7 / 8
結婚式と初夜
しおりを挟む
結婚式の準備もあるのだが、同時に帝国の民への治療も行う必要があった。
午前中はメイド長や執事長と共に、結婚式の準備。
午後からは神殿へと赴いて、苦しむ人々に治癒魔法を施す。
そんな日々を送っていると、帝国中から絶賛された。
治癒魔法は大神官様を超える素晴らしいものであり、大変美しい第二皇子の伴侶様。
元々は、帝国を裏切ったノクターン王国の第三王子だが第二皇子により見初められたことにより、
敵国王子だということはもう誰からも言及されることがなくなった。
帝国に来た当初は、王城外にいるメイドや騎士から悪意の視線を受けていたことはあった。
それでも、第二皇子の真っ直ぐな人柄や僕自身の献身さから、その視線も鳴りを潜めた。
帝国の人々の治療がひと段落し、もうまもなく結婚式が行われる。
前夜には、メイド三姉妹から身体中を磨かれて、恥ずかしいやら嬉しいやら色々な感情が沸き上がって疲れてしまった。
夜着に着替えて、ベッドに寝転ぶ。
「つ、つかれた……結婚式って、こんなに疲れるんだ……」
「えぇ、その通りでございます。アレクセイ様、お疲れでしたらハーブティーをどうぞ」
優しい香りに身体を起こして、椅子に座るとティーカップを渡された。
暖かく、優しい香りを楽しみながらゆっくりと飲む。
「そのまま寝てしまうと、髪に寝癖がついてしまいますね。失礼致します」
「あ……すごい……三つ編みがあっという間に……!」
「ふふ、このくらいでしたら、レイナード様も出来ますよ。いつかお願いされてみてはいかがでしょう?」
「そうなんですね……お願いしてみます」
前に垂れたひとつだけの三つ編み。
いつか見た病床に伏せた母を思い出す。
あの時の母も同じように、片方だけに髪をまとめて緩く三つ編みをしていたと思う。
懐かしさに浸りながら、ふとレイナード皇子にお願い、と聞いて次会えるのがいつかと思って気が付いた。
「あれ……?レイナード皇子に会えるのって、明日と初夜……?」
「さようでございます」
「あ、明日の髪結いはメイドさんでしたよね……?」
「そうですね」
「……あぁ……しょ、初夜の時に……お願い……できる、かなぁ……」
「あらあら……ではそのように手筈を整えておきますね」
自分で言っていて恥ずかしくなってきた。
エッチするために髪の毛を結んでもらうって、なんだかそれはそれでドキドキしてしまう。
レイナード皇子の裸体は本当にカッコいい男性、という感じ。僕も男なのに、同じ性別なのか疑問を感じてしまうくらいだ。
それに体力だって僕よりも何倍もある。
(抱き潰されるのを、覚悟しておかないといけないよね……)
ひとまず、考えるのはここまでにしておこう。
飲み終わったカップをメイド長に渡すと、僕はベッドに入りぐっすり眠りに落ちていった。
朝が来るのはあっという間だ。
翌朝、外の日差しで目が覚めた。
僕が目覚めると同時に、メイドさんたちが現れて支度を始める。
この帝国では、式典を午前中に執り行うことが通例になっている。
なので花嫁の身支度は、早朝から始まるのだ。慣れないコルセットを付けて、純白のドレスに身を包む。
最後にベールとティアラを付けて、完成だ。
大き目の鏡の前にいるのは、どう見ても美しい女性の花嫁にしか見えない。
大輪のブーケを受け取り、部屋を出て王城内にある教会へと進む。
入り口では皇帝陛下がいらっしゃった。どうやら、僕の両親の代わりになって頂けるらしい。
「では、参ろうか。アレクセイ」
「はい、よろしくお願いいたします。皇帝陛下」
教会の扉が開かれる。
皇帝陛下と共に、バージンロードを進むと目の前には白の騎士団長服を着たレイナード皇子がいる。
いつもカッコいいけれど、今日は特別カッコよく見える。ドキドキしていると、レイナード皇子は控えめに微笑んだ。
「美しい花嫁だ。では、お手をどうぞ」
「はい……皇帝陛下、ありがとうございました」
小さく会釈をすると、ニッコリ笑ってくれた。
その笑い方はレイナード皇子そっくりだ。さすがは親子。
皇子の手を取り、神父様役を引き受けて下さった大神官様の前に進む。
神官様の祝言を受けた後、誓いの口づけをする。
ベールをゆっくりと上げられると、静かに瞳を閉じて優しく触れる唇を感じた。
式典の後は、ガーテンパーティーが開催される。
お色直しとして、レイナード皇子の色であるワインレッドのドレスへと着替えていく。
レイナード皇子も皇子としての正装へと変わり、パーティーは大盛り上がりを見せた。
色々な国からの客人たちは、僕を本当の女性かと勘違いした人が多かったという。
その美しさから、賓客様からお礼状が届いたりしたけど、それはまた後日に出しましょうということになった。
そして、いよいよ結婚初夜。
再びメイドさんたちから身体を磨かれて、香油を塗ってもらった。
薔薇の王と呼ばれるものから抽出した特別なものらしい。
新婚夫婦の部屋、というか実際はレイナード皇子のお部屋なんだけど、そこに向かう。
先にお風呂から上がったらしき姿を見て、またときめいてしまった。
「あ、あの……レイナード皇子……」
「おいで、そこに居たら寒いだろう?」
「え?あ、はい……わぷ」
腕を引かれて、レイナード皇子の胸の中に閉じ込められる。
やっぱり僕はこの人に抱きしめられるのが、すごく好き。
太陽のように暖かく、ほんのり薫る優雅な香り。
初めて会った時もそうだった。彼に包まれる、その時がたまらなく幸せだ。
「アレクセイ、俺のことはなんと呼ぶんだったかな?」
「……ん、レイ……」
「よく出来ました。これからお前を抱いてもいいか?」
「あっ、そ、その前に……僕の髪を結んでほしくて……」
「ん?あぁ、寝る時に緩く結んでいるんだよな。構わないよ、おいで」
ベッドに座り、手際よくレイナード皇子は僕の髪を結んでいく。
本当に手際がよくてとても慣れている。
僕がキラキラした瞳で見ていたせいか、レイナード皇子が苦笑していた。
「俺が結べるのが不思議なのか?」
「ううん、僕は自分で結べないから……レイはすごいなぁ、って」
「このくらいなんともない。また愛し合う時には、いつでも結んでやるからな」
「うん……よろしくね、レイ」
改めてのご挨拶をした後、どちらからでもなくキスをする。
それからベッドに雪崩れ込んで、お互い裸になって愛し合う。
甘く優しい低音の声と、肌を這う大きな手のひら。
僕はその日、レイナード皇子に純潔を捧げることができた。
午前中はメイド長や執事長と共に、結婚式の準備。
午後からは神殿へと赴いて、苦しむ人々に治癒魔法を施す。
そんな日々を送っていると、帝国中から絶賛された。
治癒魔法は大神官様を超える素晴らしいものであり、大変美しい第二皇子の伴侶様。
元々は、帝国を裏切ったノクターン王国の第三王子だが第二皇子により見初められたことにより、
敵国王子だということはもう誰からも言及されることがなくなった。
帝国に来た当初は、王城外にいるメイドや騎士から悪意の視線を受けていたことはあった。
それでも、第二皇子の真っ直ぐな人柄や僕自身の献身さから、その視線も鳴りを潜めた。
帝国の人々の治療がひと段落し、もうまもなく結婚式が行われる。
前夜には、メイド三姉妹から身体中を磨かれて、恥ずかしいやら嬉しいやら色々な感情が沸き上がって疲れてしまった。
夜着に着替えて、ベッドに寝転ぶ。
「つ、つかれた……結婚式って、こんなに疲れるんだ……」
「えぇ、その通りでございます。アレクセイ様、お疲れでしたらハーブティーをどうぞ」
優しい香りに身体を起こして、椅子に座るとティーカップを渡された。
暖かく、優しい香りを楽しみながらゆっくりと飲む。
「そのまま寝てしまうと、髪に寝癖がついてしまいますね。失礼致します」
「あ……すごい……三つ編みがあっという間に……!」
「ふふ、このくらいでしたら、レイナード様も出来ますよ。いつかお願いされてみてはいかがでしょう?」
「そうなんですね……お願いしてみます」
前に垂れたひとつだけの三つ編み。
いつか見た病床に伏せた母を思い出す。
あの時の母も同じように、片方だけに髪をまとめて緩く三つ編みをしていたと思う。
懐かしさに浸りながら、ふとレイナード皇子にお願い、と聞いて次会えるのがいつかと思って気が付いた。
「あれ……?レイナード皇子に会えるのって、明日と初夜……?」
「さようでございます」
「あ、明日の髪結いはメイドさんでしたよね……?」
「そうですね」
「……あぁ……しょ、初夜の時に……お願い……できる、かなぁ……」
「あらあら……ではそのように手筈を整えておきますね」
自分で言っていて恥ずかしくなってきた。
エッチするために髪の毛を結んでもらうって、なんだかそれはそれでドキドキしてしまう。
レイナード皇子の裸体は本当にカッコいい男性、という感じ。僕も男なのに、同じ性別なのか疑問を感じてしまうくらいだ。
それに体力だって僕よりも何倍もある。
(抱き潰されるのを、覚悟しておかないといけないよね……)
ひとまず、考えるのはここまでにしておこう。
飲み終わったカップをメイド長に渡すと、僕はベッドに入りぐっすり眠りに落ちていった。
朝が来るのはあっという間だ。
翌朝、外の日差しで目が覚めた。
僕が目覚めると同時に、メイドさんたちが現れて支度を始める。
この帝国では、式典を午前中に執り行うことが通例になっている。
なので花嫁の身支度は、早朝から始まるのだ。慣れないコルセットを付けて、純白のドレスに身を包む。
最後にベールとティアラを付けて、完成だ。
大き目の鏡の前にいるのは、どう見ても美しい女性の花嫁にしか見えない。
大輪のブーケを受け取り、部屋を出て王城内にある教会へと進む。
入り口では皇帝陛下がいらっしゃった。どうやら、僕の両親の代わりになって頂けるらしい。
「では、参ろうか。アレクセイ」
「はい、よろしくお願いいたします。皇帝陛下」
教会の扉が開かれる。
皇帝陛下と共に、バージンロードを進むと目の前には白の騎士団長服を着たレイナード皇子がいる。
いつもカッコいいけれど、今日は特別カッコよく見える。ドキドキしていると、レイナード皇子は控えめに微笑んだ。
「美しい花嫁だ。では、お手をどうぞ」
「はい……皇帝陛下、ありがとうございました」
小さく会釈をすると、ニッコリ笑ってくれた。
その笑い方はレイナード皇子そっくりだ。さすがは親子。
皇子の手を取り、神父様役を引き受けて下さった大神官様の前に進む。
神官様の祝言を受けた後、誓いの口づけをする。
ベールをゆっくりと上げられると、静かに瞳を閉じて優しく触れる唇を感じた。
式典の後は、ガーテンパーティーが開催される。
お色直しとして、レイナード皇子の色であるワインレッドのドレスへと着替えていく。
レイナード皇子も皇子としての正装へと変わり、パーティーは大盛り上がりを見せた。
色々な国からの客人たちは、僕を本当の女性かと勘違いした人が多かったという。
その美しさから、賓客様からお礼状が届いたりしたけど、それはまた後日に出しましょうということになった。
そして、いよいよ結婚初夜。
再びメイドさんたちから身体を磨かれて、香油を塗ってもらった。
薔薇の王と呼ばれるものから抽出した特別なものらしい。
新婚夫婦の部屋、というか実際はレイナード皇子のお部屋なんだけど、そこに向かう。
先にお風呂から上がったらしき姿を見て、またときめいてしまった。
「あ、あの……レイナード皇子……」
「おいで、そこに居たら寒いだろう?」
「え?あ、はい……わぷ」
腕を引かれて、レイナード皇子の胸の中に閉じ込められる。
やっぱり僕はこの人に抱きしめられるのが、すごく好き。
太陽のように暖かく、ほんのり薫る優雅な香り。
初めて会った時もそうだった。彼に包まれる、その時がたまらなく幸せだ。
「アレクセイ、俺のことはなんと呼ぶんだったかな?」
「……ん、レイ……」
「よく出来ました。これからお前を抱いてもいいか?」
「あっ、そ、その前に……僕の髪を結んでほしくて……」
「ん?あぁ、寝る時に緩く結んでいるんだよな。構わないよ、おいで」
ベッドに座り、手際よくレイナード皇子は僕の髪を結んでいく。
本当に手際がよくてとても慣れている。
僕がキラキラした瞳で見ていたせいか、レイナード皇子が苦笑していた。
「俺が結べるのが不思議なのか?」
「ううん、僕は自分で結べないから……レイはすごいなぁ、って」
「このくらいなんともない。また愛し合う時には、いつでも結んでやるからな」
「うん……よろしくね、レイ」
改めてのご挨拶をした後、どちらからでもなくキスをする。
それからベッドに雪崩れ込んで、お互い裸になって愛し合う。
甘く優しい低音の声と、肌を這う大きな手のひら。
僕はその日、レイナード皇子に純潔を捧げることができた。
602
あなたにおすすめの小説
娼館で死んだΩですが、竜帝の溺愛皇妃やってます
めがねあざらし
BL
死に場所は、薄暗い娼館の片隅だった。奪われ、弄ばれ、捨てられた運命の果て。けれど目覚めたのは、まだ“すべてが起きる前”の過去だった。
王国の檻に囚われながらも、静かに抗い続けた日々。その中で出会った“彼”が、冷え切った運命に、初めて温もりを灯す。
運命を塗り替えるために歩み始めた、険しくも孤独な道の先。そこで待っていたのは、金の瞳を持つ竜帝——
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
溺愛、独占、そしてトラヴィスの宮廷に渦巻く陰謀と政敵たち。死に戻ったΩは、今度こそ自分自身を救うため、皇妃として“未来”を手繰り寄せる。
愛され、試され、それでも生き抜くために——第二章、ここに開幕。
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される
田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた!
なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。
婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?!
従者×悪役令息
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
偽物勇者は愛を乞う
きっせつ
BL
ある日。異世界から本物の勇者が召喚された。
六年間、左目を失いながらも勇者として戦い続けたニルは偽物の烙印を押され、勇者パーティから追い出されてしまう。
偽物勇者として逃げるように人里離れた森の奥の小屋で隠遁生活をし始めたニル。悲嘆に暮れる…事はなく、勇者の重圧から解放された彼は没落人生を楽しもうとして居た矢先、何故か勇者パーティとして今も戦っている筈の騎士が彼の前に現れて……。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる