のろい盾戦士とのろわれ剣士

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8.なにはともあれ装備を調える

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 運動部の有象無象を振り切り(何故か奴等は群がってやってくる。背が高くてガタイがいいからといって運動が出来るものではないというのに)、いつものところに寄って用を済ませ家へと帰る。
 夕食を取り(大盛りカルボナーラに野菜サラダとコンソメスープ)明日の予習と宿題を済ませてからリクライニングシートに身体を預けHMVRDを被りライドシフトからのログイン。

 セーブポイントはギルドホームのマイルームにしてあるので、誰に気兼ねするでもなくピロキシの姿になったオレは嬉声を上げてマイルームの中をピョンコピョンコとスキップする。
 背が小っちゃい!身体が軽い!言うこと無しだ!!

「ふほほ~~~いっっ!!」

 そしてオレはスキップ状態のまま身体をピキーンと硬直させる。
 目の前にはパンをカジカジごっくんさせたフィアーナがオレを見て立っていた。
 何とも気まずい空気が周囲に漂う。それにオレは醜態を晒した訳なのでめっちゃ恥ずい。

 顔が熱くなっているのが分かる。きっと顔は真っ赤になっているのだろう。ここまで再現せんでもいーだろうに。
 オレはこの空気を払拭するため、何事も無かったかの様にフィアーナに挨拶をする。

「よう、来てたんだな」

 フィアーナはオレの言葉に反応せずもぐもぐ口を動かしてパンを頬張っている。
 オレが売ったバゲットサンドじゃないので、ギルメンの誰かから買ったか貰ったかしたのだろう。
 パンの形を見てああと思い立つ。今日はあいつ―――“ブレッドマン”が来てるのか。

 ブレッドマンはパスタスキンと同じく【調理】スキル持ちで、パンに特化したパン好きPCだ。
 大罪ダンジョンとは別にある期限付きで現れるダンジョンで手に入れた小麦粉を使っていわゆるヨーロピアンブレッドからコンピニで売ってる惣菜パン、菓子パンなんかを再現して作ってるPCだ。ちなみにオレ等のギルドのギルマスになる。

 いまフィアーナがもぐもぐ食べているのは、ブレッドマンの新作のようだ。
 鑑定してみると、【バターパン】とある。またベタな名前を運営は付けるもんだ。
 そう、このゲームの中では作り上げるものは、オレ達が命名できるわけじゃなく、運営の方で勝手に名付けられるものだ。

 大抵はそれなりの名前なのだが、たまに変なネーミングがされてくる。

「あ、ピロキシさん。こんにちは」

 パンを食べるのに集中していたせいか、オレの存在に気づいて挨拶をしてくる。
 どうやら先程のオレのスキップ姿は見てなかったようだ。ほっと胸を撫で下ろす。

「ギルマス来てんだな」
「ギルマスさんですか?」

 誰?ってな顔で首を傾げるフィアーナを見て、オレはまさかと思い確認する。

「ん~と、ギルドマスターって知ってるよな?」

 再度パンを齧り咀嚼しながら首を横にふるふるとフィアーナが振る。

「………前にも言ったけど、PC同士で集団を作ったのをギルドって言って、その統括者という責任者をギルドマスターって言う」

 フンフンと頷くフィアーナ。そういやフィアーナこいついつからこのゲームやってんだろうか。ド忘れした。
 あまりにも知らなさすぎる。つーかゲームもやったこと無いのかもしれない。

「でだ、フィアーナが頬張ってるパンを作ってるのがギルドマスターのブレッドマンてなわけだ」

 モグモグさせていた口をピタリと止めて目を大きく開き驚きながらフィアーナが聞いてくる。

「え?あのひとそんなに偉い人だったんですかぁ?」
「ンー、偉いって言うより責任者ってだけだな。生産者の塊クラフターズナゲットってのは基本自分勝手にいろいろやってるだけで、それぞれ拠点が必要だってんで集まったPCやつらだからな。
「皆にパン配ってたんで、お食事担当の人かと思って頭撫でちゃいました」

 ありゃ~、あいつちび扱いすっとめっちゃ怒るんだけど、大丈夫だったんだろか………。

「何かされなかったか?」
「いえ、目を細めて気持ち良さそ~にしてました」

 ちっ、人を選んでんのかよ。確かにギルメン皆でからかった時はめっちゃおっかなかった。
 正直やり過ぎたと思って皆で平伏したもんだ。
 まぁ、フィアーナになんにも無かったのなら何の問題も無い。
 どうやらフィアーナもパンを食べ終えた様なので、本題に入る事にしよう。
 オレがフィアーナに話し掛けようとすると、逆にあっちが質問をして来た。

「ところでさっきスキップをしてましたけど、なんかいー事でもあったんですか?」

▽ピロキシは精神こころにダメージをうけた!

 くっ!時間差攻撃かよっ!!ガクッ。
 オレは思わず手を付け跪く。

「え?あ、あれ?ピロキシさん?」

 ちょっとだけ待って。ちょっとだけ………。
 
 
 
 はい、少しだけ回復しました。ファイアーナの質問にお茶を濁して、今度こそ本題に入る事にする。
 まずはお茶をいれ、ソファーに対面に座り話し始める。

「フィアーナ、まずあんたの装備を何とかしなくちゃいけないと思ってる」

 これから呪いと解くため、いろいろとやらなくちゃいけないことを1つ1つ説明するようにオレは話していく。

「え?でも、この剣の装備って外せないんですけど」

 湯のみを両手で持ってお茶をずずーっと啜りながら、言わずもがなの事を言ってくる。

「ああ、だからサブ武器を装備して、戦闘の時はそっちを使うようにして貰う訳だ」
「サブ武器?」

 このゲームのシステムにはメインとサブの武器装備が出来るようになっている。
 遠距離と近距離の使い分けや。【2刀流】スキルがあれば同じ武器を装備して戦うなど。

 あくまで予備扱いではあるが、メインの長剣とサブの短剣で攻撃と防御をするなど様々な使い方がある。大概は盾装備してるけどな。
 それに武器スキルがなくても装備をして使うことも出来る事は出来る。プレイヤースキルに依存するのであまりお勧めは出来ないが。
 俺はそんな事をフィアーナに判りやすく簡潔に説明していく。

「だが、呪いのかかったそれを使い続けてりゃ、終いにどうなるかはフィアーナ、あんたにも分かるだろ?」

 オレの言葉にフィアーナは腕に巻かれた包帯を見て頷きを返す。

「じゃ、ちょっと移動しよう」

 そう言ってオレは立ち上がりマイルームを出る。そして慌ててフイアーナがそれを追いかけて後から付いて来る。
 ホーム内は相変わらず槌をカンカン打ち付ける音やゴリゴリ薬材を摩り下ろす音が聞こえて来る。合間にへいっ、へいっとか、いっひひひーっとか聞こえてくるが、デフォルトなのでオレは気にも留めない。
 どちらかと言えば後ろから着いてくるフィアーナのふぉおおとほへへぇ~という声の方が気になる。
 オレは鍛冶スペースの所まで行き、作業をしているPCの前へと向う。

「よぃ~~っす。スミスミス氏出来てるかぁ?」

 細工物をかしかしやってるPCに声を掛ける。ありゃ、邪魔したか。

「お~~ピロ氏。昨日振り~」

 【鍛冶】スキル持ちのスミスミス氏がこちらを見ずに作業をしながら返事してくる。邪魔になってない様なのでほっとひと息吐く。

「きの~頼んだの出来てる~?」

 肉祭りの最中にオレはこのスミスミス氏にお願いいらいをしていたのだ。

「ほいほ~~い、出来てるよ~。ほいこれぇ~」

 今まで細工してたものを持ち上げ、こちらにレンタルしてくる。

「フィアーナ受け取って」
「え?あたしですか?」
「え?フィーちゃんが使うのかぁ。もうちょい可愛くすればよかったな~」

 ……オレちゃんと説明したはずなんだが………。やっぱ肉食ってたから話半分に聞いてたのか。まぁ、出来は良さそうだからいいか。

「これ………武器なんですか」
戦槌メイスだな。打撃武器ってヤツだ」

 トンカチの頭を十字のようにして80cm程の長さの柄を付けたものだ。
 取っ手部分は滑り止めで皮が丁寧に巻かれており、石突部分は鋭い円錐状になっている。
 全体が白く光沢したように光り輝いている。けっこー良さ気な金属を使ってるみたいだ。

「いくらになる~?けっこーかかったろ~」
「ん~、フィーちゃんなら100でいいや。ピロ氏ならがっぽり戴くけどな~」

 キシシと笑いながらそんな事を言ってくる。PKの件もあり懐も潤ってるから問題はないが、差別酷くね?
 いや、名誉ギルメンのフィアーナだからだと思っておこう。

「100だってよ。トレードしちゃって」

 メイスをぶんぶん左手で振り回しながら、逆にフィアーナがオレに問いかけてくる。

「何故にメイスなんですか?」
「呪いの武器のせいで、DEXきようにマイナス罹ってるから細かい事は出来ねぇんじゃねぇかと思ったんだけど、他に何か考えか使える武器あるんか?」

 フィアーナが腕を組み中を見上げながら右に左に首を傾げながら唸った後あっけらかんと答える。

「特に無いですね。あはっ」

 だよなー。きっと何も考えてねぇと思ったよ。

「まぁ、物は試しと思って使ってみてくれ」
「分かりましたっ!」

 そう返事をしてフィアーナはレンタルしたメイスをトレードで購入する。
 買ったメイスを嬉しそうにぶんぶん振り回す。危ないっての。

「あと~、これプレゼントするね~」

 そう言いながらスミスミス氏は指貫の黒い革手袋をフィアーナへ渡す。
 手渡されたそれを見てスミスミス氏に笑顔を見せて礼をフィアーナが言う。

「ありがとうございます!うれしいですっ!」

 ピカ―っと目映く輝く笑顔を見せられて、スミスミス氏が眩しそうに目を細めて鼻の下を伸ばしている。
 こいつこんなキャラだっけ?
 その後革細工のヒカワのところで革鎧と脛当てを誂えそれらをフィアーナに装備して貰う。
 まぁ、それなりの格好になっただろう。

 最後にもうひとつの用件のところへとオレは向かってフィアーナは装備した防具や武器が嬉しいのかうきうきスキップしながらついて来る。
 イヤミか………それはないか。うん。

 ギルドホームの中をぐるりと回り込み反対側のマイルームへと向かう。
 そのマイルームのドアには脇に看板が掛けられていて“アイテムなんでも鑑定口寸(有料)”と書かれている。大丈夫か?これ。
 この看板は書かれている事がちょくちょく変わる。
 “鑑定してやんよ(有料)”とか“別にあんたのために鑑定するんだからね(有料)”なんて書かれてた事もあった。オレにはよく分からんけどそういう仕様らしい。
 本人が古式ゆかしいOTKだと言ってるから、その手の何かなんだろう。

 オレはドアの前で声を掛けてガララとドアを引いて中へ入る。

「ナカジー、入るぞ~」
「あ、いらっしゃ――――ぶっっふぅうううっっ!」


▽ナカジマ3世は82のダメージをうけた!

 HPの半分近くが減りばたりと倒れるナカジー。

「うおおっ!ナカジーっっ!!」

 オレは慌ててHPポーションを取り出しナカジーへ振り掛け回復させる。
 ナカジーの手には黒い四角い物体を持っているのを見て、悪いことをしたなぁと少しばかり反省する。
 ナカジーが顔に掛けているもので中を見てて、俺達が入ってて来たのでそのままその姿を見てぶっ倒れたのだろう。
 ちなみナカジーが今かけてる眼鏡ものは。

 【スケスケスケルトングラス】

         物の内部をそのまま透過して見る事
         ができる。
         物の本質を知る事が出来るありがたい逸品

 よく何が入ってるのか分からんから調べてくれっていう依頼があるらしいので、それをつかって中を見てたって訳だ。
 ようは、振り向いた時オレとフィアーナのスッポンポン(1部修整)を見てしまいこうなったと思う。
 見えちゃいけない所はマスクされるとは思うが、免疫ないとこうなるよな。もちろんオレも免疫はない。
 ただこの事はフィアーナには黙っておこう。その手に持ってる戦槌メイスが怖い。

「どうしたんですか?その人」
「さぁ、どうしたんだろうな」

 バレた時は諦めよう。ナカジー頑張れ!
 
 
 
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