幻獣カフェのまんちこさん

高倉宝

文字の大きさ
25 / 55

まんちこさんとお風呂

しおりを挟む
(ふう……)
 征矢はゆっくりとバスタブに身を沈めた。
 今日も結局、ぴかりそのサイン会が終わった時間から、店内は常時満席の大忙しになった。おまけに不器用な新入りメルシャの面倒も見なくちゃならず、疲れはひとしおだ。
 こんなとき、征矢の長い脚もゆったり伸ばせる特大の湯船と、そこに満々とたたえられたお湯はなりよりのご褒美だ。
(しかしなんだな。ぜいたくな風呂場だな)
 征矢はあらためて、今いる浴室を見渡す。
 坂嶋椿は、稼いだ大金を惜しげもなくこの家に使っている。
 浴室はとくにこだわったそうで、バスタブも洗い場もアホかというほど広い。ちょっとした高級ホテル並みだ。庭に面したでっかいガラス窓にいたっては正気を疑う。落ち着かないことこのうえない。変態のバスルームだ。
 どんどん!
 突然、ドアが乱暴にノックされた。征矢はビクッとする。
「征矢どの。征矢どの」
 メルシャの声だった。
「なんだ。どうした」
「せ、背中を流してやろう。オ、オレのスペシャルサービスだ」
「いらん。帰れ」
 つっけんどんに征矢は返事する。が、メルシャは聞いていない。
「あ、開けるぞ」
「いらんと言ってるだろ」
 ガチャガチャ。ドアを開けようとしているが、そうはいかない。
 征矢はくつろぎ姿勢に戻り、せせら笑う。
「ふん。なんとなくイヤな予感がしたのでドアはロック済みだ。残念だったな」
 カチャ。解錠される小さな音。
 ドアが押し開けられ、バスタオルを体に巻いたメルシャが緊張気味に入ってくる。
「し、失礼するぞ」
「うわあああ! どうやって開けた!?」
 メルシャは小さなキーを見せた。
「毒液の礼にと、椿どのが合鍵を」
「あのババア……!」
 征矢は怒りの拳を水面に叩きつける。
 メルシャは後ろ手にドアを閉じ、またロックし直す。カチャ。
「おいなぜ鍵をかける。なんか怖い」
 伏し目がちに、メルシャは言う。
「オ、オレも、緊張しているのだ。なにしろ男子と混浴などはじめてのことで……」
「だからなぜ鍵かける。てか出てけ」
 ちらっ。メルシャはバスタブの中の征矢に目をやる。
 ぼっ。頬が一気に真っ赤になる。
「せ、征矢どのが……全裸で……!」
「おう、風呂だからな」
「は、はじめて見た……思ったよりアグレッシブな大きさと形状なんだな!」
「ほっといてくれ」
 さしもの征矢も、バスタブの中で思わず股間を隠す。
 メルシャは今さらながら体に巻いたバスタオルを手で押さえ、居心地悪そうに身じろぎする。
「オ、オレだって恥ずかしいのだ。あまり性的な目でじろじろ見ないでもらいたい……」
「だったら出てけって」
 しかしメルシャはかたくなに動かない。
「でもオレが背中を流してやれば、征矢どのはきっと汗とか涙とか汁とかいろんなものを出して喜んでくれると椿どのが……」
「あのババアほんとに余計なことを! あと汁ってなんだ!」
 メルシャは洗い場の床に正座すると、風呂椅子をガンと目の前に置いた。
「し、知らないけどオレがんばるから! さあ来てくれ! 出してやるいろんなもの!」
「やかましい」
 征矢はとりつく島もない。
 メルシャの表情が、すっとしおらしくなった。
「あ、あのな……オレ、征矢どのにお礼がしたいのだ」
 征矢は眉をひそめた。
「例? なんの?」
「今朝、ぴかりそが現れてオレが怯えていたとき、ずっとそばについてくれただろう……?」
「いや、あれは……」
 余計なことをしないように、お目付け役をしていただけだけど。
「それに、その、ぴかりその前でお洩らしをしてしまったときも、征矢どのだけがかばってくれた。オレ、うれしかった」
「そうだったか?」
 正直、征矢は覚えていない。
「だから、せめてこれくらいのことはさせてほしい……」
 そうか。こいつなりに考えたんだろうな。
 ……椿が横から余計な入れ知恵したらしいのは腹が立つが。
 征矢は少し表情を和らげる。
「わかったわかった。気持ちだけ受け取っておくよ」
「遠慮するな! さあ、こっちに来い!」
 メルシャは立ち上がって、征矢の手を引っ張ろうとする。
「いらんと言ってるだろ! 離せって!」
 征矢が力任せにメルシャの手をふりほどく。
 はずみでバランスを崩して、メルシャはバスタブの方に倒れてくる。
「ぎゃひんっ!」
 ざばん! 
 水を叩く音がして、湯がバスタブからあふれる。
(!?)
 征矢の視界は、なにかに遮られていた。
 温かくて、すべすべで、ぷにぷに、たぽたぽした弾力のあるものが顔を挟んでいる。
「あふう……んっ」
 メルシャが甘ったるい声をだす。
 征矢はそっと、顔にのしかかっているものを両手で押し上げる。
 それは、メルシャのたわわな胸だった。
 バスタオルははだけてずり落ち、征矢のすぐ眼前に、濡れて固くなった桜色の乳首が揺れていた。
 視線を上にやると、熱に浮かされたようなとろんとした目つきのメルシャが、じっとこちらを見下ろしている。
「征矢どのときたら、こんなところでいきなり陵辱行為とは……くっ、こ、この獣欲勇者め……!」
「ばっ……! ち、違うぞ! お前が勝手に倒れてきたんだろ!」
 征矢は慌てて、メルシャの胸を支えている両手を引っ込める。
 しかしメルシャは、征矢の上にまたがったまま動こうとしない。
「ああ、背中を流すだけと言ったのにこんな……ついに欲望のままにオレを慰みものにしようというのだな……うう」
「話聞けよ!」
 メルシャはまた、征矢の上にのしかかってくる。豊かな二つのふくらみが、再び征矢の顔面を「むにゅう」と圧迫する。
「オレを罵り、蔑み、ときにはちょっとくすぐったり叩いたりしながら敏感な反応を楽しみ、ついには嗜虐の限りを尽くす気か……や、やれるものならやってみろ! オレは、オレは耐えてみせるぞこの人でなし淫蕩勇者め! さあ、好きなところから責めるといい!」
 ハァハァとあえぎながらメルシャはくったりと征矢に体を預けてくる。なぜかしっぽは天井に向かってピーンと突っ張っている。
 その体の重みで征矢は半ばお湯に沈められ、鼻や口に水が入ってくる。
 ごぼごぼごぼごぼ。
 このままでは呼吸が止まる。
「いいかげんにしろ!」
 征矢はするりと下から体を入れ替えると、メルシャの頭をバスタブに突き出した蛇口の下へ固定する。
 水栓をひねって、吹き出す冷水を思いきりメルシャの顔に浴びせる。
「わぷぷぷぷ。やめて……ゴボッ! これは思ってたのとちょっと違う……ゴボボ! 許して!」
 いいかげんメルシャがぐったりしたところで、ようやく征矢は水責めを止めた。
「頭冷えたか」
 お湯の中で正座して、うなだれるメルシャ。さっきまでギンギンに伸びていたしっぽも、だらんとしてしまっている。
「うう、あんまりだ……今のはガチの虐待じゃないか」
「お望みのとおりだろ」
 メルシャは小声でぶつぶつ。
「オレが考えているのはそっちではなくて、もっと気持ちいいほうのりょうじょ……」
「なんか言ったか」
 ギロリ。征矢の視線がけわしくなる。
「な、なにも言ってない! 反省している……あの……」
「なんだよ」
「風邪ひきそうなので、そのー、このままちょっとあったまらせてもらっていいだろうか」
 メルシャの顔色は青く、唇がぷるぷる震えている。髪も冷たい水をかぶってびしょびしょだ。
 征矢も少なからぬ水飛沫を浴びて少し寒気を感じていた。
「まあいいよ」
 無愛想にそう言って、自分ももう一度熱い湯に身を沈める。
「感謝する……はうう」
 幸い、バスタブは広い。二人が並んで座ってもまだゆとりがある。
 征矢は、ちらりとメルシャを見る。
 透明なお湯を通して、メロンのような二つのふくらみが見える。
 左右ぴったり揃えた、太すぎず細すぎない太ももも。
 しおらしい表情のメルシャの横顔は、こうして見るとはっとするほど美しかった。髪の先から、唇から、したたる雫が妙になまめかしい。
(うっ!)
 征矢は急いで目をそらした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...