幻獣カフェのまんちこさん

高倉宝

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休日の朝ごはん

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 征矢と椿、それに幻獣娘たちは、ほとんど毎日揃って朝食をとる。
 そしてその朝は、ひときわゆったりとした朝食タイムだった。
 だって定休日だし。
 征矢とメルシャがやってきて、はじめての休日だった。
「定休日とはなんだ?」
 メルシャが難しい顔で征矢に尋ねる。
「お店がお休みになる日だよ」
 マグカップを手に、征矢は教えてやる。
「えっ。では、オレ今日はなにをすれば」
「好きなことするといい」
 急に羞じらいの表情を浮かべて、メルシャは小声で言う。
「好きなこと? じゃ、じゃあ陵辱……」
「おう、ひとりでがんばってくれ」
 征矢はもうメルシャに一瞥もくれない。メルシャはむくれる。
「陵辱がひとりでできたら世話はないぞ」
「知らん。みんなは今日はどうするんだ?」
 メルシャを華麗にスルーして、征矢はテーブルを囲んでいる幻獣娘たちに目を向けた。
 みんなそれぞれの顔を見交わすばかり。誰からも返事がない。
 ようやくユニカが代表で口を開いた。
「ほら、みんなこっちに来てまだ間がないから知り合いもいないし、まだお給料ももらってないからお出かけしようにもねえ」
「ああ、そうか。せっかくいい天気なのになあ」
 ミノンが訊く。
「そういう征矢さんは、どこか行くんだなも?」
 征矢は無意味に胸を張る。
「うむ。君らと同じだ。カネも予定もないぞ」
「あら、例のぴかりそさんとおデートじゃありませんの? ずいぶん親密におなりみたいですけど」
 ポエニッサがイヤミっぽく言う。
 一瞬「うっ」とたじろぎかける征矢。アルルやミノンが心配そうな目を向けてくる。
 とりわけメルシャは不安そうだった。
 昨日の「同伴出勤」は、幻獣娘たちにもいささかの動揺を生んでいる。
「あ、あれは、その、いうなれば営業活動だ。たとえ店外でも、ああいう太客はおろそかに扱えないだろ。でもオフ日に会ったりはしない。おれは仕事とプライベートはきっちり分ける主義だからな」
「へーえ。どうかしら」
「たとえ誘われたとしてもだ、さっき言ったとおりバッキバキの金欠だからな。どこにも行けん」
「あーあ、それはそれでしょっぱい話ですわね!」
 ポエニッサが天井を仰いで嘆息する。
 征矢は、さっきからしょぼついた目でブラックコーヒーをがぶ飲みしている椿に声をかける。
「オーナー、この子たちをどっか連れてってあげたらどうですか」
「無理。あたし寝てない」
 半死人の顔で椿は答えた。
「どうせゲームでしょ」
「だってほら、いちおーあたしもキャラデザインちょっと関わってるから仕方なくね。ほんと仕方なくよ? 言うなれば仕事の一環よ?」
 言いながらも、椿は絶対に征矢の目を見ない。
 ダメだこりゃ。
 征矢はあらためて、幻獣娘たちの顔を見渡した。
「あの、こういうことって聞いてもいいのかな。君たちはどうして、こっちの世界で働こうと思ったんだ?」
 すぐにユニカが答える。
「簡単に言っちゃうとやっぱりお金ねぇ。パンタゲアは仕事の種類も少ないし。こっちでは可愛い処女っ子ちゃんと触れ合いながら稼げるお仕事があるって聞いて、一も二もなく決めちゃった」
「君が言うといちいちいかがわしいな」
「将来的にはお金をたくさん貯めて美処女のハーレム作るの。いいでしょ。でゅふふ」
「ゲスい夢だな」
 ポエニッサはなぜか自慢気だ。
「わたくしは自己変革のためですわ」
「おお、なんかカッコいいな」
「当て所もなくふわふわ飛んで、たまに灰になって生まれ変わって同じ人生を繰り返すマンネリを打ち破ろうと、自分を新しい環境に置こうと思ったのですわ」
「意識高すぎてぐうの音も出ないな」
「わたくしこの世界で、うんと自分磨きをしたいと思ってますの」
 ポエニッサはドヤ顔を隠そうともしない。
「……だんだんうざくなってきた」
 一同の苦々しげな表情にも気づかず、ポエニッサは歌うように続ける。
「この世界にはわたくしのこの美しさをますます際立たせるお洋服やアクセサリー、エステなどというものもあると聞き及びますわ。たくさんお金を稼いで、そうしたものにどんどん使いたいのですわ。そう、それは明日の自分への投資!」
「最終的にミーハークソOLに落ち着いたな」
 続いてアルルが元気よく手を挙げる。
「はいっ。アルルは大きくなりたいのです!」
「無邪気か」
「こちらの世界は農業がたいへん進歩していると聞くのです。アルルがまだ見たこともないすごい肥料があるかもしれないのですよ。いつかそういうものを買えたらいいのです」
 征矢はしぶい顔になる。
「なるほどなあ。でも、あんまりヘンな薬に頼ってまで無理に大きくなることないと思うぞ、おれは」
 アルルの目が急にキラキラしはじめる。
「えっ、征矢さんは今のアルルのほうがいいのです?」
 征矢はやさしく答える。
「自然がいちばんだよ」
 なぜかメルシャがいきなり、「ああっ!」と声をあげる。
 征矢はじろっとそちらをにらむ。
「なんだ。うるさいぞまんち子」
 愕然とした面持ちで、メルシャはうめく。
「そうだったのか……それで征矢どのはオレに興味を示さなかったのか……!」
「ああ?」
「征矢どのは……征矢どのは、つるぺた幼女が好みだったのかあ! くっそう、このワガママ放題に発育した体が恨めしい!」
 自分の乳をわしわしと両手でつかむメルシャ。
 その頭に、征矢は無言で熱々のコーヒーポットを置く。
 じゅう。
「あーっ、あっつーい! 違うの!? 違うのか!? 違うんならよかったー! あーっ、ごめんなさーい!」
 メルシャが脳天をおさえて床を転がりまわるのを一顧だにせず、征矢はミノンへ顔を向けた。
「牛子はどうなんだ?」
 ミノンはなぜか顔を真っ赤にしてうつむいてしまう。
「う、うちは……べつに、そんな大それたことは……」
「しかし何の目的もなく、わざわざ異世界まで出稼ぎには来ないだろう?」
「い、言ったら、みんな、笑うんだなも」
「そんなことないさ。この二人の夢だってたいがいヒドい」
 征矢はユニカとポエニッサを指差す。
 ミノンは観念したのか、消え入りそうな声で言う。
「あの……その……お、お婿さん……探し……」
「え。あ、そ、そうなんだ」
 笑うとか以前にリアクションに困る。
 みんな微妙な顔であらぬ方向を見つめる。
 両手で顔を覆ったミノンが、また小声で静寂を破る。
「……せめて誰か突っ込んで。うち恥ずかしくて死にそうだなも」
 征矢が努めて明るい声を出した。
「きっとすぐ見つかるさ。牛子は可愛いからな」
 はっとしたように、ミノンは顔を上げた。
「……ほんとにそう思うんだなも?」
 ユニカがすぐに言葉を重ねる。
「うんうん。それにおっぱい大きいし!」
 アルルも続く。
「そうですよ。おっぱい大きいのです」
 ポエニッサはいくぶん悔しそうだ。
「とにかくおっぱいはあるのですわ」
 椿もうなずく。
「なにしろおっぱいがね」
 最後にメルシャが雑な相槌。
「はいはいおっぱいおっぱい」
 ミノンはばったりとテーブルに突っ伏した。
「んもー! みんなキライなんだなもー!」
                              
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