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ドクター陰陽師による診察は
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ここは、とある大病院の一角にある診察室。
病院の入口から奥まった目立たない所にあり、周りからは密かに東洋医学陰陽科と呼ばれている。
誰でも受診が出来る訳ではなくて、ここの病院の他の医師の然るべき紹介状がある患者しか受け付けていない。
陰陽科の医師は一人だけで、看護師も一人だけ。
みんなはここの科の医師のことを、『ドクター陰陽師』と呼んでいる。
今日もゆったりとした時間が流れる診察室。
ほとんど患者も来ないので、普段はドクターも看護師ものんびりと過ごしている。
その穏やかな空気を蹴散らすように、足音が響いてきた。
ドクター陰陽師と看護師は顔を合わせて頷くと、看護師の方は診察室から出て受付の方に急いだ。
しばらくして、看護師が戻ってきてカルテと紹介状を差し出した。
受け取ったドクターは軽く目を通した。
「Aさん、どうぞ!」
診察室にAさんという患者が俯きながら入ってきた。
とても青白い顔をしている。
「どうされましたか?」
ドクター陰陽師の問診にAさんはポツリポツリと答えていく。
「…うん…うん…、うん…どこの科のセンセーに診てもらってもダメ?うーむ、症状は…」
ドクターの目も声も安心させるように柔らかい。
患者には気づかれにくいが、たまにキラリと鋭い眼差しも向けている。
「体が怠いんです…たまに視界に黒い影も見えたりして怖いんです」
そう答えて、Aさんはぶるりっと震えた。
「あー、ネガティブになってくる、のね…体質もあるからね…、ちょっと失礼…見える鏡で視るからね」
ドクターは、胸ポケットから聴診器のような道具を取り出した。
普通の聴診器とは違って先端が虫眼鏡のような形状をしている。
「見え~る、見え~る…」
呪文のように唱えながら…ドクターの目が鋭くなる。
「…最近…自殺の名所に行きましたか?もしくは…事故現場に遭遇しませんでしたか?」
Aさんは驚いた顔をして、そういえば…と話し出した。
「数週間前に事故現場に鉢合わせたんです…」
「あー…やはり…ね」
ドクターは見える鏡に目を向けたままAさんに話しかけていく。
「あなたがね…優しそうだったから、憑いてきちゃったのだそうですよ。
ご一緒に逝ってくださいって、ご希望だそうで…誘われておりますよ…このままだと…あなたも…、どうしたいですか?」
「!!」
Aさんは、とんでもない、と首を振った。
「あー、見ず知らずの方なの?」
ドクターは独り言のように呟いた。
「……」
事の成り行きを見ていたAさんは言葉が出てこない。
「…あ、そう…」
ドクターは、ひとしきり頷いた後に、
「とりあえず…処方箋出しときますね…」
と、Aさんに向き直った。
そして、机の上の小さな引き出しから、粉と液体の入った容器を取り出すと、
「こちらの特別な清め塩と清め酒…お風呂に入れて入浴してね…数回…気分が上向いてきたら、もういいかな」
Aさんはそれらを受け取ると、立ち上がりぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございました」
心なしか、表情が柔らかくなっている。
「お帰りは、あちら…お大事に…」
Aさんを見送るとドクターは、カルテに記入して看護師を呼んで手渡した。
「今日は快晴ですからね、上に行くにはいい日和ですよ…」
ドクターは、一人、窓辺で空を見上げながら呟いた。
病院の入口から奥まった目立たない所にあり、周りからは密かに東洋医学陰陽科と呼ばれている。
誰でも受診が出来る訳ではなくて、ここの病院の他の医師の然るべき紹介状がある患者しか受け付けていない。
陰陽科の医師は一人だけで、看護師も一人だけ。
みんなはここの科の医師のことを、『ドクター陰陽師』と呼んでいる。
今日もゆったりとした時間が流れる診察室。
ほとんど患者も来ないので、普段はドクターも看護師ものんびりと過ごしている。
その穏やかな空気を蹴散らすように、足音が響いてきた。
ドクター陰陽師と看護師は顔を合わせて頷くと、看護師の方は診察室から出て受付の方に急いだ。
しばらくして、看護師が戻ってきてカルテと紹介状を差し出した。
受け取ったドクターは軽く目を通した。
「Aさん、どうぞ!」
診察室にAさんという患者が俯きながら入ってきた。
とても青白い顔をしている。
「どうされましたか?」
ドクター陰陽師の問診にAさんはポツリポツリと答えていく。
「…うん…うん…、うん…どこの科のセンセーに診てもらってもダメ?うーむ、症状は…」
ドクターの目も声も安心させるように柔らかい。
患者には気づかれにくいが、たまにキラリと鋭い眼差しも向けている。
「体が怠いんです…たまに視界に黒い影も見えたりして怖いんです」
そう答えて、Aさんはぶるりっと震えた。
「あー、ネガティブになってくる、のね…体質もあるからね…、ちょっと失礼…見える鏡で視るからね」
ドクターは、胸ポケットから聴診器のような道具を取り出した。
普通の聴診器とは違って先端が虫眼鏡のような形状をしている。
「見え~る、見え~る…」
呪文のように唱えながら…ドクターの目が鋭くなる。
「…最近…自殺の名所に行きましたか?もしくは…事故現場に遭遇しませんでしたか?」
Aさんは驚いた顔をして、そういえば…と話し出した。
「数週間前に事故現場に鉢合わせたんです…」
「あー…やはり…ね」
ドクターは見える鏡に目を向けたままAさんに話しかけていく。
「あなたがね…優しそうだったから、憑いてきちゃったのだそうですよ。
ご一緒に逝ってくださいって、ご希望だそうで…誘われておりますよ…このままだと…あなたも…、どうしたいですか?」
「!!」
Aさんは、とんでもない、と首を振った。
「あー、見ず知らずの方なの?」
ドクターは独り言のように呟いた。
「……」
事の成り行きを見ていたAさんは言葉が出てこない。
「…あ、そう…」
ドクターは、ひとしきり頷いた後に、
「とりあえず…処方箋出しときますね…」
と、Aさんに向き直った。
そして、机の上の小さな引き出しから、粉と液体の入った容器を取り出すと、
「こちらの特別な清め塩と清め酒…お風呂に入れて入浴してね…数回…気分が上向いてきたら、もういいかな」
Aさんはそれらを受け取ると、立ち上がりぺこりと頭を下げた。
「ありがとうございました」
心なしか、表情が柔らかくなっている。
「お帰りは、あちら…お大事に…」
Aさんを見送るとドクターは、カルテに記入して看護師を呼んで手渡した。
「今日は快晴ですからね、上に行くにはいい日和ですよ…」
ドクターは、一人、窓辺で空を見上げながら呟いた。
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