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つぐみ
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運命的な出会いを果たした23歳の男女。
2人が親密になるのに、時間はさほどかからなかった。
「きっと運命なんだ。
俺は、君と出会うために東京に来たんだよ」
明け方。うっすら光が差し込むベッドの上で、五百扇雪彦は、名残惜しげに風岡つぐみの耳に囁いた。
雪彦が情熱的に囁くと、つぐみはいつも微笑して彼の胸に身体を預ける。
つぐみは積極的に甘い言葉を口にすることはないが、雪彦はそれでも満足しているようだった。
「俺は真剣なんだ。結婚しよう」
雪彦は、この日も真剣な様子で言った。
「まだ早いわ。もう少し、恋人同士でいたいの」
つぐみは困ったように微笑し、コーヒーを淹れに立ち上がる。
ここは雪彦の部屋だが、つぐみは物の置き場に迷うことはない。この1Kの部屋には、つぐみの私物が当たり前のように収まっている。
雪彦のスマートフォンが鳴った。
彼は初め、先日の着信に気づかなかったことを詫びているようだったが、やがて「そんな……」と言ったきり絶句する。
雪彦はそのまま電話を切ってテレビをつけ、ニュースを放送しているチャンネルに合わせた。
【岐阜県の山中で、白骨化した遺体が発見されました。
昨日午後1時頃、山を管理する自治体の職員が、土から一部はみ出した状態の遺体を発見し、警察に通報しました。
先日の大雨の影響で、埋められていた遺体が露出したものと思われます。
遺体の身元は分かっていませんが、警察では、5年前の『岐阜 資産家強盗殺人放火事件』から行方不明になっている、五百扇影彦さんではないかとみて調べを進めています。】
マグカップが、けたたましい音をたてて床に落ちた。
「ごめんなさい! 私ったら」
つぐみは、慌てて割れたカップを片付け始めた。
雪彦はテレビの前に座り込み、呆然としている。
「雪彦さん?」
溢したものの始末を終えてからも、雪彦は微動だにしない。
つぐみが何度か呼びかけると、ようやく「ああ」と呻くように応じた。
「警察から連絡が……これ……」
雪彦は震える指でテレビを指す。
つぐみが雪彦の背に手を置くと、彼は堰を切ったように胸中を曝け出した。
「俺の弟なんだ、双子の。
5年前の事件の、俺は、あの家の」
つぐみは、全身を震わせる雪彦を抱きしめる。
「そうだったの……。
私、テレビであなたと同じ苗字を聞いて驚いたわ」
子どもをあやすように優しく背を撫でられた雪彦は、縋るように、つぐみの胸に顔を埋めた。
どれくらい抱き合っていただろうか。雪彦が少し落ち着いた声を出した。
「一度、帰らなければいけない」
「ええ。早い方が良いかもしれないわね」
雪彦が、つぐみを掻き抱いた。
「一緒に来てくれないか」
つぐみは肩をビクッと揺らし、強い力で雪彦を引き離す。
「嫌よ!! もう、あっ」
つぐみが口を押さえた。
雪彦は、聞いたこともない彼女の剣幕に戸惑ったような顔をする。
「ああ、ごめんなさい。私、動転してしまって」
今度は、つぐみが雪彦の胸に取り縋った。
良いんだよと呟いて、雪彦はつぐみの身体を手でなぞり始める。
「ごめん、無茶を言って」
言葉と裏腹に、雪彦の手の動きは切迫していく。
つぐみを床に押し倒した時、インターホンが鳴った。
2度、3度と繰り返されるが、雪彦が構う様子はない。
だが、外にいる来訪者も諦めて引き返すつもりはなかったようだ。
「五百扇さん! 居るんでしょう!?
分かってるんだから!」
2人が親密になるのに、時間はさほどかからなかった。
「きっと運命なんだ。
俺は、君と出会うために東京に来たんだよ」
明け方。うっすら光が差し込むベッドの上で、五百扇雪彦は、名残惜しげに風岡つぐみの耳に囁いた。
雪彦が情熱的に囁くと、つぐみはいつも微笑して彼の胸に身体を預ける。
つぐみは積極的に甘い言葉を口にすることはないが、雪彦はそれでも満足しているようだった。
「俺は真剣なんだ。結婚しよう」
雪彦は、この日も真剣な様子で言った。
「まだ早いわ。もう少し、恋人同士でいたいの」
つぐみは困ったように微笑し、コーヒーを淹れに立ち上がる。
ここは雪彦の部屋だが、つぐみは物の置き場に迷うことはない。この1Kの部屋には、つぐみの私物が当たり前のように収まっている。
雪彦のスマートフォンが鳴った。
彼は初め、先日の着信に気づかなかったことを詫びているようだったが、やがて「そんな……」と言ったきり絶句する。
雪彦はそのまま電話を切ってテレビをつけ、ニュースを放送しているチャンネルに合わせた。
【岐阜県の山中で、白骨化した遺体が発見されました。
昨日午後1時頃、山を管理する自治体の職員が、土から一部はみ出した状態の遺体を発見し、警察に通報しました。
先日の大雨の影響で、埋められていた遺体が露出したものと思われます。
遺体の身元は分かっていませんが、警察では、5年前の『岐阜 資産家強盗殺人放火事件』から行方不明になっている、五百扇影彦さんではないかとみて調べを進めています。】
マグカップが、けたたましい音をたてて床に落ちた。
「ごめんなさい! 私ったら」
つぐみは、慌てて割れたカップを片付け始めた。
雪彦はテレビの前に座り込み、呆然としている。
「雪彦さん?」
溢したものの始末を終えてからも、雪彦は微動だにしない。
つぐみが何度か呼びかけると、ようやく「ああ」と呻くように応じた。
「警察から連絡が……これ……」
雪彦は震える指でテレビを指す。
つぐみが雪彦の背に手を置くと、彼は堰を切ったように胸中を曝け出した。
「俺の弟なんだ、双子の。
5年前の事件の、俺は、あの家の」
つぐみは、全身を震わせる雪彦を抱きしめる。
「そうだったの……。
私、テレビであなたと同じ苗字を聞いて驚いたわ」
子どもをあやすように優しく背を撫でられた雪彦は、縋るように、つぐみの胸に顔を埋めた。
どれくらい抱き合っていただろうか。雪彦が少し落ち着いた声を出した。
「一度、帰らなければいけない」
「ええ。早い方が良いかもしれないわね」
雪彦が、つぐみを掻き抱いた。
「一緒に来てくれないか」
つぐみは肩をビクッと揺らし、強い力で雪彦を引き離す。
「嫌よ!! もう、あっ」
つぐみが口を押さえた。
雪彦は、聞いたこともない彼女の剣幕に戸惑ったような顔をする。
「ああ、ごめんなさい。私、動転してしまって」
今度は、つぐみが雪彦の胸に取り縋った。
良いんだよと呟いて、雪彦はつぐみの身体を手でなぞり始める。
「ごめん、無茶を言って」
言葉と裏腹に、雪彦の手の動きは切迫していく。
つぐみを床に押し倒した時、インターホンが鳴った。
2度、3度と繰り返されるが、雪彦が構う様子はない。
だが、外にいる来訪者も諦めて引き返すつもりはなかったようだ。
「五百扇さん! 居るんでしょう!?
分かってるんだから!」
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