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② 北国の春
おわる
しおりを挟むああ、辛うてかなんわ。
いつまで、こないしてたらええの。
あれ。菫一家と幹也一家、来てんの? あんたら、仕事はええんかいな。孫らの学校は?
……なんや。
アタシ、相当ヤバいん?
逝くときはこう、フーッとラクに逝きたい。なのに、なんでか息を吸うてまう。
ここんとこ、ずーっとな。
全速力で徒競走してるみたいやねん。
ゴールがないねん。
ベッドの上にいるのに、どないなってんのや。自分が起きてんのか寝てんのかも、分からへん。
頭おかしなってる。
あ、元々か?
菫んとこの樹と菜々美は、成人してもまぁキャッキャとやかましい。
幹也とこの、ゆずちゃんは何年生やったっけ? まだまだ甘えん坊や。
みんな、早よ帰りや。道、混むし。
ごめんな。
お父さん、ごめんな。
みんな、ごめんな。
迷惑かけて、ごめんな。
「花ちゃん。俺やで」
樹か。どんどんデカなって、誰や分からんかったわ。
「やっほー、花タソ」
「花タソぉ」
菜々美、やめや。ゆずちゃんが真似する。
今時の子らは、ばあちゃんのことも名前で呼ぶん? 何なん、タソて。
「花タソに、コレあげる」
ゆずちゃんの小さな手がアタシの頭に触れる。なんやちょっと痒いけど、ばあちゃん動かれへんし。ゆずちゃんのええようにさしたろ。
「お。ばあちゃん、可愛くならはったねぇ」
あ、陽介さんも……あんた、また頭薄なってへん? ストレス? 菫が尻に敷き過ぎやろ。
「あ。花ちゃん、視線がハッキリしたはる!」
「ホンマや!」
樹と菜々美が口々に言う。
そうか。ばあちゃん、そんな虚ろな目つきしてたか……いよいよやな。
「それはな。珍しいもんを見る目や」
「そや。義兄ちゃんの頭に注目したはる」
そんなん言うたるなや、可哀想に。
確かに薄なってるけど。
菫に幹也。ニヤニヤしながらそんなん言うとこは、お父さんに似たな。晴子さんが「やめとき」と幹也を小突いた。ホンマ堪忍やで、陽介さん。
「何でもええわ。おっちゃん、羨ましい」
「そうやんなー。パパだけズルいわ」
菜々美は平たい機械を取り出した。
「ほら、ゆずちゃんも入り」
カション、カション。
写真を撮ってる。今の若い子は、その平たいやつに夢中やな。
「見て、花タソ」
菜々美が平たいやつを向けてくる。アタシのこと撮った?
どうせ変に写ってる。
元が元やから、取り繕う気にもならん。
「ほれ。花ちゃんの好きな歌やで」
樹が、アタシの傍らに平たいやつを置いた。聴き慣れた前奏が微かに耳に入ってくる。
おおきになぁ、樹。何やかんや言うて、あんたは優しい。
アタシな、この歌好きやねん。
アタシが住んでた山ん中は雪がどっさり降って。毎年、春が待ち遠しかった。
この歌みたいに、もう実家から包みが送られてくることはない。
たがいに好きと言い合えずに別れたような人もおらん。
特別なこと、なんもない。
ほやけど、なんか好きやねん。
なんかな、つい歌うてまうねん。
今は、鼻歌すら歌う力も無うなってもうた。
この身体じゃ、あの故郷へは帰れんな。
でもアタシ、ここも好きや。
こんなアタシを、お父さんはもらってくれた。
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