ヒカリとカゲ♡箱入り令嬢の夢見がちな日常♡

キツナ月。

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⚡️泥棒の章⚡️

⒉泥棒、初っ端から切羽詰まる

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 (ああっ……ヤバい!)


 先刻から切羽詰まっているこの男。
 お察しの通り、泥棒である。


 彼は今、トイレを探している。
 でも見つからないのだ。

 彼は考えた。
 いい大人が粗相するくらいなら、その辺で用を足してしまおうかと。
 褒められた行為ではないが致し方ない。緊急事態だ。
 ……お食事中の方、大変申し訳ない。しかし。


 (くっ……駄目だ!
 腹の具合まで悪くなってきやがった……!)


 どこまでもツイていない男である。


 (生き地獄だ!!)


 腹の中で、腸がのたうち回っている。

 
 通称「カゲ」。それが彼だ。
 それ以外は全て謎──。

 泥棒の素性が簡単に割れてしまっては困るのである。


 カゲは、泥棒界では少々名が通っている。
 理由わけは、勘の鋭さと逃げ足の速さであった。


 同業者たちは口を揃えて言う。
 自分と組んでくれないか、見張りだけでもいい、分け前ははずむ、と。
 それくらい、泥棒界では逃走ルートの確保が重要なのである。


 しかし、カゲは仲間と組んで「仕事」をすることはない。
 誘いを受けるたび、カゲは腹の中で叫んでいる。
 おまえらは何も分かっちゃいない! と。


 実はカゲの「勘」が発動する時、身体にはある苦痛を伴っている。
 それは──。


 (仕事の前に、ちゃんとトイレ行ってるのに……!)


 この男、危険を察知するとトイレに行きたくなるのだ。強烈に。

 彼は逃げ足が速い訳でもないし、的確な逃走ルートを見出せる訳でもない。
 トイレを探して彷徨さまよっているだけなのだ。


 カゲは、この「強烈にトイレに行きたくなる」状態を「波」と呼んでいる。
 どう格好をつけても、ただトイレが近いだけなのだが……。


 (こんなこと、カッコ悪すぎて誰にも言えやしねえ!)


 泥棒稼業には向いていないように思われる。
 しかし彼がトイレを欲する時、危機が迫っているのもまた事実。
 確率は百発百中だ。


 ならば。
 トイレの位置情報を事前に調べておけば、と言いたくなる。
 しかしカゲ曰く、それは泥棒としてのポリシーに反するのだとか。

 「獲物を断念することを前提に、トイレの場所を調べておくなんて有り得ねぇ!」

 だそうだ。

 
 つまらない意地のせいで、今日もトイレを探して彷徨うカゲ。


 (あれ? なんか楽になってきたぞ……)


 確かめるように腹をさすりながら、近くの壁にもたれる。
 そこでハッとした。

 いつの間にか、高級住宅街に入り込んでしまったらしい。
 カゲがもたれかかっているのは、その中でも群を抜いて立派な白亜の豪邸の外壁だった。




 

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