女子だけどダンジョンマスターやってます

ストロボフェア

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番外編1 チョコのお散歩

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ーー
〈銀狼の牙〉リーダーの話

おまえは息をつくことも出来ない恐怖をあじわった事があるか?

オレはある。


あるダンジョンの中でベヒモスでくわした時の事だ
おっとり刀で飛び出したはいいが
厄災とも言われる圧倒的な存在の前に
一瞬で吹き飛ぶ覚悟をした





あの絶望と恐怖の瞬間から数週間、〈銀狼の牙〉は同じダンジョンにいた

ダンジョンは一般開放されておらず、ギルドの許可があるものしか入場できない。
そのため案内兼、護衛ができるうちのパーティーにのみ指名依頼が来るのだ。
ダンジョンにギルドからの派遣として常駐しないかとの打診めいた話もある
ユリアーヌなどダンジョン側の人間かと思うほど内部に通じており、忙しい時など客に茶を出したりと手伝いまでしている。


くだんの厄災はオレの足元に擦りよっている
つぶらで罪のなさそうな目をしているとユリアーヌは言うが、どう見てもコイツはオレを脅している

「チョコ、オーリさんとお散歩行きたいの?」
「チョコはおじさんの事大好きだねー」
「オーリ、どうせする事ないなら行ってあげなさいよ」
女達に散歩用の紐を持たされ待合室を追い出される

ドアの外に出た途端に厄災の態度が一転する
気付いたら厄災は小山の様な大きさになり
余計な手間かけさせやがってと言わんばかりにオレを見下ろし、、、

ヤツの牙がオレに迫ってくる

そこから記憶がない



気がついた時は森の少し開けた所に転がされていた
あの世かと思ったが木々の隙間から見える山に見覚えがある。ダンジョンからさらに奥に向かったあたりだろう

助かった、
何がどうなったかはわからないが怪我はない。歩けば帰れる

腰に佩びた愛用の戦斧をじっと見つめ幸運に感謝していた

その時、ガッサガッサと草木を揺らす音が聞こえたと同時に厄災が顔を出した。
厄災から逃げきれるなんて思ったオレが愚かだったよ

口には何やら血まみれの暴れる獲物を咥えている
ヤツはオレの方にその獲物を放った

グレートベアだ。
ギルドではA級指定されている魔物。しかもかなりの大物。1人での討伐は推奨されていない

「GAAAAAAA---------!!!!!」

手負いのグレートベアは迷わずオレの方向に向かって走ってくる。だろうな、オレだって弱い方に逃げるさ

まぼろしに終わった幸運への感謝も一転、オレは逆上したグレートベアと向かい合わざるをえなくなった

グレートベアは右前脚が全く動いていない、後ろ脚も不自然にもつれている、前には進めるが横の移動は手間取るだろう。勝機があるならそこだ
オレは斧をかまえた



日がずいぶん傾いたころ、グレートベアの大きな体がオレと厄災の間で動かなくなっていた。

なんとかオレはグレートベアを仕留めた

途中、2回ほど危うい瞬間があったが、高みの見物をしていた厄災が後ろからグレートベアをどついて窮地から救ってくれた

息が上がったままだ
肩の古傷が痛む
戦斧を握る手も力が入らない
これでは厄災に一矢報いる処か、身を隠すこともあやうい

ガブリ、ゴリッ、ゴリッ

一瞬でグレートベアが厄災の口に飲み込まれ姿を消した

ガブリ

そしてオレも厄災の口にくわえられ、、
 異様な早さで森の中を移動していた。
あっという間にダンジョンに戻ってきた。黒色の扉の前に落とされる。

プッ、プッ、

厄災の唾液にまみれた塊が目の前に吐き出された
顎でうながされ恐る恐る拾うと赤い大きな魔石がひとつと、牙がひとつ。おそらくあのグレートベアの物だろう

ガチャリ
黒い扉が開き、店の女ゴブが顔出す
「チョコおかえり」

厄災がいつの間にか小型犬のサイズに戻ってオレの足元に顔を擦り付けている。
オレのズボンで返り血をぬぐっているのだろう

「チョコーー、もーー、そんなにぐりぐりしたらおじさんお店に入れないよ。

お散歩してくれてありがとうでしょ?

あれ、何くわえてんの?なんかの牙?おじさんにオモチャもらったの?

すいませーん、お散歩行ってもらったのに、オモチャまでもらっちゃって」

「チョコちゃん、あんよ拭いてあげましょうね」

「チョコ、いいものもらったわね」
女達がかしましく騒いでる

オレは何も言えずに魔石と牙を手に定位置のソファーへふらふらとへたりこむ
すかさずゴブが揚げたイモとシュワシュワする甘い液体と手拭きを置いていく



あれはなんだったのだろうか?

親猫が仔猫達に狩を覚えさせる為に、弱ったネズミを与えてで練習させるというが、、、オレは厄災に狩を仕込まれているのだろうか?
確かにあれでもの凄い経験値が入ったはずだ。 
そして魔石と牙も売ればそれなりの金になるだろう
厄災がオレに狩を仕込むメリットは何だ?

体はドロドロに疲れきって頭も朦朧とする一方、片隅では猛烈に思考が働いていた


、、、人がこのダンジョンを有益と判断したように、このダンジョンも客を有益と判断したと仮定しよう
有益な客の警護が弱すぎてダンジョンまでの道中に何かあったら困る、厄災はそういう判断に至ったのではないか?


「すいませーーん、チョコはおじさんの事が大好きみたいで。
オモチャまでいただいちゃってー

よろしかったらリボDでも飲んでください」

ダンジョンマスターのミカリが茶色の小瓶を10本ほど押し付けていった。簡単な回復薬との事だ

ー毒をくらわば皿までー

オレは小瓶の薬をあおった
薬が体内をかけめぐる

「ハハハ、、、」
疲労も傷も全てぶっ飛んだ。肩の古傷さえなりを潜めているようだ



その後も、毎回オレはチョコに「お散歩」に連れ出された。
その度に死にそうな目にあったが、茶色の瓶の回復薬を飲むと傷はすぐ治り、体力も嘘の様に回復した。
簡単な回復薬と言っていたがハイポーション、もしくはそれ以上の効能なのだろう。おかげで恐ろしい勢いでオレの経験値はたまっていった


最近は厄災が「お散歩」中にオレのフォローにまわることも随分と減った
そろそろ次の段階に移ってもいい頃だろう


オレはパーティーの剣士に声をかけた
「おい、ニュート
チョコがお前とお散歩に行きたいって言っているぞ」



ーー
貴族がダンジョンまで出向くとのことで、街道からダンジョンまでの道無き道の整備を依頼された。

おそらく、ある程度安全に歩けるようにルートの確保や倒木を退かしたりという意味あいの依頼であっただろう。

しかし厄災が街道までの障害物となる木や岩をバリバリと食べ、脚で地面を踏み固めていく。
もの凄い勢いで凹凸のない一直線の道が整備されていった。オレ達は街道へ続く方向を指し示しただけだった
あらためて厄災の名が大げさではなく事実を呆然と眺めていた

オレは「お散歩」の理由など些細なこと考えるのをやめた
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