ヒカリとカゲ♡箱入り令嬢の夢見がちな日常♡

キツナ月。

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⚡️泥棒の章⚡️

⒈箱入り令嬢、ロミジュリ的展開に期待する

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 高級住宅街の夜は、それに相応しい静謐せいひつさの中にあった。
 それぞれの住宅の門灯と、等間隔に配置された街灯が上品に灯るのみである。


 その一角に、ひときわ目を引く白亜の豪邸がドドンとそびえ立っている。
 セレブな方々が住まう屋敷も怖気づく大豪邸だ。

 その豪邸の正面。
 二階の広々とした洋風バルコニーに、少女が一人たたずんでいた。


 (わたしだって、胸がキュンとするような恋をしてみたいわ!)


 先ほどから物思いにふけるこの少女。
 艶やかな黒髪が風になびくと、細い首があらわになる。
 童顔で美女とは言い難いが、可愛らしく整った顔立ちだ。

 
 彼女の祖父は財界の鉄人、胡桃沢くるみざわ春平しゅんぺい
 つまり彼女は、けっこうな”お嬢様”である。


 なるほど、よくよく見れば楚々とした雰囲気だ。
 しかし、茶色がかった大きな瞳だけは勝ち気に光っている。
 

 胡桃沢ヒカリ。
 彼女の側には常に護衛がつく。
 通うのは名門の女子校だ。
 恋愛対象になりそうな異性との交流は皆無である。


 17歳というお年頃にもかかわらず、ヒカリは恋をしたことがない。
 憧ればかりが募るのだった。


 今もわざわざレース生地のロングワンピに着替えて寒風にさらされているのは、「ロミジュリ」的展開に憧れてのことである。


 雰囲気を出すため、部屋の灯りは消した。
 他の部屋と玄関ポーチの灯りにぼんやり照らされて、ヒロインの気分を味わうヒカリお嬢様である。


 (ああ。誰か私をさらって……)


 恋を知らないお嬢様の妄想は、今宵も膨らんでゆく。

 籠の中の自分を奪って行くのは、どんな人だろう。
 白馬の王子様は飽きた。
 ちょっと危険な香りがする方が良い。
 お嬢様の中では、ちょうどそういうのがブームなのだ。


 実在した大泥棒をモチーフにした物語や、『小さくなっても頭脳は大人』な探偵が主人公の漫画に登場する『怪盗なにがし』に影響されているのは言うまでもない。


 (誰かと取り合ってくれたらもっと嬉しいんだけど……。
 家にはおじいちゃんと執事の橋倉と、他の使用人しかいないし)


 妄想に浸りながら、妙なところで現実が顔を覗かせる。
 想像が広がらないのは、世間知らずであるが故か。


 ヒカリの両親は、ヒカリが小学校へ上がった頃に不慮の事故で亡くなっている。
 遺されたヒカリを可哀想に思った祖父は、ヒカリのことをそれはもう過保護に育てた。


 ヒカリは、祖父や使用人たちに常軌を逸するほど甘やかされて17歳になった。


 本当にさらわれたところで、その後待ち受ける苦労など何も分かっちゃいないのである。


 と、そこへ。
 高級住宅街には似つかわしくない足音が近づく──。






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