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まんちこさん下着を買う 1
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征矢は、いたって不機嫌だった。
まったりした朝食がすんで、片付けが始まった頃、突然、椿が思い立ってしまったのだ。
「征矢、あんたヒマなら、まんち子さん連れてお買い物行って」
「はあ。なに買ってきましょう」
さっき言ったように予定はないし、居候の身分だからお使いに行かされることにも文句はない。
ふつうの買い物ならば、だが。
椿はメルシャを指差す。
「ほら、この子着の身着のままでしょ。とりあえずの着る物あれこれと、あと身の回りのもの買ってあげて」
征矢の顔が急にくもった。
「えー、おれがですか? そういうのは幻獣同士のほうが……」
「あんたの預かり物件でしょ。ちゃんと責任持って面倒見なさい」
「そんな拾ってきた捨て犬みたいに」
メルシャが口を挟む。
「オレ、これでかまわないぞ。この服、動きやすくてたいへん気に入った!」
今着ているのは、椿からもらったイモジャージだ。下はセットのハーフパンツ。
「一年中それ一枚ってわけにも行かないでしょ。いちおう女の子なんだから、お出かけ着も少しはないと」
「べつに必要ないぞ。だいたいこっちの衣服はなんというか、非戦闘的だ」
「非戦闘的って……それにあんた、ブラもショーツもないでしょ」
「それも無用だ。なくてもなんとかなる」
椿は断固たる調子で告げる。
「こっちの世界だと要るの。ノーパンノーブラでお店に出られちゃたまらないわ。お店のサービス内容変わっちゃうでしょ。それにブラしないと胸の形崩れるよ。せっかく大きなきれいなおっぱいしてるんだから。これはオーナー命令よ。何セットかちゃんと買って、毎日着けること。征矢は責任持って買ってあげること。お金は預けるから」
ここで声を上げたのは、征矢だった。
「ちょっ! 下着買うのにまで付き合わないといけないんですか、おれ!?」
「なんてことないでしょ。この際だからあんた好みのランジェリー買ったげなさい。むひひ」
征矢にとって、椿は絶対権力者だ。それ以上の反論は無理だった。
そんなわけで、征矢はイモジャージ姿のメルシャを連れて駅前商店街への道を歩いている。
それだけならまだしも。
なぜかほかの幻獣娘たちも、全員ぞろぞろとうしろにくっついてきているのが納得行かない。
「なんで君たちも来るんだ」
恨みがましい征矢の視線を、幻獣娘たちはまばゆい笑顔で跳ね返す。
「だってヒマだから」
「ひとの買い物なんかつまらないだろ」
ポエニッサが答える。
「わかってらっしゃらないのね。女の子はお買い物が大好きなんですのよ。誰のお買い物だろうとね」
アルルもにこやかに言う。
「アルルたちもこっちに来てすぐ、やっぱりオーナーさんからお洋服とかのお買い物に連れていってもらったのです。とっても楽しかったのです」
「ま、まあよく考えれば君らが一緒のほうがいろいろ捗りそうではあるな。おれは女子の服のことなんかわからないし」
征矢は気の持ちようを変える。
ユニカがそんなの背中をぽんぽんと叩く。
「まっかせておいて! オサレ番長のゆにちゃんがカンペキコーデ仕上げたげる。で、征矢はどういう感じが萌えるの? 清楚系? 大胆系?」
気づけばいつの間にか呼び捨てだが、そこはもうスルーする征矢である。
「女の服なんか気にしたこともないな」
「あっちゃー。モテないねえ征矢は」
ユニカはころころと笑う。
「ほっといてくれ。まんち子の服なんだから、本人に聞いてくれ」
征矢の言葉を受けて、ミノンが隣りにいるメルシャに尋ねる。
「まんち子さんはどういう服着たいんだなも?」
メルシャはぐるっと首を巡らせ。幻獣娘たちの私服をひとわたり眺めた。
ミノンは巨乳を目立たせたくないのか、体の線があまり出ないカントリー風のワンピース。足元は飾り気のないベタ靴だ。
アルルはデニムのサロペットスカートとスニーカーの組み合わせでまるっきり小学生に見える。
ポエニッサは黒のニットに真っ赤なロングスカート。明色のストールを肩に羽織ったりして派手派手しい。靴はピカピカのハイヒールだ。
ユニカは髪と同じ純白の甘ロリ調パフスリーブワンピ。ショートソックスにレースアップパンプス。
腕を組んで、メルシャは考え込んだ。
「うーん。やっぱりオレは……強そうな服!」
「はい却下でーす」
オサレ番長ユニカはばっさりと切って捨てるのであった。
「で、いきなりここか」
征矢は絶望的な面持ちで、眼前のきらびやかな光景を見つめる。
ユニカが征矢たちを引っ張ってきたのは、ショッピングモールの中にある女性用下着の専門店。
(おれは外で待っていよう)
そう固く決意する征矢だったが。
征矢よりさらにショックを受けていたのが、メルシャだった。
「うおおお……な、なんだこの店は……ぴらぴらのちっこい布がこんなに!」
「うるさい。大きな声を出すな恥ずかしい」
征矢はささやくようにたしなめる。
「だって征矢どの! こんな小さいのが! これでどこをどうしろと!?」
メルシャが極小の紐パンティを両手で広げて征矢に見せる。
「やめろ。頼むからじっとしてろ。むやみに触るな」
必死に目をそらし、他人のふりをしながら征矢はさらに小声で言う。
「だってほら! こんなのなにも隠せない!」
近くにいた女性客(というか店内にいる客は当然のように全員女性だが)たちが、主に征矢の方を見てクスクスと笑っている。
他人のふり作戦、早くも破綻。
堪えきれず、征矢はぐぐぐっとメルシャに顔を近づける。
無表情だが、目の奥だけが悪鬼だ。
「やめろ。殺すぞ」
「だ、だって、オレ、こんなの穿けない……」
ふりふりのショーツを握りしめて、メルシャはなおも抗議する。
「こんなの……こんなの……うう、こんなの……」
なんだかんだぶつくさ言いながらも興味はあるようで、メルシャはしきりに店内を見回している。
「征矢さんも一緒に来てくださいです。まんち子さんが落ち着かないので」
アルルが冷静に言う。
「はいはい、腹くくって。行っくよ~」
ユニカもぐいぐいと征矢の背中を押す。
ああもう、恥ずかしいなあ。
征矢は顔を伏せ、長身の背中を丸めるようにして売り場へと入った。
まったりした朝食がすんで、片付けが始まった頃、突然、椿が思い立ってしまったのだ。
「征矢、あんたヒマなら、まんち子さん連れてお買い物行って」
「はあ。なに買ってきましょう」
さっき言ったように予定はないし、居候の身分だからお使いに行かされることにも文句はない。
ふつうの買い物ならば、だが。
椿はメルシャを指差す。
「ほら、この子着の身着のままでしょ。とりあえずの着る物あれこれと、あと身の回りのもの買ってあげて」
征矢の顔が急にくもった。
「えー、おれがですか? そういうのは幻獣同士のほうが……」
「あんたの預かり物件でしょ。ちゃんと責任持って面倒見なさい」
「そんな拾ってきた捨て犬みたいに」
メルシャが口を挟む。
「オレ、これでかまわないぞ。この服、動きやすくてたいへん気に入った!」
今着ているのは、椿からもらったイモジャージだ。下はセットのハーフパンツ。
「一年中それ一枚ってわけにも行かないでしょ。いちおう女の子なんだから、お出かけ着も少しはないと」
「べつに必要ないぞ。だいたいこっちの衣服はなんというか、非戦闘的だ」
「非戦闘的って……それにあんた、ブラもショーツもないでしょ」
「それも無用だ。なくてもなんとかなる」
椿は断固たる調子で告げる。
「こっちの世界だと要るの。ノーパンノーブラでお店に出られちゃたまらないわ。お店のサービス内容変わっちゃうでしょ。それにブラしないと胸の形崩れるよ。せっかく大きなきれいなおっぱいしてるんだから。これはオーナー命令よ。何セットかちゃんと買って、毎日着けること。征矢は責任持って買ってあげること。お金は預けるから」
ここで声を上げたのは、征矢だった。
「ちょっ! 下着買うのにまで付き合わないといけないんですか、おれ!?」
「なんてことないでしょ。この際だからあんた好みのランジェリー買ったげなさい。むひひ」
征矢にとって、椿は絶対権力者だ。それ以上の反論は無理だった。
そんなわけで、征矢はイモジャージ姿のメルシャを連れて駅前商店街への道を歩いている。
それだけならまだしも。
なぜかほかの幻獣娘たちも、全員ぞろぞろとうしろにくっついてきているのが納得行かない。
「なんで君たちも来るんだ」
恨みがましい征矢の視線を、幻獣娘たちはまばゆい笑顔で跳ね返す。
「だってヒマだから」
「ひとの買い物なんかつまらないだろ」
ポエニッサが答える。
「わかってらっしゃらないのね。女の子はお買い物が大好きなんですのよ。誰のお買い物だろうとね」
アルルもにこやかに言う。
「アルルたちもこっちに来てすぐ、やっぱりオーナーさんからお洋服とかのお買い物に連れていってもらったのです。とっても楽しかったのです」
「ま、まあよく考えれば君らが一緒のほうがいろいろ捗りそうではあるな。おれは女子の服のことなんかわからないし」
征矢は気の持ちようを変える。
ユニカがそんなの背中をぽんぽんと叩く。
「まっかせておいて! オサレ番長のゆにちゃんがカンペキコーデ仕上げたげる。で、征矢はどういう感じが萌えるの? 清楚系? 大胆系?」
気づけばいつの間にか呼び捨てだが、そこはもうスルーする征矢である。
「女の服なんか気にしたこともないな」
「あっちゃー。モテないねえ征矢は」
ユニカはころころと笑う。
「ほっといてくれ。まんち子の服なんだから、本人に聞いてくれ」
征矢の言葉を受けて、ミノンが隣りにいるメルシャに尋ねる。
「まんち子さんはどういう服着たいんだなも?」
メルシャはぐるっと首を巡らせ。幻獣娘たちの私服をひとわたり眺めた。
ミノンは巨乳を目立たせたくないのか、体の線があまり出ないカントリー風のワンピース。足元は飾り気のないベタ靴だ。
アルルはデニムのサロペットスカートとスニーカーの組み合わせでまるっきり小学生に見える。
ポエニッサは黒のニットに真っ赤なロングスカート。明色のストールを肩に羽織ったりして派手派手しい。靴はピカピカのハイヒールだ。
ユニカは髪と同じ純白の甘ロリ調パフスリーブワンピ。ショートソックスにレースアップパンプス。
腕を組んで、メルシャは考え込んだ。
「うーん。やっぱりオレは……強そうな服!」
「はい却下でーす」
オサレ番長ユニカはばっさりと切って捨てるのであった。
「で、いきなりここか」
征矢は絶望的な面持ちで、眼前のきらびやかな光景を見つめる。
ユニカが征矢たちを引っ張ってきたのは、ショッピングモールの中にある女性用下着の専門店。
(おれは外で待っていよう)
そう固く決意する征矢だったが。
征矢よりさらにショックを受けていたのが、メルシャだった。
「うおおお……な、なんだこの店は……ぴらぴらのちっこい布がこんなに!」
「うるさい。大きな声を出すな恥ずかしい」
征矢はささやくようにたしなめる。
「だって征矢どの! こんな小さいのが! これでどこをどうしろと!?」
メルシャが極小の紐パンティを両手で広げて征矢に見せる。
「やめろ。頼むからじっとしてろ。むやみに触るな」
必死に目をそらし、他人のふりをしながら征矢はさらに小声で言う。
「だってほら! こんなのなにも隠せない!」
近くにいた女性客(というか店内にいる客は当然のように全員女性だが)たちが、主に征矢の方を見てクスクスと笑っている。
他人のふり作戦、早くも破綻。
堪えきれず、征矢はぐぐぐっとメルシャに顔を近づける。
無表情だが、目の奥だけが悪鬼だ。
「やめろ。殺すぞ」
「だ、だって、オレ、こんなの穿けない……」
ふりふりのショーツを握りしめて、メルシャはなおも抗議する。
「こんなの……こんなの……うう、こんなの……」
なんだかんだぶつくさ言いながらも興味はあるようで、メルシャはしきりに店内を見回している。
「征矢さんも一緒に来てくださいです。まんち子さんが落ち着かないので」
アルルが冷静に言う。
「はいはい、腹くくって。行っくよ~」
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ああもう、恥ずかしいなあ。
征矢は顔を伏せ、長身の背中を丸めるようにして売り場へと入った。
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