ってくるだけだから」
「先輩、いつも仕事しすぎだからなあ」
そう返した麗華が、自分のデスクに座り、立ち上げていたノートパソコンで書類を作り直し始める。彼女は眠気覚ましに、濃いコーヒーを淹れた。しかも、ブラックで、だ。それでも眠かったので、ガムを噛む。やっと集中でき始めたのが、午後三時過ぎだった。
その頃、東京では、自首したばかりのタカが、警察に洗いざらい喋っていた。さすがの彼も、実行役のジミーがいなくなった以上、殺人を続ける理由がなくなってしまったのだ。
「刑事さん、俺、君島逮捕のためなら、全面的に協力しますからね」
打って変わって、態度を変えたタカを、警察サイドは幾分不審に思い、気味悪がった。
蒸し暑い夏が始まろうとしている日の午後だった。空に鮮やかな飛行機雲が棚引く中、代々木南署の取調室で、八田が問う。
「お前、君島の行った国に、検討付くか?」
「そうですねえ……あいつはもう、セントアルバにはいないと思いますよ。行くとしたら、そうだな……あ、そうそう、あいつ、以前『真夏のメリークリスマスっていいよなあ。一度でいいから見たいよ』なんて言ってたこと、ありましたよ」
「つまり、オーストラリアってことか?」
「その可能性が、高いですね」
警察の読みは、半分当たり、半分ハズレだった。
その時、八田に、セントアルバからの出国者を押さえるだけの行動力があれば、事件は無事解決だったのに、だ。
「オーストラリア国際警察に至急連絡だ。君島次郎と大島亜季を国際手配しろ。いいか、容疑は殺人だ。大至急、頼む」
八田の命令を受けた畑野可奈警部補が、早速、オーストラリア警察に捜査依頼を打診した。電話先の相手は、かなり好意的だった。協力打診に関して、いい返事を期待していなかっただけに、可奈の心が弾む。OKのオファーが出たことを八田に告げると、彼が言う。
「もしかしたら、今度は君に行ってもらうことになるかもしれない」
「私がですか?」
「ああ。君は所轄所属とは言っても、立派な刑事だからな」
「ありがとうございます」
可奈は若い。それに、行動力がある。
今年三十の大台に乗り、年齢では、ベテランの域に達する彼女は、実は、矢島課長の東大の三年先輩だった。つまり、れっきとしたキャリア組ということになる。しかし可奈は、自分がキャリアであるということへの自覚を欠いていた。つまりいつも、そこら辺りにいる、同年代の女性と変わらない気持ちでいるのだ。
職場でも、一人暮らしのマンションでも、捜査資料を読む以外は、ファッション誌の類を読んで、溜め息をつく。流行りの若手女流作家の文庫本もかなり読むし、映画や音楽の流行にも敏感だ。年に数日のわずかな休みでも、若者の街、下北沢などをぶらつかないと、どこか落ち着かない。それに今でも、渋谷センター街や原宿に通い続けている。どれをとっても、感覚が若かった。
可奈はふっと、目の前の八田が、自分の父親ぐらいの年齢であることに、今更ながら気付いた。
八田に敬礼した彼女が、自分のデスクへと戻る。
パソコンで、オーストラリア警察宛にお礼のメールを打つ。英語が得意で、署一の国際派で通る彼女にとって、それぐらい、朝飯前だった。送信した後、幾分体のだるさを感じる。
「あ、上戸。この資料のここのところ、作り直しておいて」
「先輩、どうかしたんですか?」
後輩婦警の上戸麗華が、心配そうに可奈を見た。
「あ、ちょっと、仮眠取ってくるだけだから」
「先輩、いつも仕事しすぎだからなあ」
そう返した麗華が、自分のデスクに座り、立ち上げていたノートパソコンで書類を作り直し始める。彼女は眠気覚ましに、濃いコーヒーを淹れた。しかも、ブラックで、だ。それでも眠かったので、ガムを噛む。やっと集中でき始めたのが、午後三時過ぎだった。
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