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生搾りだよまんちこさん
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カウンターへ戻った征矢と椿に、小さくなったメルシャが言う。
「その……すまなかった……」
征矢は意外なことに、メルシャではなく、椿を叱る。
「だから言ったでしょう。こいつにはまだ取材対応とか無理だって。今回はたまたま異世界の幻獣に理解が深い人だったからなんとかなりましたけど、もしそうじゃなかったら終わってましたよ」
「なんとかなったんだからいいじゃない」
椿はいつも楽観的。甥っ子の怒りなどどこ吹く風だ。
「あとおれの個人情報!」
「それもべつにいいじゃない。あんなカワイイ女の子からアプローチされてるんだからさー。ヒューヒュー。あんた意外とモテんじゃーん」
からかう椿。征矢はしかめっ面だ。
「そんなワケないでしょ。どーせ営業電話しかかけてきやしませんよ」
椿は、ふと真顔になって、店内をぐるっと見渡した。
「真面目な話、お客さまが少ない時間だったのは助かったわ」
椿の言うとおり、客がいるのは窓際近くの数席だけで、いちばん奥まったテーブルで起こったさっきの騒動はそこまで届いてはいない。アルルやミノンがきちんとサービスしてくれていたのも大きい。
ポエニッサが、がらんとした店内を眺めて言う。
「それにしても、ちょっとお客さま少なすぎませんこと? 昨日の勢いからすると、とっくに満席になっていてもおかしくありませんわ」
いわれてみれば、たしかに。
「あっ、理由はこれね!」
椿が携帯端末の画面を見て叫ぶ。椿が征矢たちに見せたのは、ぴかりそ@帰還兵の公式サイトだった。
今日の十三時から、市内のショッピングモールでサイン&握手会開催とある。昨日〈クリプティアム〉に殺到した近隣のぴかりそフォロワーたちは、今頃全員そちらに集結しているのだろう。
「短いブームだったのです」
しょんぼりとアルルがつぶやく。
「ま、まあものは考えようよ。昨日みたいな異常な集客が続いたらこっちの体がもたないでしょ。あはは。あはは」
椿がそらぞらしい笑い声をあげる。明らかに無理している。
征矢は、メルシャに視線を戻す。例のメイソンジャーがない。
「おい、さっきの瓶どうした。中身はちゃんと捨てたのか?」
「ユニカが預かるといって持っていった」
メルシャはカウンター裏にあるパントリーのドアを指差した。征矢の顔が曇る。
「ユニカが? なんだかイヤな予感がする」
そういえばあの一本角の姿がさっきから見えない。
征矢は即座に閉ざされたパントリーのドアを引き開けた。
コーヒー豆や茶葉、缶詰などが保管されている狭い食料庫の中で、ユニカは「でゅふふ」となにやら猥褻な薄笑いを浮かべ、今まさに「例のメイソンジャー」に口をつけようとしているところだった。
「おいやめろ馬子! 早まるな!」
征矢が怒鳴る。椿も、幻獣娘たちも悲鳴のような声をあげる。
「そうよ、やめなさい!」
「あ、あなたどれだけ変態ですの!?」
「もはや正気を疑うレベルなのです」
ユニカは平然と一同を見返す。
「なんでぇ? べつにおしっこ飲もうってわけじゃないでしょ? 無害な液体よ?」
「そうだけど! なんかイメージ的に!」
征矢の制止に、ユニカは余裕の笑顔。
「まあおしっこでも飲むけど! 処女のなら!」
「君すごいな! いろんな意味で!」
「それにね、処女マンティコアの洩らした毒には、不思議な薬効があるって噂もあるのよ?」
「眉唾くさい噂だな!」
椿たちも征矢に同調する。
「そうよ、やめておきなさい」
「やっぱり不潔ですわ」
しかしそれでも、ユニカはジャーを手放そうとしない。
「いやよ。だってコレ、万能の美容液だって話なんだもの」
突然。椿と幻獣娘たちが静かになる。
低い声で、椿が尋ねる。超真顔だ。
「詳しく聞こうじゃない」
「椿さん!?」
征矢は愕然として、態度を豹変させた女子たちを振り返る。
ユニカも真剣そのものの表情に。
「聞いたところではこの汁、服用すればデトックス効果でお肌つるつる、髪さらさら、ホルモンを活性化させてバストアップ、ヒップアップを達成しつつダイエットも期待できるらしいの」
「いや万能すぎだろいくらなんでも」
征矢は冷静だが、椿たちはキッとメルシャを見る。
「まんちこさん、それホント!?」
たじろぐメルシャ。
「そ、そんな話は、聞いたことはある……でも実際にやった者は……そ、それに、オレも恥ずかしいからやめて……」
メルシャの言葉が終わるのを待たず、椿と幻獣娘たちは、怖い顔でぞろぞろとパントリーへ入っていく。
「あ、あの、君たち……? まさか……」
唖然とする征矢とメルシャを残し、ドアを閉めながら椿が言う。
「ここからは女の子だけよ。しばらくお店よろしく」
「いや、ちょっと……」
ばたん。
パントリーのドアが閉じられた。
中でなにが行われているのか、征矢は想像したくもなかった。
「その……すまなかった……」
征矢は意外なことに、メルシャではなく、椿を叱る。
「だから言ったでしょう。こいつにはまだ取材対応とか無理だって。今回はたまたま異世界の幻獣に理解が深い人だったからなんとかなりましたけど、もしそうじゃなかったら終わってましたよ」
「なんとかなったんだからいいじゃない」
椿はいつも楽観的。甥っ子の怒りなどどこ吹く風だ。
「あとおれの個人情報!」
「それもべつにいいじゃない。あんなカワイイ女の子からアプローチされてるんだからさー。ヒューヒュー。あんた意外とモテんじゃーん」
からかう椿。征矢はしかめっ面だ。
「そんなワケないでしょ。どーせ営業電話しかかけてきやしませんよ」
椿は、ふと真顔になって、店内をぐるっと見渡した。
「真面目な話、お客さまが少ない時間だったのは助かったわ」
椿の言うとおり、客がいるのは窓際近くの数席だけで、いちばん奥まったテーブルで起こったさっきの騒動はそこまで届いてはいない。アルルやミノンがきちんとサービスしてくれていたのも大きい。
ポエニッサが、がらんとした店内を眺めて言う。
「それにしても、ちょっとお客さま少なすぎませんこと? 昨日の勢いからすると、とっくに満席になっていてもおかしくありませんわ」
いわれてみれば、たしかに。
「あっ、理由はこれね!」
椿が携帯端末の画面を見て叫ぶ。椿が征矢たちに見せたのは、ぴかりそ@帰還兵の公式サイトだった。
今日の十三時から、市内のショッピングモールでサイン&握手会開催とある。昨日〈クリプティアム〉に殺到した近隣のぴかりそフォロワーたちは、今頃全員そちらに集結しているのだろう。
「短いブームだったのです」
しょんぼりとアルルがつぶやく。
「ま、まあものは考えようよ。昨日みたいな異常な集客が続いたらこっちの体がもたないでしょ。あはは。あはは」
椿がそらぞらしい笑い声をあげる。明らかに無理している。
征矢は、メルシャに視線を戻す。例のメイソンジャーがない。
「おい、さっきの瓶どうした。中身はちゃんと捨てたのか?」
「ユニカが預かるといって持っていった」
メルシャはカウンター裏にあるパントリーのドアを指差した。征矢の顔が曇る。
「ユニカが? なんだかイヤな予感がする」
そういえばあの一本角の姿がさっきから見えない。
征矢は即座に閉ざされたパントリーのドアを引き開けた。
コーヒー豆や茶葉、缶詰などが保管されている狭い食料庫の中で、ユニカは「でゅふふ」となにやら猥褻な薄笑いを浮かべ、今まさに「例のメイソンジャー」に口をつけようとしているところだった。
「おいやめろ馬子! 早まるな!」
征矢が怒鳴る。椿も、幻獣娘たちも悲鳴のような声をあげる。
「そうよ、やめなさい!」
「あ、あなたどれだけ変態ですの!?」
「もはや正気を疑うレベルなのです」
ユニカは平然と一同を見返す。
「なんでぇ? べつにおしっこ飲もうってわけじゃないでしょ? 無害な液体よ?」
「そうだけど! なんかイメージ的に!」
征矢の制止に、ユニカは余裕の笑顔。
「まあおしっこでも飲むけど! 処女のなら!」
「君すごいな! いろんな意味で!」
「それにね、処女マンティコアの洩らした毒には、不思議な薬効があるって噂もあるのよ?」
「眉唾くさい噂だな!」
椿たちも征矢に同調する。
「そうよ、やめておきなさい」
「やっぱり不潔ですわ」
しかしそれでも、ユニカはジャーを手放そうとしない。
「いやよ。だってコレ、万能の美容液だって話なんだもの」
突然。椿と幻獣娘たちが静かになる。
低い声で、椿が尋ねる。超真顔だ。
「詳しく聞こうじゃない」
「椿さん!?」
征矢は愕然として、態度を豹変させた女子たちを振り返る。
ユニカも真剣そのものの表情に。
「聞いたところではこの汁、服用すればデトックス効果でお肌つるつる、髪さらさら、ホルモンを活性化させてバストアップ、ヒップアップを達成しつつダイエットも期待できるらしいの」
「いや万能すぎだろいくらなんでも」
征矢は冷静だが、椿たちはキッとメルシャを見る。
「まんちこさん、それホント!?」
たじろぐメルシャ。
「そ、そんな話は、聞いたことはある……でも実際にやった者は……そ、それに、オレも恥ずかしいからやめて……」
メルシャの言葉が終わるのを待たず、椿と幻獣娘たちは、怖い顔でぞろぞろとパントリーへ入っていく。
「あ、あの、君たち……? まさか……」
唖然とする征矢とメルシャを残し、ドアを閉めながら椿が言う。
「ここからは女の子だけよ。しばらくお店よろしく」
「いや、ちょっと……」
ばたん。
パントリーのドアが閉じられた。
中でなにが行われているのか、征矢は想像したくもなかった。
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