のろい盾戦士とのろわれ剣士

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9.呪いアイテムの解析と結果

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 どうにかこうにか回復したナカジィは眼鏡アイテムを外してこちらを見やる。顔赤くすんな!バレんだろ!
 仕方ないので誤魔化すようにお茶と茶菓子クッキーを出して落ち着かせることにする。
 フィアーナは直ぐ様席に着きお茶と茶菓子を食べだす。さっきパン食ったばっかでまだ食うんかこいつ………。

 それにつられてナカジィもお茶を飲み茶菓子をつまみ出す。
 このマイルームもオレのマイルームと同じ間取りで、こっちは手前に低めのテーブルと小振りな椅子が4脚、向こうにはゴツくてデカイ執務机と豪華な革製の椅子。お前は社長さんかと言いたくなる。
 そして壁3面全てに様々なアイテムが棚に置かれ並べられている。
 自分で収集したもの。頼んで持ってきて貰ったもの。鑑定を頼まれたもの。ナカジィが分り易いように分類されてるらしい。オレにはごちゃごちゃしててよく分からんけどな。


 そう、ナカジィ―――ナカジマ3世は鑑定スキル持ちのPCでこれだけ極上げしたプレイヤーだ。
 鑑定スキルはカンストしてて、1部PCには“神の目”とかあだ名されている。神の目………ぷぷぷ。
 お茶をズズーッ、茶菓子をサクサクつまみ落ち着いた頃、ナカジィに話し掛ける。

「で、どうよ。結果は」

 オレの言葉にナカジィは眉を顰め苦々しく応える。

奴等アナライザスもクズだが、このゲームの開発者も下種いと思ったわ、実際」

 うおっ、運営ディスるのは不味くね?いや、今さらか。
 クソ、鬼畜、死んでしまえとか散々言われてるしな。下種が加わったところで何の痛痒も感じねーだろう。
 それでもオレ達がこのゲームをやめらんねーのは業が深いとしかいーようねぇな、まったく。

 ナカジィはホロウィンドウを出して分類カテゴライズされたアイテム群を表示させる。
 そのほとんどが呪いを孕んだ武器、アクセサリーの類だ。
 流れるスクロールするそれを見れば見るほど何とも言い様の無い怒りとも覚束ぬものが湧いてくる。

 要望と需要があれば開発するのは開発会社の性ではあるけど、これはなぁと思ってしまう。
 あっても手にしなきゃいーだろうと言うかもしれないが、人は好奇心と誘惑に弱い生き物だ。
 あれば、つい使ったりやったりしてしまうものだとオレは思ってる。
 ゲームだからゲームゆえにとか言えばキリが無いとは理解はする。
 が、納得は出来かねない。オレとしてはそんな気分だ。

 検証だからとどんな物か調べたい。だからと言って何も知らないPCにかたり欺き偽って調べようって根性が気にくわねぇし、やっちゃいけない事だとオレは思う。
 モニター越しじゃない、身体を使ったゲームものってのはそういう事なのだ。

 他人に自分の思考を押し付ける事は出来ないし、それをやっちゃいけないしな。
 ガキが何甘ぇてこと言ってんだとか知り合いには言われそうだが、要はこれがオレのスタンスみたいなものだ。誰かに言うつもりも押し付けるつもりもない。

「おっと、んじゃ先に報酬渡しとくわ」

 オレは堂々巡りになりそうな思考を切り替えて、メニューを出して報酬となっているぶつを渡すことにする。
 つってもヘイルではなく、オレの作ったおにぎり各種20コづつをトレードでナカジィへ送る。
 受け取ったナカジィはさっそくそれを1つを出してひと口ガブリ。

「ん~、これこれ。サンQなピロ~。相変わらずいい味してるわ~」

 肉巻きおにぎりをはぐはぐ齧りながら、ナカジィがそう言ってくる。
 鑑定して貰うのにオレが作った料理が代金なら安いもんだ。まぁ、いつもの事だが。

 うちのギルメンに調べ物や何かを頼む時の報酬は何故かオレの料理になっている。

「ピロさん!あれ売って下さいっ!!」

 ナカジィが食ってる様子をガン見していたフィアーナがオレに顔を近付けてそう言って来る。
 小金持ちだからか、何気に買う気満々だ。だが、今は先にこっちの用を済ませる必要がある。
 俺は溜め息を吐きつつ答えを返す。

「後でな。先に用事を済ませてからだ」
「え~~~~~~~~っ!?」

 不満気に頬を膨らませるフィアーナをスルーして、今度こそナカジィに話を聞くことにする。

「で?」

 名残惜しそうに肉の脂を舐めとってお茶を啜るナカジィに話を促す。

「ああ、奴等の持ってたアイテム類を調べて分かったのは、呪いの種類と属性、それにLvがあるってことだな」

 もちろんこのゲームにもあるRPGでお馴染みの火水土風闇光の属性の事だ。
 属性によってそれぞれ相克があり相生がある。要はじゃんけん、もしくは三竦みだ。
 魔法なんかを使う時なんかは、この属性が元になるわけだ。
 火〉風〉土〉水〉火。そして光と闇が互いに相反するものといったところか。  

 オレはナカジィに更に詳しく話を聞くことにする。

「呪いの種類と属性ってどんなのがあるんだ?」
「うん、こっちは呪詛アイテム―――祝福の反対な、って呼んでるんだが、基本ベースは7大罪で、嫉妬、強欲、傲慢、怠惰、暴食、色欲、憤怒の7つに火、水、風、土の属性が織り込まれてれるって訳だ」

 フィアーナの剣も確か嫉妬とか記されてたっけな。

「んで、大罪にはその属性に闇属性が架かってるんだな、これが」
「闇属性とのハイブリットって事か?」
「んにゃ、どっちかって言うと、闇グループの一員の火って感じか」

 ん?なら闇年火組って感じか?言っててなんだが。

「そんでLvについて視た限りじゃ1~7まであって、数字が上がるごとに呪いの度合いも酷くなるみたいだ」

 フィアーナが詰まらなさそうに目を閉じ頬杖をついている。自分の事なんだから聞いてた方が良かろうと思うんだが………。

「んで?」

 ナカジィにLvによってどれだけ作用があるのか話を促がす。

「うん、1~3がステの低下ぐらい。4、5が状態異常と装備解除不可。6、7が周囲に災いってか影響を及ばすってとこだな」

 これを聞いただけで何とも嫌な気分になってくる。ってかそれを付けさせよう―――ーさせた奴等の神経が理解出来んわ実際。
 あいつ等もっとぶっ飛ばしときゃ良かった。

「そんじゃ呪いを解く方法なんて分かったりしたん?」
「ん~おそらくとしか言えんけど………。やっぱ相克とかが関係してんじゃねぇかなと思う」

 相克かぁ………ってことは水の装備アイテム着ければ或いはってことなんかなぁ。
 でもそんな簡単な話じゃねぇと思うし、やっぱ呪術師カースシャーマン探しを優先するしかないな。

 ん?大罪があるってことは、逆にその反対のヤツがあるってことか?
 考えに耽っていたオレを見て、頷きながらナカジィが続きを話してくる。

「ピロが考えてるように大罪の反対、即ち美徳関係のモンがあるんじゃないかと思ってる。ただ今迄見たことねぇんだよな、さすがの僕も」

 ナカジィでさえも見たことないアイテムか………。なんか先は長そうだな。

「そっか、サンQなナカジィ。でー、そのアイテムどうすっかなんだけど………ナカジィ預かってくんね?何やってもOKってことで」

 オレがそう提案するとナカジィはニヤけそうになる顔を抑えながら確認してくる。

「いいんか?僕も下手打ちたくないから、特に何するでもないからいーけどさ」
「いいぜ。ただ売ってもいーけど装備解除不可のヤツは辞めてくれっと有り難いな。犠牲者が出るのはあんま気分いくねぇしよ」

 オレがフィアーナを見てそう言うと、ナカジィも頷いて了承してくる。つか寝てね?フィアーナこいつ

「分かってるよ。調べさせては貰うけど、売ったりはしないから安心してくれや」
「おう、頼むな。おい、フィアーナ起きろよ」

 はじめの方はナカジィに、後半はフィアーナに肩を揺らして話しかける。

「んあ?眠ってなんて無いですよ、はい」

 寝ぼけながらそんな事を言ってくる。何だかなー。ナカジィはそれを見て鼻の下を伸ばしている。へぇ、こーいうのが趣味なんかな、ナカジィ。

 オレがナカジィをニヤニヤ見てると気付いたナカジィが、ごほんと咳払いをして話をまとめてくる。

「僕ももうちょっと調べてみるよ。フィアーナさんの事もあるし、ちょっと興味出て来たからね」

 ナカジィはそう言ってまた鑑定をする為スケスケスケルトングラスを掛ける。おっといけねぇ、それじゃお暇しますか。

「おーい、フィアーナ行くぞぉ―」
「は、はい。寝てませんよ。はい」

 フィアーナを揺り起こして部屋を出ようとすると、フィアーナがナカジィの前に向かって礼を言おうとしたのを手を引っ張って阻止する。

「何するんですか?ピロさん。あたしお礼を言おうと思ったん出すけど………」
鑑定しごとに差し支えるから、さっさと行くぞ。礼はオレがフィアーナが寝てる間に言っといたから」
「え?寝てないですよ、あたし。寝てないですよっ!?」

 空いてる手をブンブン横に振って否定する。何で疑問系なのか。
 あのままナカジィの前に立ってたら鼻血ブー間違いなしだからな。

 オレ達はギルメンに軽く挨拶を交わしながらホームを出て街道を東へ向けて歩き出す。

「で、どこ行くんですか?ピロさん」
「ああ、取り敢えずフィアーナの訓練も兼ねてダンジョンに潜ろうと思う」

 2人並び歩きながらオレはフィアーナにこれからの事を説明する。

呪術師カースシャーマンが現れるって言われてるリミタイズダンジョンだ」
「りみ……ダンジョ?」

 フィアーナはオレの言葉に歩きながら首を傾げる。………それも知らねぇのか……こいつ。
 オレは溜め息を吐きつつ、フィアーナに説明を始める。
 
 
 
 ◇ ◆ ◇ ◆

 
 
 壁一面が全面ガラス窓で覆われたウォールウィンドウの向こう側には、紅く大きな夕日がゆるゆると沈む光景が見える。
 室内の照明を落としデッキチェアに腰を下ろしその風景を、見下ろす様に妙齢の女性がシャンパングラスを掲げ眺めている。透明な琥珀の液体に幾筋の泡が立ち上る。
 
 その後方に人の身長程の大きなホロウィンドウが現れる。
 そこにはいわゆるメイド―――ーいや侍女と呼ばれるもの。年の頃は20歳前後、裾の長い紺のスカートに白地の前合わせ。頭にプリムと呼ばれる髪飾りを身にまとった銀髪のショートヘアーの女性が映しだされていた。

「首尾は如何か」
『全て問題なく』

 侍女の言葉に赤黒く彩られた唇が釣り上がり妖艶な笑みを浮かべ上げる。

「現実でもVRかそうでも心安まる地が無くば、心は痩せ衰えるであろうよ。くくく」

 VRゲーム内はともかく、現実世界においてその企ては潰えているのであるが、不興を買うのを恐れ侍女は軽く首を動かすのみに留める。

「あのような輩が妾の妹などとかたられるのは業腹よ。しかもちちに目をかけて戴けるなど、あってはならぬことじゃ。せいぜい苦しむがよい。くくく、あっはははははっっ」

 くぃと煽るようにグラスの中の物を流し込む。

『では次の報告まで失礼いたします』
「うむ、くれぐれも気取られぬようにな」
『………畏まりました。ファリィナシア様』

 そして等身大のホロウィンドウが消えていった。

「せいぜい足掻くがよいわ。フィネスメリアーナよ。もうここに其方の居場所な無いのだから。くっくっくっく」
 
 
 
 
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