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🏥お医者さまの章🏥
13.なお、泥棒は真に受けたまま
しおりを挟む春平はゆっくりと玉露を口に含み、遠くを偲ぶように虚空を見つめた。
「本当に、歳を追うごとに……」
橋倉も感慨深げに言葉を切る。
食堂に再び静けさが訪れた。
冬子が言う「お兄ちゃん」とは胡桃沢家の長男であり、ヒカリの亡き父だ。
「でもね。これは私の直感なんだけど、彼がいればヒカリちゃんは大丈夫な気がするの」
「フォ。そうか」
末娘にも甘い春平は、彼女の話を真っ向から否定することはない。
「でも、すごいヘンな奴じゃぞ」
先ほどよりは冷静に見える主を横目に、橋倉は少し安堵した。
さっきの発言は、きっと乱心してしまっただけなのだ。
もう忘れているだろう。
そうでなければ困る。何しろ、奴は泥棒なのだから。
「冬子様。今日はお夕飯もご一緒に?」
橋倉は、気を取り直して執事の顔に戻った。
「うん」
「それがいい。ゆっくりしていきなさい。ヒカリも喜ぶぞ」
「棚ボタ万歳!」
カゲは、真に受けたままだった。
ウキウキと自室へ向かう。
夜ごと屋敷内を物色せずとも、ジジイが死ねば莫大な遺産が転がり込んでくる。
「天下の胡桃沢だ。すげー額になるだろうな」
ただ待っていればいいのだ。護衛の仕事もそれまでの我慢。このカビ臭い部屋とも、もうすぐおさらばである。
カゲは、埃っぽいソファにゴロリと横になった。
(あれ?)
しかし、すぐに違和感を覚える。
何かが足りないような──。
「うおっ!? 全然トイレに行きたくねえぞ!」
彼は飛び起きた。
「そうか……。そういうことか!」
尿意が来ない。即ち危険が遠いということ。
つまり、始めからこうしておけば良かったのだ。
彼はそう解釈した。
ヒカリと形だけの結婚をして、胡桃沢の財産を相続する。
そうすれば尿意に悩まされることはない。
もう、治ったも同然なのだと──!
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