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第一章 森林
第二話 盗賊
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薄暗い所には苔が生え、僅かに地面が露出しているような、本当に深い森の中。弥生は轍《わだち》を見つけた。複数あるということは、大規模なグループなのだろうか。
(でも、現代の車とはちょっと違うなぁ)
そう思いながら、弥生は轍を追っていった。
弥生は運動神経がとても良い。現代の都会で育ったとは思えないほどの、野性的な移動に長けていた。
彼女は木々の上を走るようにして移動する。まるで彼女のホームグラウンドであるように、蔦を伝い、木々を駆け抜けていく様はジャングルに住まう猿を想起させる。
駆け抜ける森の中で、弥生は疾駆している一台の馬車を見つけた。どうやら、見た感じ何かから逃げいるようだ。そう思いながら、彼らの頭上の上から眺めていると、見るからに柄の悪そうな輩が場所を馬を走らせていた。
声をかけるのがベストだろうか。いや、ここは見なかったことにして逃げるべきだろうか。
弥生は悩みつつも前者を取った。
それが彼女の運命を変えることになるとは、まだ知る由もなかった。
「やっ!」
可愛らしい声と共に落ちた弥生は敵の頭上に見事着地した。
「がはっ!?」
驚きの声と共に、一つの盗賊が馬から倒れ落ちた。
弥生はその盗賊の剣を奪い取り、一番前の馬に乗っていた盗賊に投げつけた。
「ぐわぁッ!!!」
テンプレ的な断末魔を上げ、剣が突き刺さった盗賊が落ちる。御者を失った馬は足を止め、周りを探るようにして見ている。
「襲撃かッッ!」
隊長のような男が声を張り上げる。
「ふ、不明です!」
「不明だとッ!! 何人が落とされた!」
「二人です!」
隊長は頭を回して考える。
(落ちつけ、俺! こんな修羅場、経験してきただろう。敵は恐らく一人。強襲したということは、相当な強者。ここは追跡を止めて、迎撃すべき……!)
「全員、馬を止めろ! ここで襲撃者を迎撃するんだ」
盗賊団の団員から了解の声が上がる。
馬が足を止め、全員、抜剣する。
スラリと抜かれた剣は月光を受け、銀色に鈍く光り、如何に剣が鋭利か……剣に詳しくない者にも見てとれる。
だが、弥生は鋭い踏み込みで盗賊を蹴り飛ばした。
「ガッ!?」
流石に一撃では沈まない。
「冷静に、動く……先生も言ってた」
迫りくる敵の攻撃をバックステップで避けながら、要所要所で攻撃を寸断するような回し蹴り。そして、敵の急所への前蹴り。
「武道の使い手だ! 気を付けろ!!!」
隊長の怒号。
弥生は落ち着いて、腰を落とし、迎撃の態勢を取る。
片手に先ほど倒した盗賊の剣。
「ハッ!」
一瞬の踏み込みで、距離を詰め、フェンシングのように鋭い突きで、相手の首元を狙う。
「くっ!」
流石は隊長。弾きにくい突きを見事弾き、一転、攻勢に出る。
彼の振るう太刀筋には確かな修練が見てとれる。弥生は彼の斬撃を払うようにして捌くが、如何せん、ここ数年、剣を触っていなかったことが如実に表れている。対して、彼の剣撃はしっかりと相手を捉え、数秒の攻撃で弥生を大きく後退させた。
「ほう。中々やるようだな。小娘」
落ち着いて来たのか、語りかけるような口調で隊長は弥生に言う。高圧的な態度。弥生へのプレッシャーだろう。
「だが、ここまでだ」
残りの盗賊団が、一斉に跳びかかるようにして攻撃を仕掛けた。
荒れ狂う嵐のような剣撃を、弥生は避ける。避ける。避ける。
だがしかし、流石に数名の同時攻撃は静かに蝕むように、弥生に傷をつけていく。
「もう少し……!」
弥生の狙いは別のところにあった。
恐らく、戦闘が長引けば長引くほど、可能性は高まる。
そう考え、剣を振ろうとした瞬間、後ろから声が聞こえた。
「嬢ちゃん! 大丈夫か」
颯爽と現れたのは、用心棒のような二人の男だった。
「だ、大丈夫です!」
弥生は咄嗟に返事をする。だが、それに気取られ、背後から弥生に向かって斬撃が飛ぶ。
「女の子を多数で成敗しようとするのは感心しないねぇ」
そうやって高身長の男が抜剣。そのまま盗賊へ剣を向けて、言葉を紡ぐ。
「『加速』」
その言葉と共に彼は文字通り加速し、盗賊たちへと斬りかかる!
キンッ! キンッ!
二度の剣撃。だが、惜しくも弾かれる。
弥生はバックステップをして、助けてくれた男の近くへと寄る。
「我は風なり――『韋駄天』ッ!」
簡易的な詠唱が聞こえ、そのあとに遅れてつむじ風が巻き起こる。周囲の空気さえ置き去りにして、男は走りだした。
シュンッ!と一閃。鈍く白銀色に空気が光ったかと思うと、盗賊の男が血をダラダラと流し倒れこむ。
「ひぃっ!」
弥生は流石に見慣れてない攻撃に目を瞑る。そんな弥生の様子を見かねてか、もう一人の男が覆い被さるようにして、視界を遮ってくれた。
「大丈夫だ」
力強く、優しく語りかけれた声は弥生を不思議と安心させた。
――戦いは続く。
高速で移動し斬撃を繰り出す男。その攻撃を防ごうと、剣を構える残党。
男はまたまた高速移動を開始する。まるで見えない敵に、痺れを切らしたのか、出鱈目に剣を振りだす盗賊。ブンブンと勢いよく振られた剣は、惜しくも一撃も掠らせることなく、男は彼の腹を切り裂く。
深紅の血が地面を紅色に染め上げる。
そして、後二人。
さしもの残党も分が悪いことを悟ったのか。二人でコンビネーション技のように息のあった斬撃を繰り出す。袈裟、突き、薙ぎ……バランスの良く二人は技を紡ぐ。
だが、カキンッと見事に弾かれる。
胴ががら空きになった盗賊を、男が見逃すはずなく、綺麗な突きを決めた。
「うぐぅ!」
焼けるような痛みに思わず腹を押さえ倒れこむ盗賊。もう一人の男はガクガクと膝をふるわせている。悪逆非道を尽くしてきた盗賊も怯えているのかわからないが、「ウォオオォオオ」という掛け声と共に突っ込んでくる。
ただ片翼を失っている小鳥に負けるはずが一厘もなく……男は振り払うような横薙ぎで胴を切り裂いた。
これで盗賊は隊長を除き、全滅した。
「チッ! やっぱりお前らの仲間だったか……!」
隊長の男がそう叫ぶ。が、弥生だけは得心が行かない。用心棒風の男たちは二ヤリと笑い、隊長に返す。
「おう。可愛い女の子は皆、仲間だ! 貴様らのような下賤の輩にやらせるわけにはいかない」
(残念なやつ……)
弥生は若干ジト目で、そう言い放った男を見た。彼はドヤ顔をしている。
「ふん。貴様らこそ、下賤の輩だ。女子なら、誰でもいいという辺り、ただの下半身の奴隷ではないか!」
「はぁっ!? ジジイがそれ言えた口か?」
(男って馬鹿ばっかね)
戦闘の中での極度の疲弊感はどんどん呆れへと変わっていく。
「とりあえず、貴様は死ね」
「同感だ。死ねッ!」
用心棒の男と隊長はお互いに剣を構える。
白銀の剣と白銀の剣。両者同時に剣を振るう。それはドンドン加速していき、相手の肩から腰にかけて切り裂く軌道を描いた。隊長の方が僅かに振り遅れたのか、途中で剣の軌道を変え、受けの姿勢を取る。
「ぐぅ」
キンッ! という金属と金属が重なりあう高い音が響く。
男は更に剣を振るう。
縦横無尽に振るわれる剣は自由自在という言葉が相応しい。だが、確実に……まるで重力に引かれるように自然に、敵という一点に収束していく。
普通の平均的な雑兵ならこの時点で終了しているだろう。だがしかし、隊長も同じく修練を積んだ一流の剣士。
全撃を防ぎきった。
呼吸のために一旦、男が攻撃を止め、バックステップで移動する。隊長はそれを見逃さない。
「『狂斬』!」
掛け声と共に斬撃は伸びた――
白い一筋の光のようにして、斬撃は伸びていき、男を追尾するようにして放たれる。
「危ないッ!」
弥生は思わず叫ぶ。
だが、男は案外冷静に対処した。
「『魔壁』ッ!」
薄紫色のそれは、ホログラムのように空中に浮かび、実体化した。まるで金属の壁のように当たった瞬間に、斬撃が弾かれた。
「さて、じゃあ、これで終わりですねぇ」
もう一人の男が斬撃を拡張させる。
「『十字斬』ッ!」
拡張された斬撃は十字を描き出し、敵を斬り刻んだ。
「ふぅ。何とか勝利ですねぇ」
戦っていない方の男が呟いた。
(何でよ!!!)
弥生は心の中で突っ込んだ。
(でも、現代の車とはちょっと違うなぁ)
そう思いながら、弥生は轍を追っていった。
弥生は運動神経がとても良い。現代の都会で育ったとは思えないほどの、野性的な移動に長けていた。
彼女は木々の上を走るようにして移動する。まるで彼女のホームグラウンドであるように、蔦を伝い、木々を駆け抜けていく様はジャングルに住まう猿を想起させる。
駆け抜ける森の中で、弥生は疾駆している一台の馬車を見つけた。どうやら、見た感じ何かから逃げいるようだ。そう思いながら、彼らの頭上の上から眺めていると、見るからに柄の悪そうな輩が場所を馬を走らせていた。
声をかけるのがベストだろうか。いや、ここは見なかったことにして逃げるべきだろうか。
弥生は悩みつつも前者を取った。
それが彼女の運命を変えることになるとは、まだ知る由もなかった。
「やっ!」
可愛らしい声と共に落ちた弥生は敵の頭上に見事着地した。
「がはっ!?」
驚きの声と共に、一つの盗賊が馬から倒れ落ちた。
弥生はその盗賊の剣を奪い取り、一番前の馬に乗っていた盗賊に投げつけた。
「ぐわぁッ!!!」
テンプレ的な断末魔を上げ、剣が突き刺さった盗賊が落ちる。御者を失った馬は足を止め、周りを探るようにして見ている。
「襲撃かッッ!」
隊長のような男が声を張り上げる。
「ふ、不明です!」
「不明だとッ!! 何人が落とされた!」
「二人です!」
隊長は頭を回して考える。
(落ちつけ、俺! こんな修羅場、経験してきただろう。敵は恐らく一人。強襲したということは、相当な強者。ここは追跡を止めて、迎撃すべき……!)
「全員、馬を止めろ! ここで襲撃者を迎撃するんだ」
盗賊団の団員から了解の声が上がる。
馬が足を止め、全員、抜剣する。
スラリと抜かれた剣は月光を受け、銀色に鈍く光り、如何に剣が鋭利か……剣に詳しくない者にも見てとれる。
だが、弥生は鋭い踏み込みで盗賊を蹴り飛ばした。
「ガッ!?」
流石に一撃では沈まない。
「冷静に、動く……先生も言ってた」
迫りくる敵の攻撃をバックステップで避けながら、要所要所で攻撃を寸断するような回し蹴り。そして、敵の急所への前蹴り。
「武道の使い手だ! 気を付けろ!!!」
隊長の怒号。
弥生は落ち着いて、腰を落とし、迎撃の態勢を取る。
片手に先ほど倒した盗賊の剣。
「ハッ!」
一瞬の踏み込みで、距離を詰め、フェンシングのように鋭い突きで、相手の首元を狙う。
「くっ!」
流石は隊長。弾きにくい突きを見事弾き、一転、攻勢に出る。
彼の振るう太刀筋には確かな修練が見てとれる。弥生は彼の斬撃を払うようにして捌くが、如何せん、ここ数年、剣を触っていなかったことが如実に表れている。対して、彼の剣撃はしっかりと相手を捉え、数秒の攻撃で弥生を大きく後退させた。
「ほう。中々やるようだな。小娘」
落ち着いて来たのか、語りかけるような口調で隊長は弥生に言う。高圧的な態度。弥生へのプレッシャーだろう。
「だが、ここまでだ」
残りの盗賊団が、一斉に跳びかかるようにして攻撃を仕掛けた。
荒れ狂う嵐のような剣撃を、弥生は避ける。避ける。避ける。
だがしかし、流石に数名の同時攻撃は静かに蝕むように、弥生に傷をつけていく。
「もう少し……!」
弥生の狙いは別のところにあった。
恐らく、戦闘が長引けば長引くほど、可能性は高まる。
そう考え、剣を振ろうとした瞬間、後ろから声が聞こえた。
「嬢ちゃん! 大丈夫か」
颯爽と現れたのは、用心棒のような二人の男だった。
「だ、大丈夫です!」
弥生は咄嗟に返事をする。だが、それに気取られ、背後から弥生に向かって斬撃が飛ぶ。
「女の子を多数で成敗しようとするのは感心しないねぇ」
そうやって高身長の男が抜剣。そのまま盗賊へ剣を向けて、言葉を紡ぐ。
「『加速』」
その言葉と共に彼は文字通り加速し、盗賊たちへと斬りかかる!
キンッ! キンッ!
二度の剣撃。だが、惜しくも弾かれる。
弥生はバックステップをして、助けてくれた男の近くへと寄る。
「我は風なり――『韋駄天』ッ!」
簡易的な詠唱が聞こえ、そのあとに遅れてつむじ風が巻き起こる。周囲の空気さえ置き去りにして、男は走りだした。
シュンッ!と一閃。鈍く白銀色に空気が光ったかと思うと、盗賊の男が血をダラダラと流し倒れこむ。
「ひぃっ!」
弥生は流石に見慣れてない攻撃に目を瞑る。そんな弥生の様子を見かねてか、もう一人の男が覆い被さるようにして、視界を遮ってくれた。
「大丈夫だ」
力強く、優しく語りかけれた声は弥生を不思議と安心させた。
――戦いは続く。
高速で移動し斬撃を繰り出す男。その攻撃を防ごうと、剣を構える残党。
男はまたまた高速移動を開始する。まるで見えない敵に、痺れを切らしたのか、出鱈目に剣を振りだす盗賊。ブンブンと勢いよく振られた剣は、惜しくも一撃も掠らせることなく、男は彼の腹を切り裂く。
深紅の血が地面を紅色に染め上げる。
そして、後二人。
さしもの残党も分が悪いことを悟ったのか。二人でコンビネーション技のように息のあった斬撃を繰り出す。袈裟、突き、薙ぎ……バランスの良く二人は技を紡ぐ。
だが、カキンッと見事に弾かれる。
胴ががら空きになった盗賊を、男が見逃すはずなく、綺麗な突きを決めた。
「うぐぅ!」
焼けるような痛みに思わず腹を押さえ倒れこむ盗賊。もう一人の男はガクガクと膝をふるわせている。悪逆非道を尽くしてきた盗賊も怯えているのかわからないが、「ウォオオォオオ」という掛け声と共に突っ込んでくる。
ただ片翼を失っている小鳥に負けるはずが一厘もなく……男は振り払うような横薙ぎで胴を切り裂いた。
これで盗賊は隊長を除き、全滅した。
「チッ! やっぱりお前らの仲間だったか……!」
隊長の男がそう叫ぶ。が、弥生だけは得心が行かない。用心棒風の男たちは二ヤリと笑い、隊長に返す。
「おう。可愛い女の子は皆、仲間だ! 貴様らのような下賤の輩にやらせるわけにはいかない」
(残念なやつ……)
弥生は若干ジト目で、そう言い放った男を見た。彼はドヤ顔をしている。
「ふん。貴様らこそ、下賤の輩だ。女子なら、誰でもいいという辺り、ただの下半身の奴隷ではないか!」
「はぁっ!? ジジイがそれ言えた口か?」
(男って馬鹿ばっかね)
戦闘の中での極度の疲弊感はどんどん呆れへと変わっていく。
「とりあえず、貴様は死ね」
「同感だ。死ねッ!」
用心棒の男と隊長はお互いに剣を構える。
白銀の剣と白銀の剣。両者同時に剣を振るう。それはドンドン加速していき、相手の肩から腰にかけて切り裂く軌道を描いた。隊長の方が僅かに振り遅れたのか、途中で剣の軌道を変え、受けの姿勢を取る。
「ぐぅ」
キンッ! という金属と金属が重なりあう高い音が響く。
男は更に剣を振るう。
縦横無尽に振るわれる剣は自由自在という言葉が相応しい。だが、確実に……まるで重力に引かれるように自然に、敵という一点に収束していく。
普通の平均的な雑兵ならこの時点で終了しているだろう。だがしかし、隊長も同じく修練を積んだ一流の剣士。
全撃を防ぎきった。
呼吸のために一旦、男が攻撃を止め、バックステップで移動する。隊長はそれを見逃さない。
「『狂斬』!」
掛け声と共に斬撃は伸びた――
白い一筋の光のようにして、斬撃は伸びていき、男を追尾するようにして放たれる。
「危ないッ!」
弥生は思わず叫ぶ。
だが、男は案外冷静に対処した。
「『魔壁』ッ!」
薄紫色のそれは、ホログラムのように空中に浮かび、実体化した。まるで金属の壁のように当たった瞬間に、斬撃が弾かれた。
「さて、じゃあ、これで終わりですねぇ」
もう一人の男が斬撃を拡張させる。
「『十字斬』ッ!」
拡張された斬撃は十字を描き出し、敵を斬り刻んだ。
「ふぅ。何とか勝利ですねぇ」
戦っていない方の男が呟いた。
(何でよ!!!)
弥生は心の中で突っ込んだ。
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