眠り姫の夢

カランコロン

文字の大きさ
上 下
2 / 4

3年後:1

しおりを挟む
私立の寧廉高校は偏差値60を超える県内でも有名な進学校だ。

だが実は、そこに通う生徒は頭の良い生徒ばかりではなく、親のコネを使って入学した生徒も数人混ざっている。

そんなとんでも学校に学力で合格した者の中に赤木(あかぎ)夏季(なつき)はいた。

入学して一週間は経つが、は誰とつるむでも無く、教室の隅でガラス越しに空を眺めていた。ここ数日この地域は春の嵐が訪れ、外では打ち付けるような雨が昼からずっと降り続いている。

それを見ているとだんだん億劫な気分になり、高行の口からは自然とため息が漏れた。


「おい、どうしたよ」


「⁉」


気が付くと唯一の友人の石谷(いしたに)裕(ゆう)がいつの間にか横に立ち、夏季の顔を覗き込んでいた。

そして、夏季が驚いて椅子から落ちそうになると裕は笑いながら夏季の腕を引いて助けた。


「いきなり出てくるなよ!」


夏季が裕を睨んで叫ぶと裕はなおさら笑って言った。


「いやー、珍しく放課後になってもいるからどうしたのかと思ってな、今日は探しに行かないのか?」


「こんなどしゃ降りの中を長時間自転車で走り回るとどうなる?」


「・・・事故るか、明日風邪ひいて欠席かのどっちかだな」


「そう、つまり今日動いても良い事無し!」


「へー、ちゃんと自分のことも考えてんだなぁ、えらいえらい」


――こいつは俺をなんだと・・・


内心少々腹を立てつつも夏季は聞こえないふりをする。

裕の言う通り夏季は毎日放課後に捜している人物がいる。

しかし、夏季が捜している人物は、名前と外見そして何処かの病院に入院しているという情報しか無いのだ。(しかも都道府県も不明)

そのため、夏季は高校に入ってからというもの、毎日放課後になるとすぐ学校を抜け出し、あちこちの病院でその人物を探している。

 そのせいで、勉強時間まで削っているため、夏季の小テストの結果はあまり芳しくない。

それでも夏季は彼女を探し出すと決めていた。

すべては彼女との約束のために。

「まぁ、そんな夏季に一つ朗報をやろう、喜べ」


「は?」


 すると裕はニッと、意味深な笑いを浮かべた。


「お前の探してる子の名前が親父の病院のカルテに有った」


「本当か!」


夏季は先程までの不機嫌を忘れて裕の話に飛び付いた。


「ああ、ここから走れば10分もかからない所に有る総合病院だ・・・・っておい!」


 夏季が荷物を持って席を立つのを見て、裕が慌てて止めた。


「なんだよ・・・・」


「なんだよ、じゃねーし、チャリどうすんだよ」


「置いてく」


 即答だった。


「・・・わかったわかった、行ってこい。チャリは俺がお前のアパートに届けとくから」


呆れと苦笑が入り混じった表情で裕が答えるのを見て夏季は「悪い、助かる」と返すと急いで教室を出た。
しおりを挟む

処理中です...