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できちゃった患者さん
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ここは、東洋医学陰陽科 。
とある大病院の診察室。
今日は朝から慌ただしく患者が診察に来ていた。
「せんせー、助けてくださいー」
ドクターは紹介状に目を通してから、患者であるCさんに向き直った。
「あー、Cさんですね、皮膚科のN先生から聞いてますよー! なんでも、目の上にとんでもない腫れ物ができちゃったとか…」
Cさんは泣き笑いをしているような表情をして、何度も頷いた。
「そーなんですよー、取っても取ってもまたできちゃって、N先生のとこじゃこれがいっぱいいっぱいですって…」
ドクターは頷くと、ちょっと見せてくださいねと、Cさんの目の上のガーゼを取り除いた。
「どれどれ…、なんと! ご立派なデキモノですねー!!」
「しかも、音までするんですよ…ぶしゅーって、人のくしゃみみたいな…」
相変わらず泣き笑いの表情のままCさんは答える。
ぶしゅー…
ドクターは目を見開いて驚いてしまった。
「ホントだ、人の顔みたいで、くしゃみみたいですね…」
Cさんは肩をすくめると、
「ね? 気持ち悪いでしょ? 実はこれが原因で、知人にも友人にも避けられて、家内にまで逃げられてしまいましてね…お恥ずかしい限りで…ははは…」
と、寂しそうに笑った。
そんなCさんの様子に、ドクターは痛ましそうに目を細めた。
「お辛かったでしょう、ね…」
「いや~、怪我の功名っていうんでしょうかね…いろんな人の本性が見えましたよ…」
健気にもへこたれないというCさんの芯の強さを感じて、ドクターは微笑んで、腫れ物を取り除くための道具を手に取った。
「少し痛いですが、我慢できますか?」
手際よく準備を進めるドクターに、
「このくらい大丈夫ですよ!」
と、笑ってみせる。
「…治療します…」
ドクターは小さく呪文のような言葉を唱えた。
「いてっ」
あっという間に腫れ物を取り除いて、ふーっと小さく息を吐く。
最後に絆創膏を患部に貼っていく。
「はい、終わり!化膿しないよう処置しておきます、が、血が止まれば絆創膏を剥がしてもオッケーですよ。とれた、おでき、見てみますか?」
「あ、はい…? …!」
銀のトレイに載せられた腫れ物を差し出すと、Cさんは息を飲むような素振りを見せていた。
おできは取り出したにも関わらず、ぶしゅーっと音を出している。
「何かに見えましたか?」
その場で顔を引きつらせて固まっているCさんに向かって、ドクターが問いかける。
Cさんは、すぐに元の和らいだ表情に戻ると席を立った。
「い、いえ、ありがとうございました」
「はい、会計はあちら!」
ドクターは、にこやかに見送るとペンを取った。
カルテに書き込み終わった頃、看護師がカルテを受け取りに診察室に入って来た。
「せんせ?」
ドクターは不思議な表情を浮かべて、銀のトレイを見つめている。
「うん…この、おでき、何に見えますか?」
看護師が覗き込むと、おできはぶしゅーっと音を立てて小さくなった。
「…失礼ながら、花粉症の奥様だったのでしょうか?」
看護師は首を傾げた。
トレイの上のおできは、もう、うんともすんとも言わなくなった。
Cさんが再び受診しに来ることも無かった。
とある大病院の診察室。
今日は朝から慌ただしく患者が診察に来ていた。
「せんせー、助けてくださいー」
ドクターは紹介状に目を通してから、患者であるCさんに向き直った。
「あー、Cさんですね、皮膚科のN先生から聞いてますよー! なんでも、目の上にとんでもない腫れ物ができちゃったとか…」
Cさんは泣き笑いをしているような表情をして、何度も頷いた。
「そーなんですよー、取っても取ってもまたできちゃって、N先生のとこじゃこれがいっぱいいっぱいですって…」
ドクターは頷くと、ちょっと見せてくださいねと、Cさんの目の上のガーゼを取り除いた。
「どれどれ…、なんと! ご立派なデキモノですねー!!」
「しかも、音までするんですよ…ぶしゅーって、人のくしゃみみたいな…」
相変わらず泣き笑いの表情のままCさんは答える。
ぶしゅー…
ドクターは目を見開いて驚いてしまった。
「ホントだ、人の顔みたいで、くしゃみみたいですね…」
Cさんは肩をすくめると、
「ね? 気持ち悪いでしょ? 実はこれが原因で、知人にも友人にも避けられて、家内にまで逃げられてしまいましてね…お恥ずかしい限りで…ははは…」
と、寂しそうに笑った。
そんなCさんの様子に、ドクターは痛ましそうに目を細めた。
「お辛かったでしょう、ね…」
「いや~、怪我の功名っていうんでしょうかね…いろんな人の本性が見えましたよ…」
健気にもへこたれないというCさんの芯の強さを感じて、ドクターは微笑んで、腫れ物を取り除くための道具を手に取った。
「少し痛いですが、我慢できますか?」
手際よく準備を進めるドクターに、
「このくらい大丈夫ですよ!」
と、笑ってみせる。
「…治療します…」
ドクターは小さく呪文のような言葉を唱えた。
「いてっ」
あっという間に腫れ物を取り除いて、ふーっと小さく息を吐く。
最後に絆創膏を患部に貼っていく。
「はい、終わり!化膿しないよう処置しておきます、が、血が止まれば絆創膏を剥がしてもオッケーですよ。とれた、おでき、見てみますか?」
「あ、はい…? …!」
銀のトレイに載せられた腫れ物を差し出すと、Cさんは息を飲むような素振りを見せていた。
おできは取り出したにも関わらず、ぶしゅーっと音を出している。
「何かに見えましたか?」
その場で顔を引きつらせて固まっているCさんに向かって、ドクターが問いかける。
Cさんは、すぐに元の和らいだ表情に戻ると席を立った。
「い、いえ、ありがとうございました」
「はい、会計はあちら!」
ドクターは、にこやかに見送るとペンを取った。
カルテに書き込み終わった頃、看護師がカルテを受け取りに診察室に入って来た。
「せんせ?」
ドクターは不思議な表情を浮かべて、銀のトレイを見つめている。
「うん…この、おでき、何に見えますか?」
看護師が覗き込むと、おできはぶしゅーっと音を立てて小さくなった。
「…失礼ながら、花粉症の奥様だったのでしょうか?」
看護師は首を傾げた。
トレイの上のおできは、もう、うんともすんとも言わなくなった。
Cさんが再び受診しに来ることも無かった。
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