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薄紅色の桜の話。

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   何故に人は薄紅色を纏うその木に心惹かれるのか。


 桜という木は春に一度だけ花を咲かせる品種が多いのだが、その種であっても気象条件によっては初冬の小春日和に花を咲かせる事がある。これを人々は狂い咲きという。

「狂い咲きなんて酷いよね。」

 そう言ったのはショートボブの美しい黒髪を持った女性である。姿形はまさに中肉中背といったところか。切れ長の目にすっと通った鼻筋、薄い唇は桜のそれを思わせる色をしている。それでもどこか親しみを感じさせる雰囲気はおそらく、ふんわりと丸い輪郭と滲み出る性格なのだろう。

「大切な人には最高の姿を見せたいだけじゃない。」

 彼女は愛おしそうに桜の大木に話しかける。その枝には一羽のハヤブサが居た。

「冬の雪原の似合う彼の方とともに美しくありたいのよ。」
桜香オウカ。言い訳はそれくらいにして、うっかり間違えただけだと認めたらどうだい?
 君はしっかりしているように見えて抜けているところがある。」

 桜香と呼ばれた女性は、フンっと桜から顔を逸らし下草を踏み鳴らしながらどこかへ行ってしまった。

 はて、いったい彼女は誰と話していたのか?

 彼女が遠くで小さく声をあげた。おそらく服を枝にでも引っ掛けたのだろう。
 しばらくそんな姿を見つめていた隼だったが、小さくひと鳴きした後に美しいと桜の花弁を引き連れて空へと舞い上がっていった。少々間の抜けた桜の主人とは別の方向へ。



   桜はいつでも待っている

   すると愛しい彼のモノやってきた

   慌てて薄紅、衣を羽織る

   おいおい待て待て

   それは違うぞ雪の花

   呆れた隼、彼のモノ探して飛んで行く
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